圧倒的ではないか――ベンチマークテストで見る「TS-639Pro」の実力“真・最強NAS”活用術 第2回(1/2 ページ)

» 2009年11月19日 11時55分 公開
[瓜生聖,ITmedia]

新ファームウェア3.1.2が公開

QNAP「TS-639Pro」

 TS-639Proのベンチマークテストを行う前に、2009年10月23日に公開された新ファームウェア3.1.2(Build1014)の概要を説明しよう。連載第1回掲載時の3.1.0(Build0627)からは2つ分のアップデートとなるが主な追加機能は次の通りだ。

 3.1.1ではシステム/HDD/CPU温度によるスマートファン機能(温度によるファン回転速度の制御)が追加されている。デフォルトではシステム温度47度未満、CPU温度54度未満、HDD温度48度未満のすべてを満たしている場合は低速回転に移行するようになった。また、システム温度53度以上、CPU温度62度以上、ハHDD温度54度以上のいずれかを検知すると高速回転に移行する。ユーザーが独自に定義してファンを停止させることもできるが、その場合はシステム温度のみでの指定になる。

 また、3.1.2ではRAIDの安定性向上のため、ウエスタンデジタルの一部モデルのNCQを無効にしている。このほか、データセキュリティにAES-256をサポートした。

スマートファンの設定画面(画面=左)。ファームウェアV3はグラフィカルでスマートなインタフェースが特徴。QNAPにも特設ページが設けられている(画面=右)

ベンチマークテストで見るTS-639Proの実力

 TS-639Proでは搭載可能なHDD台数が増えたこともあり、RAID構成のバリエーションが非常に多くなった。そのため、目的別に絞り込んだ構成でベンチマークを行っている。なお、ファイルシステムはすべてEXT3、テストPCにはPhenom II X4 945(3GHz)、メモリ4Gバイトを積んだWindows7機を使用した。テストに用いたRAID構成は、HDD6台によるRAID 0、HDD5台によるRAID 5、HDD6台によるRAID 6の3パターンだ。

  • 1、6台構成によるRAID 0

 まず初めに、高速性を求めた構成として6台でRAID 0を構築した。分散して書き込みと読み込みを行うシンプルなアルゴリズムのため、一般に高速化の効果が大きい構成となる。使用効率も100パーセントだが、裏を返せば冗長性がなく、データが分散して記録されるため、データクラッシュの確率が最も高い。しかし、ほかの機器でバックアップすることを前提とすれば選択肢としては十分に考えられる。

 RAID 0によって高速化されるのは内部転送速度であり、通常はそこにボトルネックのあるローカルドライブで利用されることが多い。NASの場合はネットワークやCPU処理速度などがボトルネックになっているとRAID 0の恩恵にあずかれない可能性もある。冗長化を犠牲にして速度が得られるかどうかがこの構成を使う判断基準になるだろう。

  • 2、5台構成によるRAID 5

 RAID 5は効率と冗長性を兼ね備えた構成だ。3台以上で構築でき、そのうち1台分が冗長化データになる。そのため、構成台数が増えれば増えるほど使用効率は向上するが、クラッシュの際の復旧作業中に別のドライブがクラッシュする危険性が増大する。

 TS-639Proでは6台構成によるRAID 5も可能だが、RAID 5のクラッシュ時の危険性を鑑みて今回は1台をホットスタンバイとする5台構成でテストを行った。

  • 3、6台構成によるRAID 6

 RAID 6はRAID 5構成の復旧時障害の対策として障害時のデータ復旧のためのパリティデータを2系統持つ。そのため、同時に2台のHDDがクラッシュしてもデータ復旧が可能だ。その半面、全体の2台分の容量を冗長化データとして使用するため、最小構成でHDDが4台、使用効率は全体の構成からHDD2台分を引いた容量になる。例えば、HDD4台でRAID 6を組んだ場合は使用効率が50パーセントまで下がるが、6台で構成した場合は67パーセントになる。

 また、パリティの計算量がRAID 5に比べて2倍に増え、CPU負荷も増大するため、CPUの高速化と搭載HDDの台数増加がなければ実用にはならない構成とも言える。今回は6台でRAID 6を構築した。

 さらに今回のベンチマークテストではそれぞれの構成に対してiSCSI接続とCIFS(Windowsファイル共有)の両方で計測している。iSCSI接続はSCSIプロトコルをTCP/IP上に実装したもので、複数クライアントから同時に共有することはできないものの、ローカルドライブ同様の操作性を実現しており、より高いパフォーマンスが期待できる。ここではターゲット作成時に容量を確保するパターンと、必要に応じて動的に容量を拡大するバーチャルスペースアロケーション(シン・プロビジョニング)の両方で計測した。バーチャルスペースアロケーションでは動的に容量確保を行うため、あらかじめ容量を確保する場合よりもオーバヘッドが生じることが予想される。

 なお、ベンチマークテストにはCrystalDiskMark 2.2によるシーケンシャル/ランダムリード・ライトのほか、Intel NAS Performance Test(以下NASPT)を用いたテストシナリオでパフォーマンスを測定している。

新規iSCSIターゲットの作成で「ディスクスペースを今割り当てる」にチェックを入れると作成時に全容量を確保する。チェックを外すと必要に応じて動的に容量確保が行われる(画面=左)。ボリューム管理画面。サポートしている6つの構成のうち、今回は3つの構成でテストした(画面=中央)。Intel NAS Performance ToolkitはNASの性能比較に用いられるパフォーマンスツールだ。Windows7で動作させるには最新版のv1.7.1をインストールしたうえでmsvcr71.dllを別途導入する必要があった。また、事務処理シナリオであるOffice Productibityはv1.7.1のものが動作せず、v1.7.0のものを流用している(画面=右)

CrystalDiskMark

 それでは結果を見ていこう。テストサイズ1000MバイトではRAID構成に関わらず、読み込みでiSCSIがCIFSの1.5倍程度高速というスコアが出た。RAID構成による差は順当にRAID 0がRAID 5/RAID 6の1.3〜1.5倍ほどで、RAID 5とRAID 6の差は小さかった。

 一方、書き込みではCIFSがぐっとスコアを上げており、シーケンシャルライトではRAID構成の違いはほとんど見られない。iSCSIはRAID 0ではCIFSに匹敵する速度であるものの、RAID 5/RAID 6ではCIFSの3分の1から4分の1ほどの速度に落ち込む。RAID 5/RAID 6では複数ドライブからの同時アクセスによって読み込みは高速化されるが、書き込み時はパリティの計算によって速度低下を生じるのだろう。結果がこれを裏付けている。

 一方、キャッシュの効果が出やすいテストサイズ100Mバイトでは、RAID構成による違いよりもプロトコルの違いが明確に現れた形だ。

CrystalDiskMark 2.2(テストサイズ1000Mバイト)の結果。RAID 0を緑系、RAID 5を紫系、RAID 6をオレンジ系のバーで示している。また、同系色のバーはiSCSI Fixed(サイズ固定)、iSCSI TP(バーチャルスペースアロケーション)、CIFSの順に薄い色で分けた。読み込みではiSCSIの高速性が見られるが、書き込みではRAID 5/RAID 6でのiSCSIの落ち込みが激しいのが分かる

キャッシュの効きやすいテストサイズ100Mバイトでは、読み込みではRAID構成によるレイテンシが隠蔽されたような格好となった。書き込みではテストサイズ1000Mバイト同様にiSCSIの落ち込みが見られる

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