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» 2015年12月28日 06時00分 公開

本田雅一のクロスオーバーデジタル:2015年のPC/スマートデバイス動向を冷静に振り返る (3/3)

[本田雅一,ITmedia]
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iPhoneを軸にキープコンセプトで成功したApple

 一方のAppleは「キープコンセプト」で成功した。

 そもそも、Appleは従来のやり方を変える必要がないからだ。近年で最も大きな破壊的イノベーションを業界にもたらしたAppleは、自らが導いた「iPhone後」の事業基盤を守る保守的な姿勢をここ数年続けている。

 それはネガティブに言えば「イノベーションのジレンマ」であるし、ポジティブな表現で言えば「王道」の手法だ。AppleがiPhoneの導入以降、先手を打ってイノベーションを進めることができたのは、自ら生み出したiPhoneによるエレクトロニクス業界の新しいルールに沿った製品を、どこよりも先に展開したからだ。

 つまり、iPhoneによって破壊的イノベーションがもたらされた後、持続的イノベーションとしてiPadを生み出し、Macに改良を施し、関連するメディア配信、アプリエコシステムの構築といったサービス事業も拡大。同時にiPhone自身に、新たな機能を付加することで、デジタル製品の勢力地図を塗りつぶしてきた。

iPhone 6s/6s Plus 9月に発売された「iPhone 6s」と「iPhone 6s Plus」も、2015年にヒットした「よりよい製品」。新機能の「3D Touch」を搭載することで、スマートフォンとアプリの新たな可能性を示した
MacBook 4月に発売された新しい「MacBook」。USB Type-C(AppleはUSB-Cと呼ぶ)に主要インタフェースの機能を集約し、薄型軽量ボディをさらに追求。新設計の薄型キーボードと感圧タッチトラックパッドによる新しい入力環境も提供した

 2015年に発売した「Apple Watch」「iPad Pro」は、いずれもiPhoneから派生する持続的イノベーションの一種だ。そのインパクトが限定的なのは、恐らくApple自身も予想していたことだろう。いずれもAppleだけの発明というわけではなく、製品全体を概観すると既視感がある。

 しかし、それはApple自身が「開拓済み」とした事業領域が大きいからだ。勢力地図に塗りつぶした領域が多くなれば、そのすき間に残る「描き出す未来像」が小さくなるのは必然だろう。

 これこそがイノベーションのジレンマであり、圧倒的な収益力を持つiPhoneを中心に据えている限り、いつかはAppleもMicrosoftやIBMの轍(てつ)を踏み、新たなイノベーターにのみ込まれることになると予想する人は少なくない。

Apple Watch 4月に発売された「Apple Watch」は、Appleが2015年に立ち上げた新製品だが、iPhoneから派生する持続的イノベーションの一種に位置付けられる
iPad Pro 11月に発売された「iPad Pro」。iPhoneから派生したiPadファミリーに、12.9型の大画面ディスプレイ、筆圧ペンやキーボードといった生産性、クリエイティビティを付加した

 とはいえ、2015年はおろか2016年に至ってもiPhoneを中心としたAppleの存在感が小さくなるとはとても思えない。なぜなら、MicrosoftのSurfaceも新機軸をなかなか生み出せていないように、あらゆるスマートフォンメーカー、あらゆるPCメーカーが次の進化への方向性を見失っているように見えるからだ。

 PC、コンパクトデジタルカメラ、ビデオカメラ、音楽・ビデオプレーヤー、ボイスレコーダー、ポータブルカーナビゲーション――ハードウェア機能を強化することで多様なエレクトロニクス製品をのみ込んできたスマートフォンだが、さすがにこの破壊的イノベーションも収まりつつある。

 今後、何らかの破壊的イノベーションが到来しない限り、業界のルールは大きく変わらず、スマートフォン市場の成熟も進行していくことだろう。破壊的イノベーターが見当たらない中で、サービス基盤やアプリエコシステム、そして端末ビジネスなどを一手に握っているAppleが、自らの足元をも危うくするイノベーションを先導するとは考えにくい。

 すなわち、より高性能、よりよいディスプレイ、よりよいカメラ、より薄型で提案性の高いデザインなど、既存製品を「商品としてより高い魅力の製品に置き換える」ことが、Appleにとっての最善手なのが今現在ということだ。

 こうしたことを前提に2015年のAppleを振り返ると、製品戦略もよりクリアに見えてくるのではないだろうか。



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