インタビュー
» 2016年03月04日 15時07分 UPDATE

人工知能ロボット「Musio」の量産にも貢献――スタートアップを支援する「BRAIN PORTAL」とは?

リクルートホールディングスのMedia Technology Lab.は、中小企業や工場、専門家とハードウェアスタートアップをマッチングし、製造支援を行う新サービス「BRAIN PORTAL」を、2015年12月に発表した。BRAIN PORTALでは、具体的にどんな支援をしているのか?

[房野麻子,ITmedia]

 3Dプリンタやクラウドファンディングを活用し、個人やベンチャー企業がものづくりに参入する“メイカーズムーブメント”が盛り上がりを見せている。そんな中、リクルートホールディングスの事業育成機関であるMedia Technology Lab.は、中小企業や工場、専門家と、ものづくりを行うベンチャー企業、いわゆるハードウェアスタートアップをマッチングし、製造支援を行う新サービス「BRAIN PORTAL」を、2015年12月に発表した。

 BRAIN PORTALは具体的にどのような支援を行うのか。また、なぜハードウェアにフォーカスしたのか。BRAIN PORTALの共同起案者である高橋ひかり氏と、BRAIN PORTALのサービスを利用して日本で人工知能ロボットの開発を行っているAKAのCSO、ブライアン・リー氏に話を聞いた。

BRAIN PORTAL ブライアン・リー氏(左)と高橋ひかり氏(右)。手にするのは、製造を支援したロボット「Musio」

試作品を出した8割以上が出荷遅延や企画頓挫に

BRAIN PORTAL Media Technology Lab. BRAIN PORTAL共同起案者の高橋ひかり氏

 ハードウェアスタートアップによるものづくりが、かつてない盛り上がりを見せている。クラウドファンディングサイト「Kickstarter」では、出品するハードウェアスタートアップ企業が、2011年から2014年の間に約10倍に増加。しかし一方で、資金調達に成功したプロダクトの8割以上が、量産化の際に大幅な出荷遅延を起こしており、最悪、企画そのものが頓挫することもあるという。

 なぜ量産化で失敗するのか。「最近多いのが、3Dプリンタで試作品は作れるけれど、量産のために必要な金型に起こせない形だったとか、オートメーションで組み立てる部品を調達できない、というものです。出荷するのに必要な規格認証を理解していなかったため、1万個の生産が終わった後に出荷できないことが分かり、会社がキャッシュアウトしてつぶれてしまうということもあります」と高橋氏は説明する。

 量産試作のための設計者や製造のための工場が見つからないこと、いざ計画が始まってもたくさんの課題があることが、オンタイム出荷できない大きな要因だという。

 こうした状況に対し、BRAIN PORTALは「ハードウェアスタートアップに対して適切な企業や専門家をマッチングしつつ、全体をプロジェクトマネージングすることで出荷まで伴走して支援する」(高橋氏)。ものづくりには多くの行程があり、たくさんのプレーヤーが関わってくるが、BRAIN PORTALはプロセスに応じて必要な企業や人を計画立て、マッチングした上で、サプライチェーン全体をマネジメントする。

 そのために、数万件の工場リストを社内でデータベース化。「実際に日々、工場に出向いてヒアリングし、その内容を社内でまとめてマッチングの速度を高めていっている」(高橋氏)。BRAIN PORTALはリクルートの新規事業提案制度「Recruit Ventures」を通じて起案、事業化されたもので、当初は2人で立ち上げた。現在は、製造業や大手メーカーのOB、システム開発のエンジニアなど、業務委託を含め、30人以上でプロジェクトを動かしている。

 大変だったのは、「モノづくりには業界の標準がないこと」だと高橋氏は説明。例えば表面の仕上げ1つとっても、実ははっきりした規格があるわけではなく、メーカーは個々に持っているノウハウで作り上げているという。BRAIN PORTALはそれを「型化」していった。

 「リクルートの事業は、情報を整理して提供することをやり続けてきました。初めてものづくりをするときに、どんな情報が必要で、どういう情報の整理をすることによって、(作りたい人と作る人との)非対称性を解消することができるのかを考えました。あとは情報を収集しまくったという感じです」(高橋氏)

AI搭載対話型ロボットの製造、販売を支援

BRAIN PORTAL AKA CSO ブライアン・リー氏

 BRAIN PORTALのサービスを利用し、人工知能ロボット「Musio(ミュージオ)」を日本で製造、販売しようとしているのがAKAだ。リクルートが運営している「TECH LAB PAAK」でのイベントや海外のテック系イベントで互いを知り、今回の支援につながった。「Musioを日本で生産、販売したいと考えていたところだったので、BRAIN PORTALはこちらのニーズにぴったり合った」とCSOのブライアン・リー氏は振り返る。

 AKAは、本社が米国にあるスタートアップ企業だ。人工知能エンジンを開発し、それを搭載したロボットの開発を2年前から行っている。

 「AKAとしては、ロボット市場が伸びる場所は日本だと考えています。Musioは英語教育に利用されますが、日本は2020年に東京オリンピックを控え、小学生の英語教育が義務化されるなど、英語教育に関するニーズも高まっています。また、将来的に他国で販売するときに、メイドインジャパンはブランド的に高い効果があると判断しました」(リー氏)

BRAIN PORTAL 使えば使うほど学習、成長していく人工知能搭載ロボット「Musio」。身長は168ミリ。2016年6月に発売を予定している。価格は99〜599ドル。公式サイトはこちらから

 こうした理由で日本での生産と販売を決めたが、プロトタイプを量産化する段階で多くの課題に気が付いた。

 「ロボットの筐体(きょうたい)や基板、部品を作るために、さまざまな工場とのコンタクトが必要でしたが、AKAにはネットワークが何もありませんでした。どうしたら失敗しないかを検討していたところ、BRAIN PORTALに出会いました。AKAが日本で量産化するためのサポートとしてニーズに合っていました」(リー氏)

 AKAのロボット制作に関しては「筐体や基板はもちろん、パッケージ、取扱説明書、アフターサービスについても適切なパートナーをマッチングし支援します」と高橋氏。プロジェクトによって進展は異なるが、AKAの今回のプロジェクトに関しては半年間と非常にスピーディだ。金型業者、射出成形、基板など、製造工程で10社以上の会社と関わることになり、それをBRAIN PORTALが全面的にバックアップする。

 「プロトタイプ1台作ることと何千台を量産することは、全く違う課題があることを実感しています。スタートアップには熱意はありますが、量産化について多くの経験を持っている人のノウハウ、意見、アドバイスが必要です。独自でするには無駄な時間や費用がかかり過ぎます」(リー氏)

 例えばロボットの筐体を作る場合、プロトタイプは切削加工で作れるが、量産モデルは射出成形(加熱したプラスチックの材料を金型内に射出注入して成形させる方法)するので金型が必要だ。その金型を作るのに結構なコストが掛かる。基板については国によっても違いがあり、「設計図が完璧だとしても、米国で調達できた部品が、日本では調達できない場合があったりして、ローカライゼーションが海外のスタートアップとしては把握しにくい」(リー氏)という。

 さらに、販売までの間にはさまざまな試験がある。技適も取らなくてはならないが、「どのような対策が必要か分からない部分が多く、自社の限られたリソースで対応していくのは難しい。量産化にはサポートが必要」とリー氏は断言する。

 工場に発注するには、非常に細かい仕様の指定が必要だが、そういったことに関する知識は簡単に調べられるものではない。これらはスタートアップと相談した上で、BRAIN PORTAL側が指定していく。スタートアップはパーツが1つの部品の中で幾つ使用されていて、サイズはこれ、材料はこれ、色はこれ、表面の質感はこれ、といった感じで希望を入力するだけでいい。それが細かい仕様書にアウトプットされる仕組みをBRAIN PORTAL側が用意している。注文住宅を作るように、指定するだけで誰でも工場の仕様書ができあがる。

BRAIN PORTAL 樹脂素材の色味について、打ち合わせをしている様子

 また、ものづくりの業界は受託企業が幾層にもなっている多重構造であるため専門性が高く「恐ろしくマージン(手数料)が発生している」業界だという。BRAIN PORTALは、工場の情報を整理し、それぞれの行程で作業を行う工場に直接発注することで、そのマージンをカット。BRAIN PORTALにサポートを依頼しても、スタートアップ側はトータルでは大幅なコストダウンにつながるという。

ハードウェアに着目した理由

 高橋氏には、前職で製造業の採用支援に従事してきたバックグラウンドがある。エンジニアには誇りにしてきた技術や知恵があり、一方でリー氏たちのように日本のものづくりに対するあこがれ、メイドインジャパンに対するあこがれを持つ人たちがいる。日本の工場で製造することは、「完璧な仕上がりにしてくれるという印象がある」とリー氏も大きな期待を寄せている。

 高橋氏は「技術力はピカ一」と日本の製造業の高い技術力は評価しながらも、「システム化が苦手」と指摘。BRAIN PORTALはそれを型化し、情報を整理して提供し、ものづくりに対して夢や思いを持っている人たちをサポートしたいという思いがある。

 「スタートアップは得意な部分を研究して、楽しいところ、得意なことにフォーカスしてほしい。製造に関してはプロフェッショナルで誇りを持った工場の人たちがいるので、その人たちに任せて、みんなですてきなプロダクトを作ろう、という哲学でやっています」(高橋氏)

 BRAIN PORTALはこれまで、テック系のイベントに出展したり自分たちで営業したりしてスタートアップとのつながりを作ってきたが、2月末からWebサイトをリニューアルオープン(https://brain-portal.net/jp/#section01)。スタートアップ側も工場側も、登録フォームから申し込みができるようになっている。

 また、ハードウェアスタートアップに出資しているベンチャーキャピタル(VC)とアライアンスを締結。これによって「BRAIN PORTALが『ちゃんと製造できます』という証明を与えることなり、VCやスタートアップにとってもメリット」(高橋氏)になると期待する。BRAIN PORTALによって、ものづくりに夢や熱意を持っているスタートアップと工場がつながり、魅力的な製品が数多く登場することを期待したい。

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