インタビュー
» 2016年07月11日 20時16分 UPDATE

オープンな姿勢で「創造と進化」を推進する――NTTドコモ 吉澤和弘社長に聞く (1/3)

NTTドコモは通信事業のみを提供する“土管屋”の枠組みを超えて、モバイルITを軸にした複合企業体になっている。スマホバブルが終わり、モバイルIT産業全体のビジネス構造が変わる中で、ドコモはどこへ向かうのか。社長に就任した吉澤和弘氏に聞いた。

[神尾寿,ITmedia]

 携帯電話事業では国内最大のシェアを誇り、コンテンツメディア事業や決済・ポイント事業から、IoTやスマートホーム、ヘルスケア事業まで――。NTTドコモは通信事業のみを提供する“土管屋”の枠組みを超えて、モバイルITを軸にしたコングロマリット(複合企業体)になっている。またモバイル通信技術を筆頭にした研究開発力の高さは世界的にも折り紙付きであり、分野によってはその実力は、AppleやGoogle、Qualcommをもしのぐといわれている。NTTドコモを日本のモバイルIT産業のリーディングカンパニーと評して、異論のある人は少ないだろう。

 そのドコモの社長に、吉澤和弘氏が就任した。吉澤氏は前社長の加藤薫氏の下で副社長を務め、ドコモ新体制における「V字回復」を実現した立役者の1人。また2013年にはドコモ・ベンチャーズの代表取締役社長を兼務で務めるなど、ITビジネスの新領域への造詣も深い。

 筆者は今回、吉澤新社長に単独インタビューをする機会を得た。“スマートフォン・バブル”が終わり、モバイルIT産業全体のビジネス構造が変わる中で、吉澤氏はどのように「次なるドコモ」を築くのか。その方針について聞いていく。

吉澤和弘 NTTドコモの吉澤和弘社長

順調に進む、ドコモの「体質変化」

――(聞き手、神尾寿) ドコモは2015年度に業績を「V字回復」して、それを引き継ぐ形で吉澤社長は経営を担う形になりました。まずは今のドコモの経営環境を、どのように評価されていますか。

吉澤氏 私自身、2015年度は副社長としてドコモの経営に携わっていたわけですが、音声定額を含む新料金プランの導入や新事業をはじめ、ドコモが新しく取り組んだ領域の訴求が奏功していると評価しています。特に料金プランは(カケホーダイ&パケあえるなど)大きな変革を行った直後に一時的に業績が落ち込みましたが、結果的には“家族全体で安くなる・お得になる”という部分が多くのお客さまに実感していただけて好評になった。

 dマーケットのデジタルコンテンツ事業や金融・決済事業も、しっかりと利益が出てくるようになった。これら1つ1つの積み上げにより、V字に近い回復をすることができました。これを私が引き継いだわけですから、今の成長基調は維持し、さらに加速させていきたいと考えています。

 また、このドコモが変革する過程で、(無理な値下げ競争やキャッシュバックなど過度な販促による)「契約獲得競争」から、サービスの品質やラインアップによる「付加価値競争」に転換できたのは大きい。さまざまなお客さまにとって付加価値の高いドコモになっていく。それは強く推し進めたいと考えています。

―― ここ3〜4年のドコモの動きを振り返りますと、「携帯電話会社」から「総合サービス企業」への転換という大きな体質変化がありました。いうなれば、“土管屋からの脱却”が大きな目標だったわけですが、全社的なマインドチェンジは進んでいますか。

吉澤氏 そういう意味でいいますと、2〜3年前は新事業領域が重要であるとし、その旗を(経営陣が)振っても、そこに利益が付いていなかった。しかし、2015年度には新事業領域での利益が約780億円と明確に出てきた。この“利益が見えてきた”ことで、全社的に転換点を向かえたことの実感が共有できたと考えています。今期はさらに新事業領域の売り上げ・利益ともに増やして約1200億円を目指しますので、(事業構造の)転換は力強く進んでいくでしょう。

―― 回線契約ベースでの事業マインドから、dアカウントベースの事業マインドへと、ドコモ全体の意識が変わってきている、と。

吉澤氏 まさにそれを推し進めています。dアカウントはdポイント事業と密接に連携しているわけですが、会員基盤を土台として作り、その上に回線契約も含むいろいろなサービスを乗せていく。(他キャリアの回線契約者も対象とした)会員基盤ベースのビジネスへの移行は順調に進んでいます。

キャリア同士の競争は「2台目市場」にシフトするべき

―― スマートフォン市場に目を向けますと、フィーチャーフォンからの移行特需がなくなり、2015年のタスクフォースでキャッシュバックのばらまきなど過度な販売施策に一定の歯止めがかかった影響で、総販売数の伸びは落ち着いています。他方で、MNPの流動性が下がったことは、世帯契約ベースでの長期契約化を重視するドコモの基本戦略とは合致する部分も多いと感じます。

吉澤氏  そうですね。2015年のタスクフォースやその後に出たガイドラインでは、MNPに伴う過剰な販売奨励金を抑制する方針を打ち出しています。これはわれわれドコモにとっては、(キャッシュバック目的で)不要なキャリアチェンジをする一部のお客さまのために営業コストがかさむという問題が回避されることを意味します。またMNP利用が非活性化されて流動性が下がることは、長期的視野でお客さまのベネフィットを考えた戦略が立てやすくなる。これらはメリットといえるでしょう。

―― 高額キャッシュバックを餌にしたMNP利用の推進は、長い目で見ればユーザーにも業界全体にも利益はありませんからね。その点でいえば、高額キャッシュバックという劇薬の使用を抑制してMNP利用率が適正化してきていることは、よい傾向といえます。

吉澤氏 まあガイドラインの順守という点でいえば、「実際のところどうなのかな?」という懸念はありますけどね(苦笑)。

 われわれドコモとしてはガイドラインを順守しているという自信がありますし、確信もあります。しかし他キャリアの状況を見ますと、キャンペーンという形でMNP利用者を過度に優遇するなど、(ガイドラインを鑑みて)すれすれのところもあるなぁと感じるところはあります。

―― 今後、auやソフトバンクモバイルなど他キャリアとの競争環境はどうなっていくと見ていますか。

吉澤氏 (大手キャリア同士が)既存顧客をMNPで刈り取り合うような獲得競争は、時代の流れの中でなくさなければなりません。一方で、タブレット端末など2台目需要は大きく伸びています。今後はこういった新規市場で各キャリアが切磋琢磨(せっさたくま)していく形がよいでしょう。

――  確かにiPadシリーズを筆頭に、ドコモのタブレット販売は伸びていますね。何か特別な施策など行ったのでしょうか。

吉澤氏  それは「dTV」や「dマガジン」など、タブレット向きのサービスとセットで訴求した成果ですね。これはタブレットに限らないのですが、2台目需要向けのサービスをしっかりと作り、店頭でそのメリットを丁寧に説明していく。愚直ですが、そういった取り組みをしっかりと行うことで、スマートフォンの次として、新しい分野の端末が売れていくのです。今後はこうした2台目需要をしっかりと掘り起こしていき、(MNPでの顧客獲得合戦ではない)新規市場での競争に移行していく必要がある。われわれとしてはタブレットなど2台目市場の取り組みは、2016年度後半にかけて積極的に行っていきます。

dマガジン 月額400円(税別)で160誌が読み放題の「dマガジン」

―― 新しい競争領域としては、ドコモ光もありますが、こちらの状況はいかがでしょうか。

吉澤氏 ドコモ光の契約者は、6月末時点で約200万契約の大台を突破しまして、計画以上のペースで進んでいます。年度を通しても計画を上回る契約の獲得ができると手応えを持っています。

       1|2|3 次のページへ

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

この記事が気に入ったら
ITmedia Mobile に「いいね!」しよう