高い人気で品薄状態が続く「MacBook Pro Retinaディスプレイモデル」。前回は、カメラマンの矢野氏による写真とともに、その高精細な画面や美しいボディを見てきたが、今回はサーモグラフィと騒音計を使って、発熱や騒音をチェックしていこう(関連記事:まるで“なめたくなる”ようなディスプレイ――写真で解説する「MacBook Pro Retina」)。
既報の通り、MacBook Pro Retinaディスプレイモデルは、従来機に比べて本体の厚さが6.1ミリも薄くなっており、MacBook Airとほとんど変わらないところまで薄型化されている。その一方で、基本システムはIvy Bridege世代のアーキテクチャに移行しており、ディスクリートGPUもGeForce GT 650M(グラフィックスメモリ1GバイトGDDR5)に強化された。2880×1800ドットの高精細パネルに最適化されたFinal Cut Pro Xでは、1080pの動画をプレビュー画面の枠内でそっくりそのまま確認でき、さらには1080pの非圧縮映像を4ストリーム同時に編集できるパフォーマンスを持つ。この性能が厚さわずか18ミリのボディに収められているというのだから驚くほかない。
ただ、そこで気になってくるのが発熱だ。ボディが薄くなれば、その分内部の実装密度は上がり、エアフローの確保などは難しくなる。また、ファンによって強力な冷却を行えば、ファンノイズが増大し、ユーザー体験を阻害してしまうことにもなりかねない。MacBook Pro Retinaディスプレイモデルでは、本体底面の左右側面前方に吸気スリットを設けてエアフローを確保し、ファンのブレード形状を非対称に設計し直すことで騒音を抑えたとしているが、実際のところはどうだろうか。
ここではNECAvio赤外線テクノロジーの赤外線サーモグラフィー装置「InfReC Thermography R300」を使用して、各条件下による表面温度の違いを調べてみた。なお、PCを使用する際に、実際に手が触れるのはキーボード面であることから、測定した最高温度/最低温度は、キーボード面に限定して記載している(当然、たいていの場合は排気口のほうが熱くなるが、直接肌に触れる状況は少ないので除外した)。
NECAvio赤外線テクノロジーの「InfReC Thermography R300」は、研究開発や高度な診断・検査向けの赤外線サーモグラフィー装置だ。
測定温度範囲はマイナス40度〜500度(2000度までオプションで対応)、温度分解能0.03度、空間分解能1.21mradと、クラス最高水準の画質と感度を実現している。ホールドしやすい約105(幅)×193(奥行き)×121(高さ)ミリのボディに、チルト調整や反転表示が可能な3.5型の液晶モニタを搭載。記録メディアにはSDメモリーカードを採用し、動画撮影も可能だ。熱画像、可視画像、合成画像の動画を同時に撮影できる。
メーカー:NECAvio赤外線テクノロジー
価格:186万9000円(税込み)
今回の測定では、起動15分後(アイドル時)、連続動画再生15分後、ベンチマークプログラム実行時(CINEBENCH 11.5)の3パターンで、表面温度を計測している。テスト時の室温は約25.7度だ。画像で示したサーモグラフィ装置の計測結果は、下限を22.9度、上限を45.1度にそろえている。低温から高温になるにつれて、黒、青、緑、黄、赤、白と色が変化する。それぞれの環境下で最も高温なポイントと最も低温なポイントは、画像内に示している。
また各条件下で、での騒音レベルも併記しているので参考にしてほしい。環境騒音は27.3デシベルで、MacBook Pro Retinaディスプレイモデルの液晶ディスプレイから距離30センチ、高さ15センチに騒音計を設置している(なお、15.4型ワイドクラスのノートPCでホームポジションに指を置いた場合、これよりもやや離れた位置に人の顔が来る点に留意してほしい)。それでは結果を見ていこう。
まずアイドル時だが、最高点が30.3度とまったく気にならないレベルだ。パームレスト部分は、電源を投入していないときとほぼ同等で、手に触れるアルミの感触がひやりと冷たい。騒音レベルも30デシベルを下回っており、キーボードに耳を近づけなければファンの回転音は聞き取れない。
次に1分間のQuickTimeファイルを15分間連続再生した後の結果を見てみよう。最高点は35.1度で、直下にCPUがあるキーボード中央付近から熱が広がっているのが分かる。両側面下から吸い込んだ空気が効果的に内部を冷却して、背面側へ抜けており、全体的にほぼ気にならないレベルまで熱が抑えられている。Eメールやインターネット、動画再生といった用途であれば、発熱が気になることはほとんどないはずだ。
また、ファンノイズも増大せず、アイドル時とあまり変わらないレベルに保たれていた。深夜の静かな部屋で映像コンテンツなどを視聴する際、ヘッドフォンなしでもファンの騒音が気になることは皆無だろう。非常に優秀な結果だ。
一方、システムに高い負荷をかけるベンチマークプログラム実行時は、最高点が40度を超えた。熱源となるCPUを中心にキーボード全体に熱が広がっている。パームレストの温度は33度前後と冷たいため、特に熱いと感じることはなかったが、キーによっては指先に暖かさを感じることはあるかもしれない。なお、この時点で背面側には暖かい空気が排出され始めている。
また、発熱に応じてようやくファンも回り始め、騒音レベルがあがる。特に4コア8スレッドを使ったレンダリング時は、騒音レベルが33デシベルから40デシベル前後に急上昇し、その後40〜46デシベル付近まで増大した。高周波なキーンとした音ではないため耳障りには感じないものの、深夜の静かな部屋ではフォーンというファンの風切り音が響いた。ある程度騒がしいオフィスなどでも認識できる音量だ。
なお、参考としてベンチマークを含むさまざまなプログラムを同時に実行し、システムに高い負荷をかけ続けた結果も掲載しておく。画像を見れば分かるように、最高点は48.2度と、キーを触れば暖かいと分かるレベルまで上昇している。また、熱を帯びた範囲がホームポジションにまで拡大しているため、通常のキー入力でも「あれ、なんか暖かいなー」と気づくレベルだ。吸気スリットに近いキーボードとパームレストは温度が抑えられているものの、この状態では底面側も熱を帯びているため、夏場に短パンをはいたひざの上で使う(露出した肌に触れる)のは避けたほうがいいかもしれない(ちなみにジーンズ越しでは気にならなかった)。一方、騒音レベルは46デシベル付近で頭打ちになっており、このあたりがファンノイズの最高点になっていると思われる。不快な音ではないがはっきりと聞き取れる、というのは前のテストと同様の傾向だ。
以上、サーモグラフィと騒音計を使って、MacBook Pro Retinaディスプレイモデルの発熱と騒音を見てきた。発熱にかんしては、夏場の屋外でもまったく無問題、と言えるほどではないものの、手が触れやすい部分はかなり温度が抑えられており、使用時に不快だと感じる場面はそうそうなさそうだと感じた。騒音面でも通常の用途であればほぼ無音に近く、ファンが高速に回転した場合でも、意識に上りにくい音なのは好印象だ(そもそも、少しの雑音も許せないほど何かの制作に没入したいときにはヘッドフォンを使うだろうし)。「Pro」のブランド名に恥じない性能と、MacBook Air並の薄型ボディであることを考えれば十分及第点といえるだろう。
さて、次回は測色機を使って、本機の目玉であるRetinaディスプレイの品質について詳しく見ていこう。
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