タブレットで変わる、学びのカタチ(1)小寺信良「ケータイの力学」

» 2013年07月08日 08時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 携帯電話の時代からスマートフォンに至るまで、個人通信デバイスを教育に使おうとする試みは、連綿と行なわれてきた。だが筆者は電子教科書の議論を待つまでもなく、教育改革の本丸は、タブレットであると見ている。なぜならば、教材として適切な画面サイズがあり、PCより軽く、バッテリー駆動時間が長いというハードウェア的なメリットがあるからだ。

 およそ3年前に「iPad」が出たとき、先進的な先生方は、これは教育に使えると直感したはずだ。だが最安モデルでも5万円程度するデバイスなので、クラスの人数分、あるいは学校の生徒全員分をそろえると、かなりの金額になる。保護者に出せというのも微妙に酷な金額であったため、一括導入には自治体や国に予算を付けてもらうしかなかった。

 だが、低価格で7インチのAndroidタブレットが作れると分かった今、これを知育ツールとして使おうという動きが出てきた。トイザらスとバンダイ、一見近い関係に見える両社が、全く別のアプローチからこの分野に参入した。

米国企業が作るトイザらス「MEEP!」

 トイザらスは2013年4月より、子ども向けのタブレット「MEEP!」の販売を開始している。価格は1万4999円。Amazonの「Kindle Fire HD」が高精細液晶を搭載して1万5800円なのを知っていると微妙な気がするものの、Androidタブレットの価格としては安いほうである。

 これを作っているのは、米国のOregon Scientific。この会社はInternational CES(Consumer Electronics Show)にも毎年出展していて、これまで防水型MP3プレーヤーや腕時計型万歩計など、すでに枯れた技術を独自にカスタマイズして違う現場に投入することが得意な会社だ。デジタルヘルス分野では、米国ではまずまずの大手である。

 MEEP!本体のボディは樹脂製で、厚みはかなりある。さらにその周りにシリコンのカバーが付いているので、多少乱暴に扱っても壊れにくい感じがする。

photo 子ども向けAndroid端末「MEEP!」

 もちろんホーム画面はむき出しのAndroidではなく、独自に機能制限がされているが、設定画面などは素のAndroid画面が出てくる。このあたりは子どもがイタズラしてわけが分からなくしそうだが、細かい設定項目は省かれている。

 機能制限とかどうするの、という疑問もあるだろうが、これらはすべて保護者がPCでクラウド上にあるMEEP!用の管理画面にアクセスし、そこから設定するようになっている。ゲームの利用時間や音楽、写真の利用時間、ネットを利用させるかどうか、セキュリティレベルをどれぐらいにするかといった設定が、簡単にできる。

photo MEEP!のクラウド側管理画面

 またMEEP! 専用ストアがあり、そこから安全なアプリや電子書籍を購入できるようになっている。ただし、現時点では大半のコンテンツが英語のままだ。これらのコンテンツ販売まですべて、Oregon Scientificが管理しており、日本のトイザらスが今後内容に関与していくのかは不明だ。

 対象年齢は6歳以上となっているので、小学生の低学年ぐらいが使う想定である。しかしおもちゃ扱いするなら、ニテンンドー3DSのほうが安全だし楽しいだろう。やはりこれには、教育的側面を期待してしまう。

 だが、そういうニーズには、現時点では応えられない。そもそも日本語のアプリがほぼない上に、日本語入力システムが標準で入っておらず、保護者がPCからクラウドに入り、Google Playを起動してインストールしてやる必要がある。例えばWeb上の知育ページにあるような、ひらがなで自分の名前を入れる程度のことすら標準ではできない。

 おそらく値段やルックスから、もうちょっと簡単なものを想像した人も多いだろう。だが、箱から出して、さあこれで学んでごらんなさい、と手放しでほっておけるようなものではない。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia Mobileでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。


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