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» 2008年09月12日 16時00分 UPDATE

元麻布春男のWatchTower:急拡大するミニノートPC市場に足りないモノ

続々と登場する低価格ミニノートPCだが、一方で安定した製品供給以外でも慢性的な問題を抱えている。

[元麻布春男,ITmedia]

急成長を続ける低価格ミニノートPCにとまどう業界

ht_0809wt01.jpg この市場の立役者「Eee PC」

 低価格のミニノートPCが売れているのは日本だけではない。9月10日に市場調査会社のIDCが発表したプレスリリースによると、2008年におけるPCの出荷数は、サブプライムローン問題などといった弱含みの経済状況にもかかわらず、2007年を上回る成長が期待されているという。その原動力となっているのが、Eee PCに代表されるミニノートPCで、特に西ヨーロッパ地域では、2007年の12%成長から23%成長へと押し上げる要因にさえなっている。

 ASUSteKが2008年前半に出荷したEee PCシリーズの累計は170万台で、年間だと500万台に届きそうな勢いだという。Aspire oneを手がけるAcerも、2008年中に500万台から700万台を出荷したいとしている。この2社だけで出荷台数が1000万台を超えてしまう。


 この突然出現した市場に、業界自体がまだとまどっているようだ。プラットフォームベンダーであるマイクロソフトやインテルは、ミニノートPC市場(インテルの用語でいうNetbook、マイクロソフトの用語でいうULCPC)が、既存のローエンドノートPC市場を侵食することを恐れている。マイクロソフトはミニノートPCで主流となっているWindows XP Home Editionのライセンスに、CPUやHDD容量、グラフィックス能力などに関する細かな条件をつけている。インテルも、Netbookを極力小さく、安価で、機能の限定されたものにしたいと思っているようだ。

 両社ともCPUにCeleronを搭載し、Windows Vista Home Basicを搭載したバリューノートPCの市場を守りたいという点で、利害は一致している。ミニノートPCがバリューノートPC市場のさらに下側に新しい市場を作る分には大歓迎だが、CeleronやVista Home Basic搭載PCの市場を食い荒らされる共食いは避けたいのだ。

 両社のこうした姿勢もあってか、ミニノートPCに関する国内ベンダーの動きは鈍い。ミニノートPCは価格を重視したジャンルだけに、付加価値を与えにくい。言い換えれば、付加価値により販売価格が上がっては、その存在意義を失ってしまう。台湾ベンダーと真っ正面から価格で競争しなければならないのでは、国内ベンダーが二の足を踏むのも無理はない。

 だが、果たしてそれでいいのだろうか。マイクロソフトやインテルの思惑通りにPCと別の市場になるのか、バリューPCを浸食するのかは別にして、そこに市場は間違いなくある。ミニノートPCを手がけなければ、確実に市場シェアを失う。PCビジネスをグローバル展開している企業であれば、東南アジアをはじめとする新興諸国の市場を丸ごと失うことになるかもしれない。大手国内ベンダーの中で富士通については、この秋から東南アジアでミニノートPCの事業を展開する意向を明らかにしているが、海外でグローバルにPCビジネスを展開する企業であれば当然のことだろう。その点からいうと、PCビジネスを海外展開するソニーや東芝も何かアクションを起こす必要があるのではなかろうか。

ht_0809wt02.jpght_0809wt03.jpght_0809wt04.jpg 日本ヒューレット・パッカードのミニノートPC「HP 2133 Mini-Note PC」(写真=左)や日本エイサーの「Aspire one」(写真=中央)など、続々と国内市場でも製品が登場するも、製品の安定供給には課題を抱える。富士通はAtom搭載PC「FMV-BIBLO LOOX U」シリーズを国内投入しているが、実売価格は13万円前後と高めだ(写真=右)

なかなか追いつかないエコシステム

ht_0809wt05.jpg Eee PC 901-Xの初期状態におけるCドライブ。空き容量は約1.36Gバイトしかない

 しかしとまどっているのは、プラットフォーム系のベンダーだけではないようだ。ミニノートPCの市場が急速に拡大しているというのに、ミニノートPCをターゲットにしたアプリケーションがない。

 ミニノートPCの代表機種であるEee PCには、システムドライブが4Gバイトという制約がある。大容量のストレージを持たず、インターネット接続を前提にクラウドコンピューティングで利用する、というのはインテルの考えるNetbookの理想だが、残念ながら現時点では絵空事に過ぎない。肝心のどこでも低価格で接続できるインターネット環境が存在しないからだ。

 インテルはWiMAXでこの理想を現実にしたいと考えているわけだが、国内で商業サービスが始まるのは2009年の第3四半期になると見られている。商業サービスが始まったからといって、すぐにどこでも利用できるとは限らない。

 現時点で安価なモバイルブロードバンドの理想に一番近いのはイーモバイルのサービスだろうが、先行の携帯3社に比べてサービスエリアは限られている。例えばサービスエリア内であっても、地下のお店などになると圏外になることが多い。インターネット環境があるのなら、それは大いに活用するべきだが、それを前提にNetbook(ミニノートPC)を持ち歩くのは、まだ時期尚早だ。現実的にはローカルにアプリケーションが必要になる。しかしこの現実に、積極的に対応しようというアプリケーションベンダーはまだ登場していない。

 ミニノートPCで使うアプリケーションに望まれるのは、CPUパワーという点で決して恵まれていないハードウェアで快適に利用できる軽快さ、限られた解像度の液晶ディスプレイでの利用を前提にしたデザイン、そしてストレージを圧迫しないことだ。上述したように、代表機種の1つであるEee PCのストレージは4Gバイトに過ぎない。これを考えると、最後のストレージを圧迫しないというのは極めて重要なポイントになる。

ht_0809wt06.jpg DVD/CD-ROMではなくUSBメモリでソフトウェアが提供される「Uメモ」シリーズ

 この問題を解決する方法の1つは、最初からUSBメモリなどにアプリケーションをインストールした形で販売することだ。USBメモリでソフトウェアを販売するという点では、ソースネクストのUメモシリーズが発表されているが、惜しむらくはインストールが必要になる。ミニノートPCで望ましいのは、USBメモリをUSBポートに差し込んで、そこにあるアプリケーションをインストールすることなく、ダブルクリックしてそのまま利用できることだ。

 もちろん、アンチウイルスソフトウェアなどシステムに常駐が必要になるものをこの方法で提供するのは難しいだろう。アプリケーションの機能という点でも、インストールを行うものに比べて制限が加わっても不思議ではない。

 だが、ミニノートPCで利用するアプリケーションとして、多少機能が少ないことは許されるのではないか。そうでなくても最新のソフトウェアは機能が多すぎて使いこなせない、などといわれる。ならば機能を削っても、USBメモリから直接起動できるアプリケーションがほしい。幸い、USBメモリのアクセス速度はCD-ROMとは比べものにならないから、ライブラリを配布媒体から直接読み出しても、それほど大きなペナルティーにはならないはずだ。


 Eee PCユーザーの多くは、自らの努力で4Gバイトのストレージから消せるファイルを探してシステムをダイエットし、SDメモリーカードやUSBメモリにアプリケーションをインストールするなどして、ストレージ容量の限られたマシンを使いこなそうとしている。ところが、これでは使えないと放り出してしまうユーザーも出てきてしまうだろう。使いこなしの努力をユーザーにだけ押しつけるのではなく、それを助ける動きがほしいと思う。

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