「重い」――。VERTU端末を初めて触ったときの感想は、この一言に尽きる。例えばVERTUモデルの1つ「シグネチャー」のサイズは42(幅)×130(高さ)×13(厚さ)ミリと、数字だけを見ると、一般的なストレート端末と大差ない(幅が細いので、体積はむしろ小さい方だろう)。だが重さは166〜238グラムと、100〜140グラム程度が主流の一般的な携帯よりもはるかに重く、手に“ずっしり”とくる。プラスチック素材が大半を占める携帯電話において、VERTUは明らかに特別な存在だ。
Vertu(ヴァーチュ)はNokia傘下の高級携帯電話ブランド(以下、ブランド名は「Vertu」、サービスや端末は「VERTU」と表記する)。1998年に設立され、2002年に第1号を発表した。現在は「シグネチャー」「アセント」「コンステレーション」という3つのシリーズを展開しており、世界50カ国、600店舗以上の高級時計店や宝飾店、百貨店、VERTUブティックで販売している。
そしてVertuは日本への参入を決定。2009年2月19日に「Vertu銀座フラッグシップストア」をオープンし、VERTU端末の販売を開始した。5月には日本限定のメンバーシップサービス「VERTU Club」を開始する予定で、ユーザーはコンシェルジュをはじめとするサービスを利用できる。
日本で発売されるモデルは「シグネチャー(Signature)」「アセント・ティー・アイ(Ascent Ti)」「アセント・ティー・アイ・フェラーリ(Ascent Ti Ferrari)」の3種類。価格はシグネチャーが121万円〜600万円、アセント・ティー・アイが67万円〜80万円、アセント・ティー・アイ・フェラーリが94万円〜110万円となる。
こうして価格だけを見ると、VERTU端末は「携帯電話」というよりは「高級アクセサリー」と呼ぶ方がふさわしいように思える。一般の携帯電話と比べて、文字どおり桁違いの価格たる理由はどこにあるのか。そして携帯電話としてはどの程度作り込まれているのか。Vertu銀座フラッグシップストアを取材する機会を得たので、普段はなかなかお目にかかることの少ないVERTU端末の詳細をリポートしよう。
VERTUモデルの中でも“顔”といわれるシグネチャーは、Vertuが10年かけて製品化を実現したという大作だ。特筆すべきは、シグネチャーは「マスタークラフツマン」という1人の専属職人が全工程を手作りで製造していること。さらに、使用するパーツは一般的な携帯電話よりも6〜7倍多い263個にも上る。この専属職人は世界で6人しかおらず、バッテリーカバーの内部には製作者のサインが刻まれている。
ちなみに、アセント・ティー・アイも手作りだが、シグネチャーのように1人の職人が全工程を担当するわけではない。大量生産が主流の携帯電話とは異なるアプローチを採るVERTU端末の中でも、シグネチャーは“究極のハンドメイド端末”といえるだろう。
Vertu日本事業プレジデントの伴陽一郎氏は、「シグネチャーは、Vertuの目指す『究極の製品を作ろう』という考え方から生まれた製品で、海外では『成功した人の携帯』『CEOのための携帯』と言われています」とコンセプトを説明する。
“シグネチャー(Signature)”は日本語でサインを意味するが、それに関連して「大切なもの」という意味も込められているという。携帯電話は所有者の“分身”といえるほど日常生活に密着している。そこで、「シグネチャーは、ゴージャスな外観だけでなく、お客様の価値観をいかに表現できるか、という点にもこだわりました」と伴氏は話す。
シグネチャーの表面(ディスプレイ側)は、2000℃の溶鉱炉で2週間以上かけて精製されたサファイアクリスタルで覆われている。「スイスの高級時計などにも使われているもので、Vertuが特別に開発しました。サファイアクリスタルのメリットは、美的価値を上げるのと同時に、耐久性に優れていることが挙げられます」と伴氏は説明する。その耐久性は、車のキーでディスプレイをひっかいても傷が付かないほどだという。
裏面には北ヨーロッパ産のレザーを採用。伴氏によると、高級スポーツカーのレザーシートで使われる特別な素材で、非常に丈夫だという。また、金属部分にはゴールド(18金)やプラチナを使用しており、貴金属の品質保証を行う国際機関、スイス・アッセイ・オフィスの認証刻印がある。「電子機器でこの認証を取ったのは、VERTUが初めてです」と伴氏は胸を張る。
ダイヤルキーは“完璧なクリック”を追求し、4.75カラットのルビーベアリングを各キーの内部にはめ込んだ。実際にキーを押したところ、これまでの携帯電話とは異なる「カチッカチッ」という独特のクリック感を確認できた。「スポーツカーや高級自動車のエンジニアは、ドアを閉めるときの音にもこだわります。ルビーを入れたのも、これと同じ発想です」と伴氏は話す。このダイヤルキーには特許を取得し、開発には2年以上を要したという。
着信音やアラートなどのメロディは、アカデミー音楽賞の受賞歴を持つ作曲家、ダリオ・マリアネッリ氏が作曲したオリジナル作品を採用。さらに、ロンドン交響楽団が演奏したものを録音した。
なお、シグネチャーはカメラを搭載しない。「日常生活で(携帯の)カメラは必要ないという人たちがメインターゲットになります」(伴氏)
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