日本電子出版協会(JEPA)は4月7日、電子書籍フォーマット「EPUB」の概要ならびにEPUBの日本語要求仕様案について説明する電子出版業界関係者向けのセミナーを開催した。
EPUBは米国の電子書籍標準化団体であるIDPF(International Digital Publishing Forum)が策定した電子書籍向け文書フォーマット。XMLやXHTMLといったオープンな標準規格がベースとなっていることから、Google Booksでの採用をはじめ、iPadや多数の電子ブックリーダーが対応しており、米国を中心に普及が進みつつある(Amazon.comのKindleはEPUBに対応せず、独自フォーマットのAZWを推進)。
ただし、EPUBコンテンツの記述方法に関する仕様のOPS(Open Publication Structure)2.0v1.0には、縦書きや禁則処理、ルビといった日本語固有の表記法が含まれておらず、日本語書籍をそのままEPUB化して提供するには問題も多い。
こうした中、JEPAでは同協会の会員企業がIDPFの設立当初から参加していた経緯もあり、2009年11月にEPUBの日本語化を推進する研究会を発足。2010年4月1日には日本語表記で固有の特徴を今後のEPUB仕様に追加するための「日本語要求仕様案」(草案)を一般公開し、意見や要望を広く募集している。
今後は漢字圏の中国や韓国とも連携しながら、漢字処理の標準化をIDPFに提言し、仕様の国際標準化を目指すという。
セミナーでは、EPUBの基本仕様や国内での事例なども紹介されたが、日本語要求仕様案の説明に最も多くの時間が割かれた。JEPA EPUB研究会の高瀬拓史氏は、仕様案の目的を「日本語表記固有の特徴を“早期に”EPUBの仕様に取り入れるために、“必要最低限の”要求事項を提示すること」と語る。
今回の仕様案が対象とするのはテキストを主体とした書籍のみで、フリーレイアウトで作られる雑誌などの出版物は考慮していない。主な理由としては、EPUBはPDFや画像データと異なり、固定されたページという概念が薄く、リーダーの画面サイズや解像度、フォントサイズに応じて1ページ内の文字量が可変する仕組み(リフロー)のため、凝ったレイアウトの出版物を電子化するのには向いていないことが挙げられる。
仕様案の主な内容は以下の通りだ。
このうち、縦組用と横組用の両方のスタイルシートを持てること(例えば、縦組の書籍を横組しか対応しないリーダーで表示した場合、レイアウトが保たれる必要があること)や、出版社によってルールが異なる場合もある禁則処理の扱い、ルビや圏点の要求範囲などは内容変更や削除の可能性があり、今後も議論していくとしている。
なお、説明後には高瀬氏がセミナーの出席者(出版業界関係者が多い)に対して簡単なアンケートを行った。仕様案の中で内容変更や削除の可能性がある項目についての意見を求めたところ、出席者の間で評価が分かれることが多かった一方、「日本でEPUBを普及させるタイムリミットはいつまでか」という問いについては、大多数の出席者が2010年末と答えていた(そのほかの選択肢は、2011年末/2012年末/何もしなくても普及する)。
今後、EPUBにJEPAの日本語要求仕様案が盛り込まれた場合、対応リーダーの国内販売や日本語電子書籍の増加、日本語電子書籍の海外販売なども容易になり、特に国内での電子書籍普及の足がかりになることが期待される(雑誌などフリーレイアウトの出版物を電子化するには向いていないという課題もあるが)。
米国を中心として電子書籍市場が急成長する中、国内では日本語固有の表記法に起因する電子書籍化の課題やフォーマット統一の難しさ、著作者との権利関係、課金モデルの問題、出版社・取次・書店に悪影響を及ぼす懸念など、さまざまな事情で電子書籍の本格普及には至っていない。
国内大手出版31社は日本市場に合った電子書籍のあり方を模索すべく、2010年3月24日に一般社団法人「日本電子書籍出版社協会」を正式に発足させたばかりだが、海外から急激に押し寄せる電子書籍化の波にどう対処するのか、早期の決断を迫られることになりそうだ。
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