ドコモ山田氏「月額315円程度の価格にする」、KDDI小野寺氏「高品質なエリアが重要」携帯端末向けマルチメディア放送の公開説明会(第2回)(1/2 ページ)

» 2010年07月28日 09時08分 公開
[田中聡,ITmedia]

 総務省が7月27日、携帯端末向けマルチメディア放送の実現のための開設計画に関する公開説明会(第2回)を開催し、受託放送事業者に名乗りを上げているマルチメディア放送(以下、mmbi)とメディアフロージャパン企画(以下、MJP)の2陣営が参加した。

 第1回の説明会は6月28日に開催されており、端末、エリア品質、基地局設置、混信対策、(コンテンツを提供する)委託事業者との連携などについて議論された。今回は第1回からの追加説明と、互いに提出した質問事項に両陣営が答えながら意見交換がなされた。

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中規模局の活用で全体のエリア品質が向上する――MJP

 今回は第1部で各申請者からの追加説明、第2部で質疑応答と意見交換という流れで進行した。まずはMJPが追加説明を行った。

 MJP代表取締役社長の増田和彦氏は、「マルチメディア放送では、いつでもどこでも誰もがコンテンツを手に入れられるが、そのためには屋外だけでなく屋内でも品質の高いコンテンツを届けることが重要。実際、ワンセグは屋内では必ずしも満足いただいていない調査結果も出ている」と説明し、エリア構築が重要であることを強調した。

 基地局は大規模送信局を中心に構築するが、東京都心部のビル陰の不感地帯が発生してしまう。そこで同社は、高層ビルがあるエリアでも安定的に電波を受信できるよう中規模局も活用する。多方面から複数電波が重ね合わせる効果(SFNゲイン)により、電波のむらが抑制され、全体のエリア品質が向上する。さらに、(映像が受信できなくなる)SFN混信を回避することも可能になる。

 MJPは2009年4月から沖縄ユビキタス特区でマルチメディア放送の実証実験を行い、実際にコンテンツも配信した。この実証実験でコンテンツを利用したユーザー向けの調査によると、約75%のユーザーが利用意向を示しているほか、コンテンツの価格は月額約500円〜800円程度が許容範囲という結果が出ていることも示した。

月額315円程度のリーズナブルな価格が重要――mmbi

photo NTTドコモ代表取締役社長 山田隆持氏

 mmbi陣営の追加説明では、まずはNTTドコモ代表取締役社長の山田隆持氏が口を開き、「リーズナブルな料金を提供することが一番重要だ」と述べた。ドコモがiモード端末向けに提供している動画コンテンツ「BeeTV」は125万契約に達し、山田氏も「魅力的なコンテンツをそろえられた」と手応えを感じている。BeeTVの利用料金は月額315円。「料金をいくらにするかは何度も議論したが、そういうレベルの価格が重要だ」と述べ、マルチメディア放送もBeeTVと同程度の価格設定を考えていることをほのめかした。

 こうした良心的な価格を実現するには、「インフラの品質を保ちつつ効率よく設備を構築するかが重要」と山田氏はみている。

 mmbi代表取締役社長の二木治成氏は「大規模局に中規模局を加える措置はうちもやっている。mmbiはさらに、大規模局と中規模局に加え、ギャップフィラー(※電波の届かない場所に設置する再送信装置)を個別に付けることにより、品質を確保しつつ効率的なエリアを構築できる」とコメント。SFN混信については大規模基地局でカバーし、「基地局の位置やアンテナの向きを変えることでさらに改善できる」とした。

 二木氏は、マルチメディア放送のエリア設計がワンセグとは異なることも強調。地上デジタル放送とワンセグが地上高10メートルの屋外アンテナを前提としてエリア設計されているのに対し、マルチメディア放送は、地上高1.5メートルを基準にエリア設計している。「ワンセグの電波が悪いからマルチメディア放送の電波が悪いということにはならない」と話す。対応端末の開発については、「基本機能の開発は完了しており、現在はチップの量産を進めている」状況だ。

米国と日本ではビジネスモデルが違う――小野寺氏

 第2部では、両陣営が提出した質問項目に基づき、質疑応答が行われた。まずはmmbiがMJPへ質問。ここでは米国で商用サービスが提供中のMediaFLOがどれだけ普及し、その状況が日本のビジネスにも当てはまるのか、といった点が議論された。

 米国でのMediaFLO契約者数は、サービスを提供している通信事業者のAT&TとVerizonが公表していないため「不明」。これに対してドコモ代表取締役副社長の辻村清行氏はが「調査会社に依頼したところ、約30万契約とのデータを得ている」と話すと、クアルコムジャパン代表取締役社長兼会長の山田純氏は「通信事業者が発表した数字ではないので、その数字にはコメントできない」とした。

 mmbiの「Qualcomm CEOのポール・ジェイコブス氏が、投資家向けの説明会で、1年後をめどにFLO TV事業の身売り先を探しているとの発言があったが、これは本当か」という質問に対して山田氏は「その通り」と回答するが、「これはポジティブな情報だ」と補足。「FLO TVという子会社を立ち上げ、全米にネットワークを構築した2004年の段階から、分社、売却することは明言していた。多額の投資を伴う事業には、出口戦略を決めてから取り組むもの。MediaFLOのネットワークが全米に行き渡り、企業価値が高まったので、売却する段階に至った」と経緯を説明した。

 これに対して辻村氏が「期待したほどの契約数ではなかったのではないか。サービス開始から3年経って30万契約は、うまくいってないのでは。不振の原因や実態の調査を十分にされていないのは無責任だと思う」と指摘。すると山田氏は「新しい技術を適用して全米の隅々までネットワークを構築するには当然時間がかかる。米国でアナログ放送が終了したのは2009年。それから初めて大半の基地局から電波を強く出すことができ、干渉を防ぐ策も講じた。この段階でネットワークの価値が十分高まったので、現時点の契約者数が必ずしも(サービスの質と)一致しているものではないと考えている」と答えた。

 KDDI代表取締役社長兼会長の小野寺正氏は「30万契約という数字の信憑性も分からないし、米国と日本ではビジネスモデルが違う」と反論。「マルチメディア放送では“技術”と“ビジネス”という2つの観点があるが、米国と同じ基準でビジネスをとらえるのは間違い。日本ではワンセグを無料で視聴できるが、米国のリアルタイム放送(MediaFLO)は有料サービスであり、現在米国では(携帯向け)無料放送はない。日本では蓄積型コンテンツがメインになるので、ビジネスモデルが違う」

MediaFLOのチップセットはオープン――MJP

 続いて、mmbi法務部長の中村豊氏が「クアルコム社は携帯電話の無線通信に関する自らの知的財産権を背景に、日本の携帯電話端末メーカーとの間のライセンス契約において拘束条件付取引を行ったとして、2009年9月に公正取引委員会から排除措置命令を受けている。今回のMediaFLO方式の受信機チップについても同様のライセンス条件か。また公正取引委員会が出した排除措置命令の対象か」と質問。これには山田氏が「公正取引委員会からは排除命令を受けているが、異議を申し立てており、現在審判中。排除命令は確定しているものではない。受信チップは今回の公正取引委員会の排除措置命令の対象ではない」と回答し、「MediaFLO方式の技術のライセンスは当事者間の合意でなされるもの。3社のチップセットメーカーとは合意ができている」と補足した。

 このチップセットについて、ドコモ執行役員の永田清人氏は「MediaFLOのチップセットは標準化されていると聞いているが、運用規定は公開しているのか。また、すべてのメーカーが開発できるものなのか」と質問。「MediaFLOの技術内容については、下から上のレイヤーまでオープンなドキュメントが公開されており、それにもとづいてチップセットを作ってもらっている。すでに3社のメーカーとは合意しており、ニューポート・メディアは商用のチップを開発し、(米国で販売されている)iPhone用のジャケットに使われている」と山田氏は回答。どのメーカーに対してもオープンなスタンスであることを強調した。

東京タワーを使ったサービス提供は間に合うのか――mmbi

 MJPからmmbiの質疑応答では、mmbiが屋内の受信品質について説明した。mmbiは都心部を中心にインフラ整備に注力し、まずは125局を開設する。サービス開始当初の世帯カバー率は約60%で、屋内は90%弱をカバーする。

 mmbiシニアマネージャーの近藤恭行氏は屋内の電界強度について「屋内で電波を受信できるかどうかは建物構造によって異なり、ギャップフィラーのような補完的な手法で受信することも考えられる。屋内は不確定要素が多く、妥当な主要電界強度を定めるのは難しい。ただ、情報通信審議会の資料に、参考値としてISDB-Tmmの場合は67.5dBμV/mと記載されているので、この値を基準に考えている」と説明した。

 mmbiからのMJPへの2回目の質疑応答では、MJPが関東のエリア構築に東京タワーを使用することに関連し、mmbi取締役技術統括部長の上瀬千春氏が、アナログ放送終了後に(東京タワーの)全放送局のアンテナを撤去する義務があることに言及。さらに、アンテナの撤去後に耐震対策の補強をする必要もある。「この工事だけで1年以上かかるので、2012年4月1日に東京タワーを使ってサービスを提供することは難しいのでは」と疑問を投げかけた。増田氏は「万が一東京タワーを利用できない場合は、別の設置場所を使うことで対応する」とした。

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