過去のMicrosoftの大型買収を振り返ると、2011年にSkypeを85億ドル、2013年にNokiaの携帯部門を72億ドル、2007年にaQuantive(オンライン広告)を60億ドルで買収したことが挙げられる。それより額は小さいが、2000年にVisioを15億ドル、2002年にNavisionを14億5000万ドル、2012年にYammerを12億ドルで買収してきた。
なお、NavisionはDynamics ERPを構成する製品の1つであり(Dynamics NAV)、もともとは欧州の中小企業を中心にシェアを持っていたERPソフトウェア会社だ。
この買収一覧を見ても分かるように、Microsoftが1件あたり10億ドル超の買収を行うようになったのは比較的最近の話で、どちらかといえば買収に関して比較的保守的な会社だという認識だ。
IT企業で過去に大型買収というと、OracleによるPeopleSoft買収(103億ドル)やSun Microsystems買収(74億ドル)などが浮かぶが、それと比較しても今回の262億ドルは非常に大きい。なお、ソフトバンクがSprintの買収に費やした金額は220億ドルで、今回の買収規模大きいことが分かるだろう。
過去に大型買収として知られたAOLによるTime Warnerの買収は1620億ドル、DellによるEMCの買収は670億ドルとさらに金額が跳ね上がるが、一方でAOLのTime Warner買収は大失敗の例として有名であり、DellのEMC買収も茨の道であることが指摘されている。いくら重要な企業とはいえ、買収金額は相応のものであることが重要だ。
実際、これだけの金額を出すほどの効果を得られるのか疑問視する声は、Microsoft情報の発信で知られるポール・サーロット氏をはじめ、各所から挙がっている。
筆者も非常に高い買い物であるとは思うものの、もしMicrosoftがLinkedInの買収を以前から検討していたならば、このタイミングしか買収できなかったとも考えている。
LinkedInの業績見通し発表を受け、同社の株価は2016年2月5日に43.6%急落して100ドル付近まで降りており、一気に時価総額の110億ドルが吹き飛んでしまった。100ドル強の水準で低迷していた同社の株価だが、Microsoftが買収を発表する直前の時価総額は170億ドル程度であり、これに5割弱ほどプレミアを載せて262億ドルの買収金額というのは、当面の提示額としてはほぼ最低水準だったと言えるかもしれない。
問題は、本当にこの金額が妥当かという点だ。将来的な可能性は想像でき、Microsoftも音声パーソナルアシスタント「Cortana」などを組み合わせた未来のビジネスツールとしての役割を提案している。
だが実際の買収効果は、将来的にERP/CRM、そしてOffice 365での収益にどれだけ結び付くかであり、今後のライバルとなるOracleやSAPの市場にどれだけ食い込んでいけるかという部分が重要だ。早期の判断は難しいが、少なくとも大型買収としては完全な失敗案件となってしまったNokia携帯部門の轍(てつ)は踏まないでほしいところだ。
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