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» 2010年03月25日 22時12分 UPDATE

1台2000万円、限定4台:VERTU、漆塗りの芸術品「シグネチャー 吉祥」を発表

ヴァーチュは3月25日、人間国宝の室瀬和美氏が手がけた漆塗りの新製品「シグネチャー 吉祥」を発表した。醍醐、錦光、菊水、南天の4モデルを各1台、限定4台で展開する。

[園部修,ITmedia]

 NTTドコモのMVNOとして富裕層向けに独自の高級携帯電話ブランド「VERTU」を展開するヴァーチュが3月25日、人間国宝の室瀬和美氏に制作を依頼した新製品「シグネチャー 吉祥」コレクションを発表した。VERTU銀座フラッグシップストアのオープン1周年を記念して作られたモデルで、それぞれ春、夏、秋、冬をイメージした作品が1台ずつ、計4台の限定販売となる。

Photo 重要無形文化財保持者(人間国宝)の室瀬和美氏

 シグネチャー 吉祥コレクションは、漆芸の蒔絵分野では6人しかいない重要無形文化財保持者(人間国宝)の1人、室瀬氏が、自らの手で蒔絵と螺鈿を組み合わせて制作した芸術品。企画段階から1年、そして実際の制作に1年をかけて生み出された製品だ。ベースモデルは「シグネチャー(Signature)」。こちらも1台1台熟練した職人が手作りで生産しているモデルで、最も安いステンレススチールでも121万円、イエローゴールドは335万円、ホワイトゴールドは370万円、プラチナなら600万円するが、さらに側面や背面に蒔絵が施された“吉祥”シリーズは完全な1点ものであり、価格は1台2000万円になる。

 シリーズ名の吉祥は、室瀬氏が名付けたものだ。吉祥は「めでたい兆し」「よい前兆」を意味する言葉であり、この端末のオーナーに幸福が訪れるように、との願いが込められている。また1つ1つのモデルには、醍醐、錦光、菊水、南天という名が付いている。

 醍醐(だいご)は、桜の名所である京都の醍醐をイメージして、春の華やかな情景を描いたモデル。金属部分はシルバーで、桜の花びらや鳥が螺鈿(らでん)により表現されている。

PhotoPhoto 「醍醐」

 錦光(きんこう)は、唐花・唐草模様から着想を得て、まばゆい夏の光を意匠化したモデル。螺鈿で表現された部分は厚貝を用いており、角度によって色が変わる。

PhotoPhoto 「錦光」

 菊水(きくすい)は、文字通り日本の秋を代表する菊の花を題材にしたモデル。旧暦9月9日に催される重陽の節句(菊の節句)では、菊の花を飾ったり、菊の花びらを浮かべた菊酒を飲み交わしたりして長寿を願ったことから、菊水にも長寿への願いが込められているという。

PhotoPhoto 「菊水」

 南天(なんてん)は、初夏に白い花を咲かせ、冬に赤い実を付ける常緑植物がモチーフ。発音が「難を転じる」に通じることから縁起のいい木とされている南天を、薄貝螺鈿で表現している。

PhotoPhoto 「南天」

最高の技術と最高の芸術を融合

Photo 左からVERTUのプリンシパルデザイナー、フランク・ヌォーボー氏、室瀬和美氏、VERTU プレジデントのペリー・オースティング氏

 発表会であいさつに立ったVERTU プレジデントのペリー・オースティング氏は「吉祥は日本から世界に発信する製品。私たちは1998年にVERTUを立ち上げて以来、いかに近代技術と芸術や美しさを融合するかに挑戦してきた。室瀬先生には、VERTUの製品を一度見ていただき、今回のプロジェクトに参加することを快諾していただいた。吉祥コレクションはパッション、エモーション、そしてディテールにこだわった製品。室瀬先生と仕事ができたのは非常に喜ばしいこと」と、VERTUの製品にふさわしい芸術品が完成した喜びを話した。

 VERTUのプリンシパルデザイナーであり、アートディレクターでもあるフランク・ヌォーボー氏は、シグネチャーをデザインしたときの思いを「これは究極の“コミュニケーションインスツルメント”と考えていた。最新の技術と伝統的なクラフトマンシップを融合させて、触ったときの感覚も最もすばらしいものを目指した」と語る。そのシグネチャーを、室瀬氏が「さらに美しい製品・作品に仕上げてくださった」と謝意を表した。

 室瀬氏は「携帯電話に蒔絵をすると聞いたとき、日本で携帯電話を使うイメージを想像し、蒔絵と合うのだろうか、という印象があった」と一抹の不安があったことを明かした。しかし、実際にシグネチャーのデザインを見たときに、「あ、これならば蒔絵を付けて、美の世界も表現できるのではないか」と感じて引き受けたというエピソードを披露した。

 吉祥コレクションは、制作に1年がかかったということからも分かるとおり、非常に手の込んだ工程を経ている。主な工程をは以下のとおりだ。

焼き付け→置目→螺鈿(裏彩色)/螺鈿(貝貼り)→粉蒔き→粉固め、塗り込み→研ぎ出し→胴摺り、摺漆、艶上げ


 焼き付けでは、まず金製のパーツの表面に金粉を混ぜた漆を下地として塗り、電気炉で150度に熱して焼き付けた後で冷やす。2度目からは松煙を混ぜた漆を使い、研いでは塗り、焼き付けるという作業を8回繰り返してきめ細かく平らな漆黒の漆面を作る。

 続いて、下絵を描く「置目」を行う。薄い和紙に文様を描き、裏から漆でなぞったものを漆面に転写する。さらに消粉と呼ばれる細かい金粉を絡め、金色の線を浮かび上がらせる。

 螺鈿(裏彩色)は、南天の実の部分などに用いられた。南天の場合、貝の裏面に漆を塗って赤色銀箔を貼り、焼き付けるという工程を2度繰り返している。ほかの部分に使う貝では銀箔ではなくプラチナ粉を用いて焼き付けを2回行った。こうした裏彩色を行った後、糸鋸や外科手術用のメスなどを使って正確に形を切り出す。螺鈿(貝貼り)は、錦光などで用いられた。貝の裏に漆を塗り、和紙の上に並べて置目した位置に貼り付ける。厚貝の場合は、金属パーツに彫り込みを施してそこに埋め込んでいる。

 粉蒔きは、毛先が非常に細くて長く、腰の強い蒔絵筆を使って漆で描いた模様の上に粉筒に入れた金粉や色漆の粉をまく工程だ。そして粉をまいた上に筆で漆を塗り、まいた粉を定着させる作業が粉固め。さらに背景部分には地蒔きと呼ばれる作業を行う。その後、螺鈿部分も含めて全体を漆で塗り固める塗り込みを行う。塗り固めて研ぐ作業は複数回繰り返し行う。

 研ぎ出しは、特別に柔らかく焼いた研炭で研ぎ出した上、さらにきめの細かい炭で滑らかに表面を研ぎ出す工程。そして油と砥の粉で磨く胴摺り、脱脂綿で漆をすり込む摺漆などの工程を重ね、最後に鹿の角を蒸し焼きにして細かくした角粉で磨き上げる艶上げを経て完成する。

 実物は、東京で限られた人を招待したイベントでの披露の後、国内を巡回する。

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