ドコモとソフトバンクが相次いで冬春モデルの発表を行い、最大の商戦期である春商戦までをにらんだラインアップの全貌が明らかになりつつある。2社が火花を散らす中、KDDIは発表の予定は「未定」(広報部)と静観の構えだが、傾向は見えてきた。今回の連載では、ドコモとソフトバンクの、それぞれの新製品から読み解ける戦略を解説していく。
iPhoneをいち早く導入したソフトバンクだが、3社に行き渡った今、端末ラインアップでの差別化が難しくなりつつある。同社の代表取締役社長兼CEOの宮内謙氏は「Appleは重要なパートナー」と前置きしつつも、次のように語っている。
「量販店の数字で見ると、Androidの新規のシェアはもはや50%を超えている。ときには6割を超えている勢い。今年(2015年)の春ぐらいからGalaxyも扱い出した」
差別化の要因として、Androidの重要性が増しており、宮内体制になってからラインアップも大幅に強化している。GalaxyやXperiaなどでは他社に並んだ格好だが、これらに加えて、他社にはない機種として同社が力を入れているのが、GoogleのリードデバイスであるNexusシリーズだ。
冬春モデルでは、Googleが発表したばかりのNexus 6Pと5Xを導入。前者をソフトバンクが、後者をワイモバイルが取り扱うという、手厚い待遇で迎え入れた。Nexus 5Xについては、ドコモが対抗したこともあり、価格は未定。ドコモの様子を伺いつつ、対抗していく姿勢を示している。一方のNexus 6Pは、ソフトバンクとして初のNexusシリーズになる。端末価格は「MNPだと32Gバイトが実質0円で、64Gバイトでも300円」(広報部)とのことで、販売にも相当な力を入れていることがうかがえる。
会見には、GoogleのAndroid担当上級副社長 ヒロシ・ロックハイマー氏がゲストとして登壇し、ソフトバンクの全AndroidにGoogle Play Musicの90日間無料特典を与えるなど、Googleとの関係の深さをアピールした。ソフトバンクは「iPhoneを2008年7月11日に発売し、すべてはここから始まった」(宮内氏)というように、プラットフォームを握る事業者の端末に目をつけ、一気に広げることを得意とするキャリアだ。最近ではY!mobileでMicrosoftのSurface 3を独占的に販売し、話題を集めた。Surface 3についても、「法人を含めて一生懸命売っているが、いい出だしだ」(同)といい、好調な様子がうかがえる。
その次の柱として据えたのが、Googleということだ。Nexus 6Pはソフトバンクの独占販売となり、Nexus以外のAndroidにも「ヒロシさんからのプレゼント」という、Google Play Musicの90日間無料特典を付与するキャンペーンを展開する。Nexus 5Xの前身であるNexus 5も、ワイモバイルが販売し、好調な実績を残しているだけに、その効果をNexus 6Pにも期待しているようだ。
宮内氏も「昔はiPhoneの片肺飛行とご批判を受けていたが、オープンな時代になり、新しいAndroid 6.0に対応したハイエンドのNexus 6Pも出てきた。そこで、ソフトバンクからも出していきたいとGoogleさんと話し、それならば独占的にやってもいいと合意した」と、導入の経緯を語る。
ここに対抗してきたのが、ドコモだ。同社の発表会ではOne more thingとして、ソフトバンクに先行してNexus 5Xを公開。日本時間ではGoogleの発表と同日に、Nexus 5Xをお披露目した形となる。ドコモの発表がGoogleの直後になったのは「偶然」(ドコモ関係者)だというが、GALAXY Nexusに続き、久々のNexusシリーズは大きなサプライズとなった。期待を込め、緊張してしまったのか、同社代表取締役社長の加藤薫氏がうっかり「ドコモだけ」と発言してしまい、あわてて「262.5Mbps対応はドコモだけ」と訂正する一幕もあったほどだ。
ドコモとしては、Nexus 5XはあくまでNexusシリーズとして扱っていく方針。OSのアップデートも、基本的にはGoogleに合わせていき、ドコモのアプリなどもプリインストールされない。カテゴリーは、あくまで「その他 スマートフォン」になり、XperiaやGalaxyといった「ドコモスマートフォン」とは分けられている。
ドコモがGoogleのリードデバイスを再び販売できるようになった背景には、サービスのオープン化と、iPhoneでの慣れがあるだろう。同社では、上位レイヤーでマルチキャリア化を進めており、こうしたサービスは端末を選ばず利用できる。例えば、ドコモメールなどもNexus 5Xにはプリインストールされないが、メーラーにアカウントを設定すれば利用は可能だ。
また、GALAXY Nexusを導入したときとは異なり、すでにドコモはiPhoneを導入しており、自社のコントロールが効きづらい端末の扱いにも慣れてきた。GALAXY Nexusでは同社のサービスに何とか対応させようとアップデートが遅れたりした結果、位置づけが中途半端になり販売も伸び悩んでいたが、Nexus 5Xは「ちゃんとしたNexus」(ドコモ関係者)として扱っていく。ある業界関係者によると、「ソフトバンクの方が、発注数は何倍も多い」そうで、販売面ではまだまだキャッチアップできていないようだが、最新OSをいち早く導入できるGoogleのリードデバイスを大々的に発売することで、先進的なイメージをつけたいドコモの狙いが透けて見える。
ドコモの発表会では、Androidを迅速にアップデートしていく決意も表明された。アップデートについては、「お客様からの声もあった」(加藤氏)としながら、「以前からもっと早くしなければという思いはあった。私どもの力もある程度ついてきた」という。Appleブランドで販売し、OSのアップデートもメーカーに委ねられているiPhoneとは異なり、Android端末の場合、端末の販売元はキャリアになることが多い。キャリアモデルでは、アップデートの可否もキャリアが判断している。
自社サービスに対応できなかったり、販売数が少なくコストが見合わなかったりと理由はさまざまだが、これまでいくつかのモデルはアップデートが見送られてきた。仮にアップデートがあっても、各種サービスを対応させる関係で、ベースモデルより遅れてしまうことがほとんどだ。
一方で、海外では、メーカー自身がおおむね2年程度はアップデートを行っているケースが多い。ドコモの端末開発を統括するプロダクト部長の丸山誠治氏は、こうした点に触れ、「グローバルなモデルはアップデートがあってから半年後などになっていた。この差をなるべく縮めていきたい」と方針を語っている。ソフトバンクとは表現の仕方こそ違うが、これもAndroidに対するコミットメントの形といえるだろう。ユーザーにとっても大きなメリットだ。ドコモならアップデートがしっかりかかることが分かれば、安心して端末を選べる。
ドコモのNexus 5Xについては、ソフトバンク関係者も「様子を見たい」と対抗心をあらわにしている。ソフトバンク版の価格が未定なのはそのためだ。Nexus 6Pをラインアップしているにも関わらず、ドコモの発表会直後にソフトバンクがNexus 5Xの導入だけを表明したのも、ドコモ版がどのような扱いになるのか、出方をうかがっていたという。
このように、ドコモとソフトバンクのどちらも、冬春モデルでは、NexusやAndroidを中心に、Googleを大きくフィーチャーする形となった。iPhoneが3キャリアに出そろい、競争が、Androidでどのように差を出していくのかに移りつつあることがうかがえる。現状では、「Xperia Z5」の導入しか発表していないKDDIは、蚊帳の外に置かれた感がある。冬春商戦はキャリアにとって最大の商戦期だけに、何も用意していないわけではなさそうだが、2社に出遅れてしまった印象は否めない。
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