朝シフトに目覚めるまで――過去の24時間の使い方朝シフト仕事術

今でこそ、定時退社が実現できている私ですが、ここに至るまでには紆余(うよ)曲折がありました。そこで、これまでの経緯を年代別に述べてみたいと思います。

» 2011年07月15日 10時20分 公開
[永井孝尚,Business Media 誠]

 今でこそ、定時退社が実現できている私ですが、ここに至るまでには紆余(うよ)曲折がありました。そこで、これまでの経緯を述べてみたいと思います。

実は朝一出社だった――新社会人時代

 私が日本IBMに新卒入社したのは1984年4月。以来、27年間日本IBMひと筋です。

 学生時代、一番身近な社会人の先輩は、経営者だった父でした。父は毎朝5時半に起き、6時半には家を車で出発し、30分で会社に到着、7時から仕事を開始し、夕食時には帰宅していました。

 その父が言うには「新人で会社には何も貢献できないのであれば、せめて誰よりも早く出社しなさい」。社会人になりたてで、まともに仕事もできなかった当時の私は「少なくとも誰よりも早く出社しよう」と考えました。

 夜はいつも午後9時から10時ころまで、遅いときは11時過ぎまでオフィスで仕事をしていましたが、朝は6時に起き、1時間半の通勤で必ず午前8時過ぎには都内にあるオフィスに出社していました。

 この連載の初回で紹介した製品企画プロセス担当だったのもこのころで、1週間のうち2、3日はホテルに泊まり込み、という年もありました。とにかく仕事に慣れることに精一杯で、平日は仕事以外にはまったく何もできない状況でした。

 たまの休日は、気分転換にライフワークの写真に没頭しました。集中したためか、よい写真が撮れて、銀座キヤノンサロンで写真展を行ったのは27歳のときでした。はたからは、仕事もやり、ライフワークも充実しているように見えたかもしれませんが、私自身の印象では、平日の仕事、週末の写真以外は何もできなかった20代でした。

職住接近で、徒歩25分通勤だった――30代

 30歳になったころ、製品プランナーとして製品開発研究所に異動になりました。都心から離れた郊外だったので、実家から引っ越して、研究所の近くに住むことにしました。

 職場まで徒歩25分という恵まれた生活環境が10年間近く続きました。朝8時半に起きれば、始業時間に間に合います。オフィスが近くなったことで、逆に出社が遅くなってしまいました。

 また、30代前半には、週に2、3回、職場の同僚や上司と飲みに出かけていました。半分仕事の延長のようなこともあって、職場の同僚と飲んで話すのは、仕事や職場の話が中心です。共通の話題ですから、そのときは面白く感じるのですが、いつも同じメンバーと同じような話を繰り返すことが多かったように思います。飲み終わりは夜11時から0時ころで、就寝は午前2時過ぎでした。夜遅くまで起きているのが日常になっていたため、いつもどこか体調が悪い感じでした。

 夜自宅にいる日は、テレビをダラダラと見たり、ネットサーフィンをしていました。今から考えると、ムダな時間を過ごしていたなと思います。

遠距離通勤で、平日は仕事だけだった――40代前半

 38歳になって、製品開発から、マーケティングに異動しました。そして3年後、勤務地が郊外の研究所から都内の事業所になりました。

 それまで徒歩25分で定期券を使わない生活が10年近く続いていましたが、いきなり通勤時間が1時間50分になりました。

 電車が混雑するため、朝7時に東急田園都市線中央林間駅から始発電車に乗り、オフィスには8時半ころ到着していました。そのため、朝は6時起きでした。

 しかし、仕事もなかなか終わらずに、オフィスを出るのは午後9時か10時ころ。家に到着するのは11時。家には寝に帰るだけの生活でした。ふたたび、平日は仕事だけの日々になりました。

引っ越したものの、かえって通勤地獄に巻き込まれた――40代中ごろ

 遠距離通勤が大変だったので、研究所の近くから、東急田園都市線たまプラーザ駅の近くに引っ越しました。これで通勤時間は1時間強になりました。

 東急田園都市線は首都圏でも有数の混雑する路線です。なかでも急行は非常に混雑して身動きがとれないので乗れません。そこで、いつも朝7時〜8時台の各駅停車に乗車していました。

 あるとき、東急田園都市線が朝のラッシュ時に2日続けて全線停止しました。

 もともと過密ダイヤのために、いったん遅れが発生するとどんどん波及してしまうのが、通勤電車の弱点です。運転再開しても、徐行運転が続いて、最終的に数十分から1時間の遅れになります。徐行運転により輸送能力が落ちる一方で、駅から乗ってくる乗客数は変わらないため、ふだんの混雑にさらに拍車がかかります。

 動き始めたときは殺人的な混雑でした。そこでその2日間、午前中は駅の近くにある喫茶店で仕事しました。

 「もうこんな経験はこりごりだ」と思った私は、帰宅してからじっくり考えたのです。妻の「それなら早起きしたら?」というアドバイスもあって私の心は決まりました。「いくら田園都市線でも、早朝はきっとすいているはずだ。2、3時間早く家を出れば座って通勤できるし、通勤中に仕事をしたり、寝て疲れをとったりできるのではないか?」

 この朝シフト、やってみたらコロンブスの卵で、実はとても簡単でした。

毎朝5時に起床、朝時間を上手に活用している――現在

 現在、私は毎朝5時過ぎに起床し、朝食をとって、午前6時前に家を出発しています。10分ほど歩いて、隣の東急田園都市線鷺沼(さぎぬま)駅に到着。同駅始発の電車で座って出勤しています。

 おかげで、通勤ラッシュからは完全に解放されました。ゆっくり本を読めますし、パソコンを広げて仕事したり、本を書いたりすることもできます。まさに通勤電車が書斎代わりです。

 午前7時には会社に到着します。誰もいません。中断されることもなく、仕事に一人で集中できるので、仕事の進捗も速いですし、頭もフレッシュな状態なので、アイデアもわいてきます。仕事が詰まっていない時期は、オフィスビルの1階にあるカフェに入り、始業時間までは、本の執筆などに充てています。

 午前中に多くの仕事を終えることができるので、定時までに仕事を終えて、帰宅することができます。

 時には、夕方に新しい仕事が発生する場合もあります。しかし、そのような仕事も、翌朝7時から始めれば、たいてい午前9時の始業前には完了できます。疲れた頭で残業して、時間をかけて仕上げるよりも、フレッシュな頭で翌朝仕上げたほうが、生産性も仕事の質も格段によいのです。

 それでも、どうしてもその日の夜に仕上げなければならない仕事もあります。そのような仕事は自宅に持ち帰って仕上げて、ネットで相手に送るようにしています。幸い、勤務先の日本IBMでは在宅勤務環境を整備しているので、このようなことが可能なのです。

 こうして毎日、私は家族と夕食を食べられるようになりました。


 このようなスタイルにするまでに、実は試行錯誤がありました。次回以降、その方法論をご紹介していきます

連載「朝シフト仕事術」について

 本連載は7月16日発売の書籍『残業3時間を朝30分で片づける仕事術』から抜粋したもの。“朝活”が大ブームの今、医者、起業家、脳科学者が書く朝活の本も売れているが、本書は日本IBMに勤務する現役ビジネスパーソンが現在進行形で朝時間を有効活用していることが特徴だ。その成果・効果を大公開。実体験を元に、朝は夜の6倍生産性があがる理由を分析した。

 著者自身も20代30代のころは、仕事の忙しさが残業に反映されていると思い込み、“残業自慢者”でもあった。しかし、残業 → ストレス → 飲む → 寝坊 → 満員電車 → ぎりぎり出社 → 仕事の山という負のサイクルにどっぷりとはまっていたことに気づく。それをきっかけに、時間の使い方、仕事のやり方を研究しはじめ、朝時間にシフト。家族と過ごす時間、自分のための時間が増え、ライフワークをしっかりと楽しんでいる。そんな朝時間の有効性を共有する「朝カフェ次世代研究会」を主宰し、朝時間仲間をどんどん増やし、仕事とプライベートを充実させる啓蒙書。生活を見直したいと考えるビジネスパーソンにおすすめの1冊だ。



著者紹介 永井孝尚(ながい・たかひさ)

 日本IBMソフトウエア事業部マーケティング・マネージャー。1984年3月、慶應義塾大学工学部卒業後、日本IBM入社。製品開発マネージャーを担当した後、現在、同社ソフトウエア事業部で事業戦略を担当。2002 年には社会人大学院の多摩大学大学院経営情報研究科を修了。朝時間を活用することで、多忙な事業戦略マーケティング・マネージャーとして大きな成果を挙げる。一方で、ビジネス書籍の執筆や出版、早朝勉強会「朝カフェ次世代研究会」の主宰、毎日のブログ執筆でさまざまな情報を発信。さらに写真の個展開催、合唱団の事務局長として演奏会を開催するなど、アート分野でも幅広いライフワークを実現している。主な著書に『バリュープロポジション戦略50の作法 - 顧客中心主義を徹底し、本当のご満足を提供するために』などがある。


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