「Xperia Tablet S」はAndroidタブレットの限界を超えていく開発者ロングインタビュー後編(3/4 ページ)

» 2012年11月28日 17時30分 公開
[鈴木雅暢,ITmedia]

Androidの限界を超えて作り込んだサウンドシステム(オーディオ・音響設計部門)

―― サウンド面についてはどのような考えで開発しましたか?

城重氏 企画からはエンターテインメントサービスを存分に楽しむため、「音をしっかり強化してくれ」とお願いしました。とにかく大きい音を出せて、いい音質で、そして手で持った際にスピーカーをふさがない配置、この3つをリクエストしました。

松本氏 タブレットはメディアプレーヤーとしての性格がPC以上に強く、本来オーディオ、音響面でのユーザーの要求は高いものがあります。ソニーのエンターテインメント、ネットワークサービスを楽しむためにもここは重要です。スピーカーの要件として目指したのは、本体のみでも明瞭に聞こえる音圧があること。それもただ大きいだけでシャカシャカした音ではなく、高音から低音までバランスよく再現することです。

山口氏 その要件を満たすためには、余ったスペースに既存のスピーカーを入れるだけでは不可能であることが分かっていました。なので、スピーカーボックスは新規開発することに決めました。

 スピーカーについては、世の中にあるマイクロスピーカーを片っ端から評価して検討しました。小型スピーカーに多いエッジレスタイプ(振動板全体がしなるように動いて音を出す)は音圧を稼ぎやすいのですが、どうしてもシャカシャカしてしまいます。そこで、振動板全体を並行して動かせるフリーエッジタイプのスピーカーを1チャンネルにつき2つ並べて使うことで、音質と音圧、両方の問題をクリアしています。

VAIO&Mobile事業本部 Tablet事業部 商品設計部 松本賢一氏(オーディオ・音響設計担当/写真=左)。VAIO&Mobile事業本部 Tablet事業部 商品設計部 山口拓政氏(オーディオ・音響設計担当/写真=右)

―― スピーカーのサンプルがたくさんありますが、これは何が違うのですか?

山口氏 本体の厚みを増やさずに容積を稼ぐため、L字型のスピーカーボックスを開発したのですが、ネジの位置で音の聞こえ方が違ってきてしまうことがあり、その位置に関して何度もトライ&エラーを繰り返しました。また、開発が進む中で、ボディの強度の関係や他の部品との場所取り合戦の過程で形状を変更する必要が出てくることがあり、その都度最適なものを模索してきました。

松本氏 今回は音響的な部分にもこだわっています。オーディオ機器で定評のあるS-Masterデジタルアンプを採用するとともに、音響処理専用のDSPを実装し、Androidシステムの外にオフロードして処理させることで、Clear Phase、xLOUD、S-Forceサラウンドといったソニー独自の音響技術を実装しています。

スピーカーの試作サンプル(写真=左)。限られた場所に収めるため、L字型のスピーカーボックスに片チャンネル2つずつのスピーカーユニットを実装している。ネジ穴の位置で音質が変わるなどしたため、試行錯誤を重ねた結果、このような形で内蔵された(写真=右)

―― Androidシステムからオフロード処理させている理由を教えてください。

松本氏 Androidではバージョン4.x以降でようやく標準でもオーディオのソフトウェア処理が可能になりましたが、制限が多く、音響処理の自由度が狭いためです。また、ARMプロセッサでオーディオの音響処理をするのは電力効率がよくないという問題もありました。今回採用したDSPは、非常に小さなチップで消費電力も低くできるため、このような実装手段を取ることがベストだと判断しました。

―― なるほど。実装するうえでWindows PCとはかなり事情が違うのですね。

松本氏 Androidのプラットフォームはそういう面ではまだまだWindows環境に及ばないところがあり、カスタムして工夫していく必要があります。音響については、今回はClear Audio+という機能を追加しており、このチェックを入れるだけで、音楽に詳しくない方でも音響効果のメリットが簡単に得られます。細かい設定をせずにシンプルにいい音で楽しめるので、ぜひご活用ください。もちろん、自分で音響効果を調整したい方は細かく調整できます。

―― このシンプルさはありがたいです。

松本氏 音響効果については、チューニングもかなり力を入れています。視聴距離もさまざま、多人数で楽しむことも想定されるテレビなどと違って、タブレットはパーソナルに楽しむデバイスであることを前提にできる(想定すべき視聴範囲が狭い)ので、チューニングを追い込むことができました。はっきり効果が実感いただけるようになっていると思います。

Androidシステムの外で信号処理を行うDSP(基板中央の黒いチップ)は、わずか2×2.5ミリのチップだ(写真=左)。DSPは200MIPSの処理性能があり、消費電力も非常に低く、効率的に効果的な音響効果を生み出せるという。設定画面からClear Audio+にチェックを入れるだけで、音楽再生におすすめの設定を適用してくれる(画面=右)

―― 今回はアクセサリでもオーディオにこだわっていますね。

松本氏 そうですね。アクセサリの「クレードル」にスピーカーは内蔵していませんが、蓄音機のホーンのような構造を入れこんであり、実は置くだけで音圧を10デシベル上げることができます。

 また、ドックスピーカーへの出力は、デジタルで行っています。アナログ変換をせずデジタルのままスピーカー側の信号処理チップへデータを渡せるため、信号の劣化がない点が最大のメリットです。こちらもAndroidには適当な仕様が用意されていないため、デジタルオーディオ出力のインタフェースはこちらで起こしました。

城重氏 クレードルに関しては、企画から「本体のスピーカーが後ろに付いているので、クレードルに置いたときは、前に音が出るように何とかしてくれ」とだけ注文を出したのですが、こういうものができてくるとは予想外でした(笑)。

「クレードル」は蓄音機のホーンのような構造を採用しており、装着するだけで音圧が上がる(写真=左)。円柱形のボディに出力10ワット+10ワットのスピーカーを内蔵した「ドックスピーカー」も用意している(写真=右)

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