「VAIO Pro」を“徹底解剖”して見えた真の姿VAIO完全分解&開発秘話(後編)(5/7 ページ)

» 2013年08月13日 15時45分 公開

TDP Upには対応しないが、必要なときにターボがかかるCPU

 VAIO Proの店頭モデルは、CPUにCore i5-4200U(1.6GHz/最大2.6GHz)を採用。直販のVOMモデルでは、より高速なCore i7-4500U(1.8GHz/最大3.0GHz)も選択できる。いずれもデュアルコアCPUで、Hyper-Threadingによる4スレッドの同時実行、Turbo Boost 2.0による自動クロックアップが可能だ。

 第3世代Coreで同グレードのCPUと比較して、新命令のAVX2(Advanced Vector Extensions 2)をサポートしたソフトウェアであれば、浮動小数点演算のピーク性能は大幅に上がるが、現状の利用シーンにおけるCPUのパフォーマンスはそう変わらない。

 宮入氏は「Haswellの省電力や省スペース性を存分に生かすならば、VAIO Z(Z2)のような通常電圧版のCPUは2チップ構成で消費電力も高くなるため、従来のIntel Coreとは違って薄型ノートPCで不利な要素が大きすぎる。パフォーマンスを確保しつつ、小型軽量、バッテリーといった全体のバランスを考慮した結果、UシリーズのこれらのCPUが最適だった。TDPが11.5ワットとさらに低いYシリーズのCPUもVAIO Pro 11の検討候補に挙がったが、結局は性能面やVAIO Pro 13との仕様共通化によるメリットを考慮し、Uシリーズに統一している」と、採用の理由を説明する。

同時発表の「VAIO Duo 13」は、VAIO Proよりパフォーマンス寄りのチューニングだ。特にCore i7-4650U(1.7GHz/最大3.3GHz)選択時では、大幅に性能が向上する

 同時発表のVAIO Duo 13では、同じUシリーズでもよりグレードの高いCPUを選択できるが、「テクノロジーリーダー的な位置付けのVAIO Duo 13は、パフォーマンスを強めにしてcTDP(Configurable Thermal Design Power:設定可能な熱設計電力)による性能向上(いわゆるTDP Up)もサポートしているが、VAIO Proは携帯性を重視しているので、そこまで対応できる冷却容量を持ち合わせておらず、TDP上昇の仕組みを使っていない。VAIO Proの強みを維持するうえで、これがベストの選択となる」(宮入氏)との回答だ。

 一方、低負荷時にTDPを下げて省電力化する、いわゆるTDP Downは利用可能だ。小坂氏は「CPUの消費電力とクーラーに搭載した温度センサーからボディ表面の温度を算出し、我々のスペックに収めるよう、動的にパワーリミットの値を落とす設計にした」と解説する。

 とはいえ、TDPは必ずしも15ワットより上昇しないわけではなく、「仕様上でTurbo Boostのメカニズムでも15ワットは超える」(小坂氏)という。放熱設計を最適化した結果、TDP Upによる性能上昇部分はサポートしないということだ。

 具体的に、小坂氏は「CPUだけを使っており、グラフィックスをあまり使っていないシーンでは、CPUクロックがしっかり上がる。温度が高い環境でもアプリの起動などは、瞬間的にTurbo Boostでパフォーマンスが出るように設計した。逆にベンチマークテストのように高負荷が続くと、パフォーマンスは下がるときもある。しかし、実用面を考えると、アプリの起動やPDFファイルを開くレスポンスといった部分にフォーカスしたほうがよい、という判断でチューニングした」と説明し、パフォーマンスの最適化を強調する。

 VAIO Pro 13とVAIO Pro 11が採用するCPUは同じだが、ボディサイズなどの都合に合わせて、CPUクーラーはそれぞれ違うものを採用している。VAIO Pro 11のヒートパイプが1本と簡素な作りなのは、第4世代CoreのYシリーズを検討していたころの名残だろう。ただし、CPUファンはVAIO Pro 13のほうが4ミリ厚と薄くできている。

VAIO Pro 13(写真=左)とVAIO Pro 11(写真=右)のCPUクーラー。VAIO Pro 13は銅製のヒートパイプ2本をCPUと接続しており、VAIO Pro 11より放熱設計に余裕がある。VAIO Pro 11のCPUクーラーは簡略化してあるが、今回採用した第4世代CoreのUシリーズを十分放熱できるという
VAIO Pro 13から取り外したCPUクーラーの表(写真=左)と裏(写真=右)。CPUクーラーには温度センサーを搭載する。このセンサーを用いて、ボディ表面の温度をシミュレーション結果から算出し、高温下では動的にパワーリミットの値を落とす

CPU内蔵グラフィックスはなぜIntel HD Graphics 4400を選んだか?

 グラフィックス機能はCPU内蔵のIntel HD Graphics 4400を採用。3種類が用意される第4世代Coreの内蔵グラフィックスのうち、ミドルレンジのGT2グレードに該当するものだ。実行ユニット(Execution Unit)の数は20基と、上位グラフィックスの「Iris」ブランド(GT3)が持つ40基の半分だが、第3世代Core内蔵グラフィックスのIntel HD Graphics 4000(16基)より多い。DirectX 11.1に対応し、動作クロックは1.0GHzまで上昇する。

「VAIO Z(Z2)」は、これまでノートPC本体に内蔵していたGPUと光学ドライブを専用ドッキングステーションの「Power Media Dock」に移した、2ピース構成のシステムだった。VAIO Proはこうした仕様を採用していない

 やはり第4世代CoreのUシリーズを搭載したUltrabookでは、VAIO Z(Z2)のように外部GPUを採用するという選択肢はなかったのだろうか? 小坂氏は「選択肢がまったくないわけではない。Haswellは外部GPU用のPCIe x16を省いているが、その他のPCIeをGPU用に割り当てることはできる。ただし、VAIO Proは外部GPUで3Dゲームをバリバリ遊ぶような方がターゲットではないので、今回はCPU内蔵グラフィックスを利用した」と答える。

 なお、VAIO Duo 13はGT3のIntel HD Graphics 5000も選択できるが、GT2のIntel HD Graphics 4400にとどめたのは、やはり携帯性重視の中でのバランスを追求した結果だ。「ターゲットユーザーにとって、CPU内蔵グラフィックスの性能がどこまで必要かと検討し、このグレードを選択した。CPU内蔵グラフィックスはパワーシェアリングの関係にあり、グラフィックスがクロックアップすれば、CPUがクロックダウンする。また、TDP Upをサポートしないため、Irisまでの描画性能は不要と結論づけた」(小坂氏)という。

メモリはオンボードでもデュアルチャンネル動作

 メモリは1.35ボルトで動作するDDR3L SDRAM(DDR3L-1600)を採用する。待機中にDRAMがデータ保持のために行うセルフリフレッシュ時の消費電力を抑えるLPDDR3やDDR3L-RSといった新しいメモリ規格も存在するが、宮入氏は「普及していて消費電力が低いことから、DDR3Lを選択した」と語る。

 DDR3L SDRAMはメモリモジュールの形ではなく、メイン基板上にオンボードで実装している。片面に4チップずつ合計8チップが載っており、容量が4Gバイトと8Gバイトの構成でチップの個数が変わることはない(8Gバイトを選択できるのは、VAIO Pro 13のVOMモデルのみ)。

 VAIO Pro 11のメモリ容量は4Gバイトに固定だが、「バッテリー容量が32ワットアワーとVAIO Pro 13(37ワットアワー)より限られており、特にスリープ時はメモリの消費電力が支配的になるため、実使用におけるモビリティを重視し、バランスのよい4Gバイトを推奨している」(宮入氏)という。

 メモリチップ1個あたりのバス幅はx16となっており、両面8チップでしっかりデュアルチャンネル動作する仕様だ。小坂氏は「x8のDDR3Lは、低コストだが、チップ数が増えて消費電力も上がる。x32のDDR3Lは、チップ数と消費電力を減らせるが、コストが高い。VAIO Proのサイズや消費電力を考えた場合、x16のDDR3Lはベストだと思う」と、採用の理由を明かした。

 なお、メイン基板裏にあるキーボード面は平らなので、パーツの配置と高さの制約が一定になるが、オンボード実装してギリギリの高さに収まるメモリを採用し、基板上で最も厚みが出るヒートパイプを本体が厚くなる奥側に配置することで、なんとかこの薄型軽量ボディに詰め込んでいる。

DDR3L-1600 SDRAMを用いており、4Gバイトもしくは8Gバイトをオンボードで実装している。メイン基板の片面に4チップずつ、両面に合計8チップを搭載し、デュアルチャンネルアクセスにも対応する

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年04月25日 更新
  1. ワコムが有機ELペンタブレットをついに投入! 「Wacom Movink 13」は約420gの軽量モデルだ (2024年04月24日)
  2. 16.3型の折りたたみノートPC「Thinkpad X1 Fold」は“大画面タブレット”として大きな価値あり (2024年04月24日)
  3. 「IBMはテクノロジーカンパニーだ」 日本IBMが5つの「価値共創領域」にこだわるワケ (2024年04月23日)
  4. 「社長室と役員室はなくしました」 価値共創領域に挑戦する日本IBM 山口社長のこだわり (2024年04月24日)
  5. Googleが「Google for Education GIGA スクールパッケージ」を発表 GIGAスクール用Chromebookの「新規採用」と「継続」を両にらみ (2024年04月23日)
  6. バッファロー開発陣に聞く「Wi-Fi 7」にいち早く対応したメリット 決め手は異なる周波数を束ねる「MLO」【前編】 (2024年04月22日)
  7. ロジクール、“プロ仕様”をうたった60%レイアウト採用ワイヤレスゲーミングキーボード (2024年04月24日)
  8. あなたのPCのWindows 10/11の「ライセンス」はどうなっている? 調べる方法をチェック! (2023年10月20日)
  9. ゼロからの画像生成も可能に――アドビが生成AI機能を強化した「Photoshop」のβ版を公開 (2024年04月23日)
  10. アドバンテック、第14世代Coreプロセッサを採用した産業向けシングルボードPC (2024年04月24日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー