「官に政策あれば民に対策あり」だった2009年の中国IT山谷剛史の「アジアン・アイティー」(1/2 ページ)

» 2009年12月30日 11時30分 公開
[山谷剛史,ITmedia]

「家電下郷」「以旧換新」で勝手にワクワクの巻

 2008年から引きずる世界的経済危機に対抗すべく、2009年から中国政府が実施した消費刺激政策「家電下郷」に、世界の電化製品メーカーは勝手に“ワクワク”していた。家電下郷とは、所得が少ない農村部の住民向けに、指定された家電製品を購入すると価格の13%に相当する政府補助金が支給されるというものだ。一方の「以旧換新」とは、都市部の住民向けの政策で、こちらは家電製品を買い換えるために古い製品を指定店で引き取ってもらうと、新しい製品が10%割引になるチケットが支給される。

 農村では、白物家電をひと通りそろえている世帯がまだまだ少ない。そのため、ぜいたくなPCより液晶テレビや白物家電に消費者の購買意欲が集中した。おかげで、家電下郷はPCの売り上げにほとんど貢献しなかったとみられている。

 それに対して、PCもすでに所有している都市部住民が対象だった以旧換新では、PCを政策指定店で引き取ってもらえれば10%割引券がもらえるとあって、特に液晶テレビの分野で需要喚起の効果があったとされている。筆者も「以旧換新」を訴求するPOPとともに“中国の”液晶テレビメーカーが繁華街や家電量販店で特設ブースを設けているのを中国のいたるところで見かけた。……もっとも、タダ同然のジャンクPCを中古市場で購入したうえで、買取店に引き取らせて割引券をせしめるヘビーユーザーも続出したが。

 携帯電話もまた、「家電下郷」「以旧換新」の対象ではあったが、2008年から人気が衰えぬ激安ノンブランドケータイこと「山寨機」のおかげで、“まっとうな”中国メーカー製携帯電話だけが対象の両政策もまったく効果がなかった。山寨機の生産地である深センでは、液晶テレビ、液晶ディスプレイ、そして、Netbookにいたる多くのカテゴリーでノンブランド製品が登場している。その激安価格と(農村の人には)魅力的なデザインで、2010年には中国全土の農村でいっそう普及するのではと“まっとうな”中国メーカーは危惧している。

ブラウン管テレビさえ「お金持ちの家に見にいく」という農村では、PCより必要な家電がいくらでもある(写真=左)。携帯電話が主流の「山寨機」にNetbookも登場した。ASUSのようでASUSでない「AXUS」の製品(写真=右)

中国のネットで飛び交う「和諧されちゃうよ!」ってなに?

 中国政府によるフィルタリングソフト「Green Dam」(中文表記は、緑■・花季護航。■は土へんに覇)の強制インストール政策とその実施未遂は、日本のマスコミでも大きく報じられた。インストール義務化の発表に、各国政府だけでなく、中国の一部のヘビーユーザーからも「言論の自由がなくなる!」と中国政府に反対する声が上がった。ヘビーユーザーの気質は万国共通らしく、「政府に迷惑かけないから勝手にネットをやらせろ」という「2009匿名網民宣言」が萌えキャラ「緑■娘」とともに個人ブログや掲示板のスレッドを駆け巡った。

 結局、この騒動は「実施の無期限延期」となり、2009年が終わろうとする今でもインストールされたPCは電脳街でまったく見かけない。それどころか、ハッカーによってフィルタリングソフトの構造が丸裸にされ、政府当局が指定したNGワードとNGサイトがヘビーユーザーの間に知れ渡ってしまっうという、なんとも“おいしい”状況も生み出してしまった。

 ただ、それ以上にこの騒動が中国政府に及ぼした深刻な影響は、それまで「知る人ぞ知る」にとどまっていた「政府がネットワークを監視している事実」がネット利用歴が浅い多くの一般的なユーザーですら常識となったことだろう。

 性的な話題であれ暴力的な話題であれ、消されそうな微妙な書き込みがあると、中国政府が目指す「和諧社会」をもじって「和諧されちゃうよ!」というコメントを書き込んだり、存在したはずのブログ記事がなぜか消えていると「かの記事は和諧されたようです」いう表現を多くのネットユーザーが当たり前のように書くようになった。

中国政府が強制導入を試みたフィルタリングソフトのわいせつ画像対処設定画面(写真=左)。しかし、ある歴史的な指導者の肖像画像を排除するという伝説を残した(写真=左)。そのフィルタリングソフトは中国人によって徹底的に分析され、中国政府がNG認定する単語がぞろぞろと判明した(写真=右)

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