「ちょっと違う街」になった2008年の秋葉原――街編5分で分かった気になるアキバ事情(1/2 ページ)

» 2009年01月05日 17時11分 公開
[古田雄介,ITmedia]

老舗PCパーツショップの閉店が相次ぐ

閉店した高速電脳。直前の日まで通常どおり新製品を入荷しながら営業していた

 自作PCパーツブームが落ち着いた2006年ごろから、アキバ電気街のPCパーツショップが閉店するニュースがたびたび報じられるようになった。2008年もその流れは続いており、1月31日に老舗ショップの高速電脳が突然閉店した。ハイエンドユーザー向けのマニアックなパーツを多くそろえる有名店だっただけに、ほかのショップも驚きを隠さず「本当ですか!? あそこはどんなことがあっても残る店と思っていたのに……」(ある店員さん)という声が各所で聞かれた。

 一方で、経営の立場からは高速電脳の失敗を冷静に分析する意見もあった。あるショップの店長は「高速電脳が本当に“小さなショップ”なら乗り切れたでしょう。しかし、メーカーの一時代理店を担ったり、メーカーと共同で製品開発を行うなど、比較的大規模な事業展開をしていました。業界が好景気のときはそれが強みになりますが、今は体が大きいだけ不利に働く時勢です。守りに入らず、攻めを続けたことでショートしてしまったのでしょう」と語った。

 4月15日に閉店したUSER'S SIDE秋葉原本店は、その“体を小さくする”戦略をとったとみることができる。コンシューマー向けの店舗を閉じ、法人/マニア向けカウンターを用意する「USER SIDE マルチ・スペース」を小規模にオープン。現在も、オンラインショップなどでのBTO販売や法人向け営業を中心に展開している。それでも、周囲のショップからは「あそこはいつ閉じても不思議じゃなかったけど、いざなくなってみると寂しいですね。同時に不安でもあります」との声が広がった。

 なお、JR秋葉原駅前に建つ石丸電気パソコン館も10月下旬から閉店セールを実施し、11月3日に閉店している。石丸電機は、2007年9月にソフマップが秋葉原地区の店舗を再編して「ソフマップタウン」をオープンさせたのと時を同じくして、2007年10〜11月に再編を実施。しかし、今後は店舗を集約して営業する方針をとるようだ。

 同じように系列3店舗でコンセプトを変えて営業していたフェイスも、10月にパーツ館とカスタム館を融合して「フェイス本店」をオープンさせている。同店のスタッフは「店舗を分散させると、最低限必要な商品や備品は重複するため、無駄が発生してしまいます。お客さんも、一カ所で購入できるほうが都合がいいと思いますし、ロスを省くよい機会だと思います」と語った。

USER'S SIDE秋葉原本店の閉店セール。突然のショートが起きない限り、通常は1〜2週間の閉店セールを実施したあとに店を閉じる(写真=左)。USER'S SIDE秋葉原本店の跡地にはフェイス PC館が入店した(写真=中央)。11月3日に閉店した石丸電機パソコン館(写真=右)

PCパーツの殿堂がまさかの営業中断

11月21日、TSUKUMO eX.前に並んだトラックと、運送業者たち

 電気街を取り巻く変化の波は、アキバのPCパーツショップの中でも最大規模の店舗数や販売数を誇る九十九電機にも影響した。10月30日、本業とは別に抱えた負債が主要因となり、九十九電機が民事再生法の適用を申請。その後も再建を目指しながら店舗では通常営業を続けていたが、11月21日に全店舗で突然営業を停止した。旗艦店舗であるTSUKUMO eX.の前には、差し押さえられた商品を積み込むトラックが並んだ。

 差し押さえを行ったのは、商品在庫を担保に九十九電機へ融資していたNECリース(現NECキャピタルソリューション)だ。同社の担当者は「九十九電機様が民事再生法の適用を申請した段階で、担保権を実行する考えはありました。現状のままでは商品在庫が目減りするいっぽうのため、一時的に裁判所に管理していただき、今後の話し合いができるようにと考えた次第です」とコメントしている。

 これに対して九十九電機は公式文書で不服の意志を表明。これに同調するユーザーもおり、各店舗に張り出された「営業中断のお知らせ」にはいくつもの応援コメントが書き込まれた。しかし、電気街では九十九電機に厳しい目を向けるスタッフが多かったのも確かだ。

 ある店長は「NECリースの行動は当然でしょ。民事再生法の適用を申請した時点で、支払いがショートしているわけだから、誰だって“金返せ”となる。九十九電機はなんとか説得すべきでしたが、うまくいかずに問題が表出してしまったと、そんな流れでしょう」と突き放している。

 この差し押さえによって九十九電機系列の閉店を予測したショップは多かったものの、九十九電機はNECリースとの話し合いのすえ、11月27日に元・ツクモ9号店を特設店舗に使って営業再開を果たした。差し押さえられた在庫ではなく、新たに入荷した商品のみで小規模な営業を行っていたが、それから1週間後にはフロア限定ながらTSUKUMO eX.での営業を再開するに至った。同店のスタッフは「本当にだめだと思いましたが、みなさんのご協力があってどうにか復活できました。まだ気を抜けない状況ですが、ご恩をお返しできるように精一杯がんばります」と語っていた。

 2008年末時点でTSUKUMO eX.やアキバにあるほかの九十九電機系列店は通常営業を行っており、製品の入荷も滞りなく行われているようだ。ただし、例年に比べて年末年始の営業は控えめで、12月31日から1月2日までは休業した。同店は「やはり在庫数の確保もあって、今回は長めにお休みをいただきます」と話していた。

11月27日にオープンした九十九電機の特設店舗(写真=左)。営業再開を果たしたTSUKUMO eX.(写真=中央)。1階のみの営業から、2〜4階と徐々に拡張していき、12月末までに通常どおりのスタイルに戻った(写真=右)

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