すべてをそぎ落とせばSIMが残る――ドコモが「ポータブルSIM」で見据えるものMobile Asia Expo 2014

» 2014年06月12日 19時14分 公開
[末岡洋子,ITmedia]

 NTTドコモは6月11日から中国・上海で開催中の「Mobile Asia Expo 2014」にて、小型認証デバイス「ポータブルSIM」のデモを初公開した。

photo 「ポータブルSIM」

 ポータブルSIMは、スマートフォンやタブレットをかざすだけで、Bluetooth経由で回線認証が行えるデバイス。SIMカードを内蔵しており、複数の端末にかざして利用するという全く新しい使い方を提案するものだ。会場には同じく開幕直前にM2M通信の提携を発表した自動車メーカーTeslaが登場したこともあり、目玉ブースの1つとなった。その会場で、ポータブルSIM開発に携わったNTTドコモ理事 移動機開発部長の照沼和明氏と、移動機開発部要素技術開発担当担当部長の村田充氏に話を聞いた。

photo 右からNTTドコモ理事 移動機開発部長を務める照沼和明氏、NTTドコモ移動機開発部要素技術開発担当担当部長の村田充氏

きっかけはウェアラブル、マルチデバイスやデバイス共有に有用

―― ポータブルSIMを開発した経緯についてお聞かせください。

照沼氏 当初「ウェアラブルSIM」と言っていたこともあるのですが、リストバンド型、メガネ型などさまざまなウェアラブルデバイスが登場しています。リストバンド型はセンサーが情報を収集する入力デバイスで、メガネ型は端末側の情報が出力されています。このように出力、入力のデバイスとして周辺機器やウェアラブルデバイスが開発されているという現状があります。そこでわれわれは視点を変えて、入出力ではなくSIMにあるIDや認証に着目しました。これを独立したデバイスとして持ち運びできるようにしたらどうなるか――。

 逆に言えば、スマートフォンにはさまざまなものが搭載されています。これらの機能をそぎ落としていくと、最後に残るものはSIM、という発想です。最後に残ったSIMを1つのデバイスとして持ち運ぶと何ができるのか。検討してみたら、新しい使い方ができそうだ、ということになりました。今回、Mobile Asia Expoで我々の考えを提案し、みなさんのご意見をうかがうために、デモと展示を行うことになりました。

 検討は2013年秋ごろから開始し、2014年から4〜5カ月で作成しました。

―― どのような使い方がありますか?

照沼氏 ポータブルSIMをかざしてSIMの情報をスマートフォンに読み込ませるというのが基本的な使い方です。端末との接続にはBluetoothを用い、Bluetooth接続をトリガーするためにNFCを入れています。

photophoto ポータブルSIMを端末にかざすとそのSIMの情報でスマートフォンが利用できる(写真=左)。スマートフォン側にはSIMは入っていない(写真=右)
photophoto かざすと「Connecting」と表示されて情報を読み込み始めた(写真=左)。SIMと同じ電話番号がスマートフォン側に表示されている(写真=右)

 1つ目のマルチデバイスの例では、1台の端末で利用した後に、別の端末で利用することができます。

 2つ目として、1台のデバイスを複数のポータブルSIMで使うといった例があります。デモは家庭用と仕事用ですが、家族がそれぞれのポータブルSIMを持つことも想定できます。デモでは仕事用のポータブルSIM利用時はカメラ機能が利用できなくなりますが、子ども用はペアレンタルコントロールがかかるなどの設定が考えられます。

photophoto 1つのSIMで複数代の端末を利用時、新しい端末でペアリングをすると直前まで利用していた端末は「disconnect」となり、SIMとのBluetooth接続が切断される(写真=左)。SIM側の情報が反映されるので、ビジネス用のSIMでは設定通りにカメラ機能は制限された(写真=右)

 3つ目として、セキュアエレメントが入っているので、サイトにアクセスするときのIDとパスワードを入れることも可能です。専用の管理アプリを利用して、Google、AmazonなどにアクセスするIDとパスワード情報を事前に記憶させておけば、ポータブルSIMをかざして面倒な入力なしに認証できます。

photophoto 管理マネージャーにサービスのIDとパスワード情報を保存しておけば、スマートフォンやPCでサービス認証が可能。デモではdocomo ID、Google、楽天、Amazonを設定している(写真=左)。NFCリーダーを利用してPCでポータブルSIMを使ったデモ。AmazonのIDとパスワードが自動的に反映された(写真=右)

―― 設定はどの範囲まで可能でしょうか?

照沼氏 ペアレンタルコントロールはシンプルですが、家族で共有するときにメールを見られたくないかもしれません。クラウド形式であれば、端末に残っているメールを全部入れ替えるといったことも全く不可能というわけではありません。ただ、ダウンロードに時間がかかり、料金的にもすぐに実現できるとはいえません。データ量などを気にしない環境が整ってくれば、それこそ可能性はさまざまでしょう。

用途はこれから――おサイフケータイが載る可能性も?

―― NFCとセキュアエレメントが入っていますが、今後おサイフケータイのような機能が載る可能性は?

照沼氏 FeliCaを搭載しておサイフ機能をこちらに移す可能性も十分考えられます。

―― 端末側が対応するにはどのような変更が必要ですか?

照沼氏 今回デモで利用している端末では、モデム部分に手を入れて、モデムがSIMを読み取る際に、内部のSIMではなくBluetooth接続からSIMを読むように変更しています。

村田氏 Bluetooth 4.0を利用していますが、Bluetooth 3.0まではSIMにアクセスするプロファイルがありました。4.0ではなかったので、我々が一部修正して実現しました。

――端末がそろわなければ、ポータブルSIMの使い方は盛り上がらないように見えます。端末側の対応をどのように促していくのでしょうか。標準化などの可能性は?

照沼氏 端末メーカーにとってポータブルSIMへの対応は、それほど大きな変更を強いるものではないと考えています。我々としては、NTTドコモだけでやっても広がりが制限されるので、海外を含めて広めていくことを考えています。Bluetooth 4.0で我々が拡張した部分については標準化の提案ができると思いますが、どうやって広めていくかはこれからです。

 今回(業界団体である)GSMAのイベントで発表、展示したのも、そういった思いがあるからです。Expoとは別に、GSMAの会議で世界のオペレーターにもこの構想を提案しました。市場として盛り上がれば、端末メーカーも標準搭載するかもしれませんし、チップなどモデムベンダーが採用してくれる可能性もあるでしょう。

 ポータブルSIMの考え方では、マルチデバイスで使いやすい環境、端末の数が増える世界を想定しているので、チップベンダーや端末メーカーにはメリットは分かりやすく、同意が得やすいかもしれません。

―― ほかのオペレーターの反応はどうですか?

照沼氏 「回線契約が増えないモデルにみえる」というややネガティブなコメントもありましたが、多くが「ユースケースが広がりそうだ」「新しいもの、今まで使いにくかったものが使えるようになるかもしれない」と肯定的でした。総じてデータの利用が増えて全体のビジネスが大きくなる、と思っていただけたのでは、と思います。

実用化の時期は未定、業界で用途を開拓していきたい

―― 実用化はこれからとのことですが、実用化、そして受け入れが進むために何が必要と考えますか?

照沼氏 まずはポータブルSIMを小さく、魅力的にしなければなりません。せめてリストバンドぐらいのサイズに落としたい。そうすれば腕をかざして乗車、腕をかざしてスマートフォンやタブレットを利用という世界になります。

 セキュリティも強化する必要があります。セキュアエレメントは攻撃には強いセキュリティ技術ですが、紛失や窃盗には弱い。そのまま使われてしまいます。安全にするための方法は現時点で2つ考えられます。1つ目は指紋認証などの生体認証を入れること、2つ目は管理ソフトを利用して、盗難・紛失の届けがあれば無効にするなどの仕掛けを入れることです。

―― ポータブルSIMの潜在ユーザーはどのぐらいと見積もっていますか?

照沼氏 全員に必要なものとは思っていません。1台の端末にすべてを入れていて、これだけを使いたいというユーザーはたくさんいらっしゃると思います。ポータブルSIMは端末を使い分けたい、家族でシェアしたいというユーザー向けで、最初はごく一部に限定されるのではないでしょうか。ですが、マルチデバイスの利用が増えていることも確かで、対応するデバイスが増えればポータブルSIMも一般的になるかもしれません。

村田氏 テレビ、音楽プレーヤー、車などさまざまなものに無線モデムが付くようになると、現在とは変わった想定になります。そうなるとユーザーはさらに増えると予想できます。

―― ポータブルSIMは、これまでの収益構造の考え方を変える潜在性もある技術に見えます。モノのインターネットの機運が高まっており、その点からみても有用なソリューションになりそうです。M2Mを積極的に推進していますが、そことの連携は?

照沼氏 まさにこれからです。ビジネスモデルの点もこれから検討していきたいと思います。

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