Xperiaの“スーパーミッドレンジ”戦略とは?――ソニーモバイル十時社長に聞くMobile World Congress 2015

» 2015年03月03日 11時19分 公開
[房野麻子,ITmedia]

 ソニーモバイルコミュニケーションズは、現地時間の3月2日、スペイン・バルセロナで開催中の「Mobile World Congress 2015」会場内でプレス向けのイベントを実施。ソニーの平井和夫社長とソニーモバイルの十時裕樹社長が登壇し、今後の事業方針について語った。

 平井氏は、2月18日の経営方針説明会について言及。「ソニーは高い利益を出す企業に変わらなくてはならない」とする一方、「モバイル事業がソニーにとって重要な事業だということは変わらない」と明言した。

photo ソニーの平井社長

 十時氏は、「ソニーモバイルは素晴らしい製品を出したが、正直、利益を出すことができなかった」と最近のモバイル事業を振り返りつつ、ベストなコミュニケーションツールを作ることが重要だと語り、新しいカテゴリー「スーパーミッドレンジ」の端末として「Xperia M4 Aqua」を紹介した。Xperia M4 Aquaは、Xperia Z3シリーズで評価された長時間バッテリー、暗い場所でも美しく撮れるカメラ、防水性能を備えており、今春、世界80カ国での発売を予定している。なお、日本での発売は予定していない。

 また、十時氏はソニー銀行や社内で立ち上げているベンチャーについて語り、今後の事業に生かせる2つの強みとして、技術的なノウハウを培ってきたソニーの歴史とベンチャースピリットを挙げた。

photo ソニーモバイルの十時社長

グローバルではスーパーミッドレンジがボリュームゾーンに

 イベント終了後、日本のメディア向けに十時氏の囲み取材が行われた。記者の質問と十時氏の回答は以下の通り。

―― 初めてMWCで登壇されていかがでしたか。

十時氏 緊張しました。プロンプターを使ってスピーチするのは初めてだったので。

―― スーパーミッドレンジについてもう少し詳しく教えてください。

十時氏 スマートフォンにはいろんな機能が入っていて、図抜けたプレミアムモデルは日本では人気がありますが、ワールドワイドでお客さんのリクエストやオペレータさんの考え方を聞いていると、ミッドレンジ、「value for money(金額に見合う価値のあるもの)」というか、満足度が高くて機能も優れているモデルがコンシューマーに求められているという認識です。その中で、どういうとがったものを作っていけるかが重要なのでは、という議論をしました。そこで、あえてスーパーミッドレンジという言い方をさせてもらいました。

―― どういう国や人をターゲットにしているのですか。

十時氏 できるだけグローバルに、中心となるモデル数を絞って展開したい。スマートフォン自体は生活必需品になりつつあって、いろんな機器をつなぐためのハブやターミナルの要素が強くなっていくので、何かに特化したものというよりも、ジェネラルユース、役に立つものの方がいいんじゃないかと思っています。

―― これまでのソニーのミッドレンジ端末も、ある意味スーパーミッドレンジだったという印象がありますが、それとは違ったモデルになるのでしょうか。

十時氏 それは今後のお楽しみですが、何をとがらせて、トレードオフとして何をそぎ落としていくのかは、今からやらなくてはいけないことだと思っています。

フラッグシップモデルは年1回のペースに

―― これまでは半年ごとにフラッグシップモデルを投入していましたが、今回はフラッグシップではありません。どういう方針転換があったのでしょうか。

十時氏 ワールドワイドでは、フラッグシップは年に1回というのがコンセンサス。1台のスマートフォンを使う期間は長くなりつつあります。以前のように、どんどん新しいスペックを追加して買い替えていくというよりは、もう少し長く使うようになりつつあるのが今のトレンドで、それを考慮しなくてはいけないと思っています。国やオペレータさんによるので、一概にはいえないのですが。

―― 国内ではSo-netと一緒にやるという話がありましたが。

十時氏 So-netはMVNOやMVNEとしてやっているので、我々のデバイスを使って、サービスや市場を作り出していくことは、グループとして自然な行為です。私がもともとSo-netにいたということもありますので、可能性はしっかり追求していきたいと思っています。

―― 新ビジネスの可能性について語られていましたが、ソニー全体でソニーモバイルをどのような位置付けにして、どういう新ビジネスをしていきたいのでしょうか。

十時氏 新ビジネスについては、もう少し時間がたてば、お話しするタイミングが来ると思いますが、ソニーグループの中で、ソニーモバイルが新しいことをやっていくという文化を作る触媒みたいなものになれるといいかなと思っています。今期についてはご心配をおかけしているかもしれませんが、通信機能を持つデバイスはいろんな可能性があるので、我々としてはスマートフォンだけをやるというよりも、通信機能を持つデバイスで、どういう発展の可能性があるのか、お客さんに新しい立場でどんな提案ができるのかということを、追求してやっていきたいと思っています。

―― 既存の携帯電話の概念を超えた通信機器になるのでしょうか。

十時氏 スマートフォンは、すでによくできたフォームファクターだと思っています。先ほど申し上げたように、これからはハブとかターミナルとしての位置付けが強くなってくるので、その周りにどういうプロダクトを並べて、つないで、新しいユーザー価値を提供していくか、みたいなことをやりたいですね。もう1つ、そういうときには必ず通信がはさまるので、それで何かサービスモデルを組み立てるのは、面白いチャレンジになるんじゃないかと思います。

プレミアムタブレットは限られた地域で展開

―― プレミアムタブレット(Xperia Z4 Tablet)の勝算はどう考えていますか。

十時氏 プレミアムタブレットは数を追う商品ではなくて、限られた地域で展開する商品。スペックもかなり高いので、おしなべて広くあまねくというよりも、エリアをフォーカスして、あるいはオペレータさんを限定して、という感じで展開するプロダクトとしてやっていきたい。

―― 日本での展開の予定はありますか。

十時氏 それはおいおい話します。

―― 日本のスマートフォンは、世界の傾向とだいぶかけ離れています。日本での対応はどう考えていますか。

十時氏 いいご質問で、日本だけが、かなりハイスペックです。日本のプロダクトを海外に展開するのは難しいことになります。ただ、日本でそういう端末を望んでいるお客さんがいるというのは事実ですし、2年ごとの買い替えで、それをビジネスの起爆剤にしたいというご要望もあると思いますので、そこはオペレータさんと話しながらやっていかなくてはならないと思っています。そのレンジをグローバルに広くあまねくというのは、価格帯のズレが大きいと感じています。

―― スーパーミッドレンジがメインになっていくということでしょうか。

十時氏 ボリュームゾーンを作るのは、そういうレンジになると今は思っています。

―― 先日の経営方針説明会で、他社との提携、売却も考えて、という厳しいことを言われていましたが、それについてどう受け止めていますか。

十時氏 利益が出ていないので、そういう話になりましたが、私がやらなくてはいけないことは、この会社をきちんとターンアラウンド(収益改善)させて、なおかつ、ちゃんとお客さんに対して新しい提案をすることができるようにすることです。それに集中したい。

―― Sales and Marketingの責任者、Dennis van Schie氏のプレゼンテーション中に、「ルックダウンからルックアップへ」(下向きで画面を見て操作するスタイルから、前を見るスタイルへの転換)というスピーチがありましたが、それを実現するために、どのように変わっていくのがいいと思っていますか。

十時氏 ウェアラブルは1つの可能性だと思っています。ボリュームとしては、台数ベースでまだスマートフォンの50分の1以下ですが、その可能性をどこに持っていくかが重要だと思います。ウェアラブルの基本は両手が空くということ。両手を空けた状態で使える形状は何なのか、それで価値が出る場面はなんなのか、ということを考えていかなくちゃいけない。個人が使うものよりも、もしかしたらBtoBみたいな方が組み立てやすいかもしれないと思っています。ウェアラブルを使ってBtoBでビジネスを組み立てることからチャレンジしたい。

―― Windows Phoneが増えてきていますが、XperiaはAndroidのまま行くのでしょうか。

十時氏 決めてはいませんが、プラットフォームを変えたり新しいプラットフォームを追加したりするのはリードタイムがいること。その議論は常にありますが、今、お話しできることは何もありません。

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