2023年も、米Qualcommの「Snapdragon Summit 2023」が米ハワイ州マウイ島で10月24日(現地時間)から3日間の日程で開催された。
最大の目玉は、2022年のSnapdragon Summitで2023年の製品投入が発表され、先行して「Snapdragon X Elite」のブランド名のみが公表されていた“PC向けSoC”だ。
本稿執筆時点ではまだアーキテクチャなどの詳細は不明なものの、今回はQualcommから先行してパフォーマンスに関するデータが提示された。まずはモバイル方面のフラグシップSoCである「Snapdragon 8 Gen 3」を含めた、同社のプロセッサ戦略について簡単にまとめたい。
QualcommのPC向けSoCへの注力は、振り返れば「Snapdragon 835」の時代へとさかのぼり、製品としての本格投入は2018年夏に発表された「Snapdragon 850」となる。その後、「Snapdragon 8cx」というPC向けに本格的な機能拡張が施されたSoCが投入されているが、長年のMicrosoftとの提携によるWindows搭載PCへの取り組みがありながら、正直なところそれほど市場でのプレゼンスが得られていないのが実情だ。
筆者の私見になるが、市場での評価を得られていない理由は大きく2つあり、Intelなどの競合プロセッサに比べて製品ラインアップに乏しく、ハイエンドからローエンドまでバリエーションが不足していることが1つ、もう1つはアピールポイントの弱さにある。
前者について、Snapdragonは価格帯や性能面から“ミッド〜ハイ”という中の上のランクにあたる製品が中心で、性能を求めるユーザーの要求は満たせず、普及価格帯の製品を求めるユーザーにはやや高いという微妙な位置付けにある。
Armプロセッサ対応のアプリは開発者が“コンパイル”する際にx64向けと合わせてパッケージを生成できるためラインアップを増やすのが容易ともされるが、実情としてユーザーを積極的に獲得できるほどの評価を得られていない。
後者のアピールポイントについて、Snapdragonならではの特徴は「LTEによる常時接続」「低消費電力動作によるバッテリー駆動時間の向上」が挙げられるが、これも有効打になり得ていない。Microsoftの“Copilot”シリーズのように常にインターネット接続を求められる機能が増えているにもかかわらずだ。この潮目を変化させるには、もう一段の製品改良が必要となる。
そこでSnapdragon X Eliteの登場となる。
最大のポイントは「Oryon」(オライオン)と呼ばれる新しいプロセッサコアを採用した点で、QualcommのSoCとしては久々のArmのIPを利用しない独自開発のArm命令互換CPUコアとなる。
Oryon登場の経緯は前回のレポートを参照いただきたいが、その技術の源流にあるのはQualcommが以前に買収したサーバ向けSoCを開発していた米Nuviaであり、Armの出身でもあるNuvia創業者兼CEOのジェラルド・ウィリアムズ氏による部分が大きい。高パフォーマンスかつ低消費電力の両立で、これまで同社のPC向けSoCで弱かった部分を補強し、ユーザーのニーズに応えられるArm版Windows PCを市場投入していく。
本稿執筆時点では、OryonのアーキテクチャやSnapdragon X Eliteのシステムブロックなどが不明な上、並列比較できるデータが得られていないため、あくまでQualcommが提示しているデータではあるものの、比較対象に出されている競合製品群を眺めることで、そのターゲットがおおよそ見えてくる。
例えば、シングルスレッド動作時のパフォーマンスとして比較対象に挙げられたのがIntelのCore i9-13980HX(Pコア8基16スレッド/Eコア16基16スレッド)であり、パフォーマンスのみならず、低消費電力性でも優位にあるとアピールしている。
Core i9は第13世代のIntelプロセッサとしては最上位であり、パフォーマンス面でもハイエンドにあたり、これをあえて比較に出すというのはその点での自信にあふれていることの表れだ。
一方で、Core i9-13980HXはPコアが8基にEコアが16基の24コア構成のモバイルプロセッサであり、Snapdragon X EliteはCPUコアが12コアと、ややコア数の少ない構成になっている。
しかし、同社ではマルチスレッド動作でものパフォーマンスは優位に立つとアピールしており、「Armコアはハイパフォーマンス動作に難がある」という認識をある程度覆す可能性がある。
GPUについても同様で、IntelとAMDという競合のモバイルSoCと比較してパフォーマンスと低消費電力の面で優位にあるとしている。もっとも、Intelが2023年末に市場投入する次世代の“Meteor Lake”では、GPUアーキテクチャ自体がIris Xe GraphicsからArcへと変更されているため、最新世代に関してグラフに提示されるほどの差はなくなると思われるが、Snapdragon X Eliteで搭載されるAdreno GPUでパフォーマンス面も肉薄できるというのがQualcommの説明だ。
次にもう1つのターゲットに触れる。
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