2社の冬春モデルを見渡すと、もう1つ、従来とは異なる傾向があることが分かる。それは、ミッドレンジモデルへの取り組みだ。ドコモは富士通のフラッグシップモデル「arrows NX」に加え、Snapdragon 410を搭載した「arrows Fit」も用意。Galaxyも、フラッグシップの「Galaxy Note 5」ではなく、廉価モデルをベースにした「Galaxy Active neo」をラインアップに加えている。
また、ソニーモバイルは「Xperia Z5 Compact」を、シャープは「AQUOS Compact」を取りそろえるなど、従来以上に端末のサイズや価格に幅を持たせてきた。Xperia Z5 CompactやAQUOS CompactはそれぞれSnapdragon 810、Snapdragon 808を搭載しており、スペック的にはハイエンドモデルに属する機種だが、使われている部材やチップセット以外のスペックを見る限り、フラッグシップモデルより価格は抑えられることになるだろう。
ドコモの加藤氏は、バリエーションを広げたことに対し、端末代が高いという指摘を受けたものであると認め、「試行錯誤で、何がいいかを探っていきたい」と語っている。iモードケータイからの乗り換えペースが鈍化している上に、価格に敏感な層はMVNOに転出する動きも顕著になってきた。こうしたユーザーが選ぶのが、普通に使えてそこそこのスペックを持つミッドレンジモデルだ。
数年前だと、ハイエンドモデルでもレスポンスがいまいちで、ミッドレンジモデルはとても快適に使えるとはいいがたい状況だった。ところが、ここ数年で端末の性能は一気に上がり、ネットやメッセージをやり取りする程度なら、ハイエンドモデルを選択する必要はなくなりつつある。ドコモは夏に戦略モデルとしてシャープの「AQUOS EVER」を投入しており、売れ行きも「比較的好調で成功と見ている」(ドコモ関係者)。冬春モデルのラインアップは、この流れを加速させたものといえるだろう。
同様に、ソフトバンクも、ミッドレンジモデルはY!mobileブランドで投入していく方針だ。同社の宮内氏は「作戦として、ワイモバイルはミッドレンジぐらいのハンドセット(端末)を中心にやっていく」と明かす。そのため、Nexusシリーズも、ハイエンドのNexus 6Pはソフトバンクで、それよりややスペックの落ちるNexus 5XはY!mobileで販売する。
ワイモバイルは「1Gバイトのプランからスタートできる」(宮内氏)ため、料金が安価な半面、端末に対する割引を出しづらいビジネスモデルになっている。MVNOと同様、端末の“素の値段”が見えてしまうというわけだ。そのため、どうしても価格が高くなりがちなハイエンドモデルを扱いづらい。実際、Nexus 5の後継機として投入したNexus 6は、価格が7万円を超えており、飛ぶように売れていたNexus 5とは明暗を分ける結果になってしまった。こうした過去の経緯もあり、ハイエンドモデルのNexus 6Pは、ソフトバンクで割引をつけ、戦略的な端末として取り扱っていくことになったようだ。
ミッドレンジモデルは、Huaweiの「LUMIERE」も取り扱う。ペットネームこそ異なるが、端末はファーウェイ・ジャパンがMVNO向けに販売しているSIMロックフリーモデルの「P8lite」そのもの。チップセット、カメラ、ディスプレイなどはもちろん、厚さまでまったく同じだ。違いは、「背面にHuaweiのロゴがあるかないか」。
P8liteは3万円前後の価格で販売されており、Huaweiのヒットモデルとなっている。SIMロックフリー端末では「7月、8月と2カ月連続で販売数1位になった」(ファーウェイ・ジャパン デバイス・プレジデント 呉波氏)という、今注目の1台だ。安価なY!mobileの料金プランと組み合わせやすい端末として、Nexus 5X以上に人気が出る可能性もある。
安倍晋三首相が携帯電話料金の値下げを指示する中、端末と通信料が一体化した今の料金を、疑問視する声も聞こえてくる。内閣が、民間企業の料金プランに口出しする是非はさておき、各社とも何らかの対応はせざるをえなくなるだろう。ドコモの加藤氏も「モバイルビジネス研究会で、端末を定価に近い形で売りましょうという話になったが、スマホになってからそうではなくなってきた面もある。どうあるべきなのかを考える、いい機会なのかもしれない」と述べていた。
このような状況になれば、キャリアもミッドレンジモデルを拡充せざるをえなくなる。冬春モデルのミッドレンジモデルは、こうした動きをにらんだものといえるのかもしれない。
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