共存か、対立か――WiMAXとLTEのこれからMobile World Congress 2009

» 2009年03月03日 07時30分 公開
[末岡洋子,ITmedia]
Photo 米Verizon WirelessのCTO兼上級副社長のディック・リンチ(Dick Lynch)氏

2月19日までスペイン・バルセロナで開催されたモバイル業界最大のイベント「Mobile World Congress 2009」の重要なテーマの1つにモバイルブロードバンドがある。技術としてはHSPA+LTEに注目が集まったが、WiMAX陣営もアピールに抜かりがない。

 HSPA、LTEなどの標準化を進める3GPP陣営からは、サービス開始のニュースが相次いだ。イベント初日の16日には豪Telestraが、下り最大21MbpsのHSPA+サービス「NextG Turbo 21」を発表し、2010年には42Mbpsのサービス提供を目指すとした。

 18日には米Verizon WirelessもLTEサービスの計画を発表。基調講演を行った同社CTO兼上級副社長のディック・リンチ(Dick Lynch)氏は、今夏にも700MHz周波数帯を利用したLTEサービスの試験運用を開始し、2010年には米国内複数の都市で正式サービスとして展開すると発表。2015年には全国サービスにするというロードマップを示した。VerizonのLTEでは、スウェーデンのEricssonと仏Alcatel-Lucentがコアネットワークを提供する。

 18日には、2008年6月の中China Netcomとの合併によりCDMA事業をChina Telecomに売却し、W-CDMAインフラへの移行を決めたChina Unicomの会長兼CEOのチャン・シャオビン(Chang Xiaobing)氏が登場した。シャオビン氏は、W-CDMAサービスをこの5月にも開始し、HSPAの展開に向けて準備を進めるとした。

 この3つの発表で重要なのは、いずれのキャリアもCDMAからHSPA、LTEへの移行を決めた点だ。3GPP陣営はCDMAオペレーターが相次いで移行していることに自信を見せ、「いずれLTEで統一されるだろう」(EricssonのCTO、ホーカン・エリクソン氏)という声も聞かれる。

WiMAX陣営の戦略は

 一方、WiMAXを強力に推進する米Intelはイベント2日目の17日、MWC会場から少し離れたホテルでWiMAXをテーマとしたラウンドテーブルを開催した。ここには、イスラエルAlvarion、仏Alcatel-Lucent、フィンランドNokia Siemens Network、中国Huawei、米Motorola、中国ZTEといったWiMAXベンダーが参加。Intelからは主席副社長兼最高セールス&マーケティング責任者のショーン・マローニ(Sean Maloney)氏が登場した。

Photo 8社が参加したWiMAXラウンドテーブル(左)。米Intel主席副社長兼最高セールス&マーケティング責任者、ショーン・マローニ(Sean Maloney)氏(右)

 マローニ氏はWiMAXが、“今、利用できる無線ブロードバンド技術”であることを強調し、「2009年はWiMAXの年になると予想し、それが現実となった。今年は実装、サービス開始の年になる」と自信を見せた。「世界中から高い関心が寄せられている。どうやって(WiMAXの普及を)加速させるかが課題だ」(マローニ氏)

 ディスカッションのテーマとなったのは、やはりLTEとの比較だ。ベンダーの多くが「WiMAXにコミットしている」と言いながらも、Alvarion以外はHSPA/LTEも手がけており、例えばNokia Siemensで無線アクセス担当戦略&ポートフォリオ管理のトップを務めるマルック・エリラ(Markku Ellila)氏は、「3GPPの補完技術としてのWiMAX」という前置きを忘れない。

 2月11日のWiMAX Forumの発表によると、WiMAXは現在、世界135カ国に約460のネットワークがあるという。2010年には8億人がWiMAXを利用すると予想している。

 これまでのところWiMAXは、固定ブロードバンド網が浸透していない新興市場のソリューションとして、また成熟市場では新規参入するオペレーターのソリューションとして選ばれているようで、ラウンドテーブルに参加した全ベンダーが、固定型/ノマディック型としてWiMAX事業を進めている、と状況を説明した。「アフリカやインドなどは大きな市場となるだろう」と述べたのはZTEでWiMAX製品ライン担当ゼネラルマネージャを務めるショーン・カイ(Sean Cai)氏。AlvarionのCEO、ツィビッカ・フリードマン(Tzvika Friedman)氏は、「新興国では、GDP成長のため教育に投資しようとしている。ここでは教育に必要な通信インフラとしてWiMAXが選ばれている」と報告する。

 このような状況について、Intelのマローニ氏は「狙い通り」と述べる。「Intelは、ネットワークを普及させるためにWiMAXを作った。これはデジタルデバイドの解消につながる」(マローニ氏)。

 WiMAXを全面的に推進するIntelやAlvarionは、LTEとの差別化ポイントとして、WiMAXが今現在、利用できる技術である点やライセンスの割り当てが進んでいる点を挙げる。

共存か、対立か――LTEとWiMAXの未来

 2〜3年後にサービスが始まると予想されるLTEとWiMAXは、将来共存するのだろうか。それとも競合するのだろうか。

 今後5年で全社的にモバイルブロードバンド戦略を積極的に進めるというHuawei WiMAX製品ライン担当副社長のタン・シンホン(Tang Xinhong)氏は、「両方の技術がどのようなニーズを満たすのかを見極めようとしている」と説明。現時点では、LTEがモビリティ、WiMAXは固定/ノマディックなサービスという感触を得ており、LTEが成熟するまでには少なくとも5年を要するだろうと予想する。「この5年間はWiMAXにとって重要になる」(シンホン氏)。Huaweiはブロードバンドの需要について、コンシューマー需要は20億〜30億人、法人需要は6億人とみており、加入者を増やして市場の拡大を目指す。「WiMAXは、われわれがコミットする次世代技術の1つだ」(ホンシン氏)

 モバイルWiMAXの可能性をアピールするHuaweiに対し、Motorola 無線ネットワーク製品担当上級副社長のフレッド・ライト(Fred Wright)氏は異なる見方を示した。「WiMAXがモバイルに進化するかについては、まだ疑問が残る。オペレーター向けの高性能無線技術としては、LTEが優位だろう」(ライト氏)

 「共存するかどうか」という質問に対してIntelのマローニ氏は、「LTEとWiMAXは正面衝突するというより、共存するだろう」と予測。10にのぼるWiMAXのライブネットワークを手がけるAlcatel-LucentのWiMAX製品グループ担当副社長カリム・エル・ナガー(Karim El Naggar)氏も「直接の衝突はないだろう」いう見方を示した。同社は会期中、3.5MHz対応WiMAX Rev-e(802.16e)基地局がWiMAX Forumの認定を受けたことを発表している。

 一方でマローニ氏は、「WiMAXは固定・ノマディックとしてスタートするが、モビリティが重要な差別化要素になるだろう。特に、成熟市場では重要になる」とも話す。例えばオランダWorldmaxでは、データ通信カードとUSB型端末を使うモバイルWiMAXサービスを都市部で提供しているという。

 マローニ氏はさらに、数年間の共存期間を経た4〜5年後には、「(LTEとWiMAXが)何らかの形での融合(コンバージェンス)があると思う」とも述べた。

 会場からコメントを求められたロシアのオペレーター、Yotaの代表者は「重要なのはきちんと動作すること。利用者はLTEなのか、WiMAXなのかを気にしていない」という。同社のユーザーには、1日に64Gバイトもダウンロードする利用者がおり、「3Gでは不十分だ」と話した。

 「WiMAXの唯一の問題は端末」だと、この代表者は続ける。Yotaは台湾HTCの端末でサービスを開始し、今年は2機種を追加する予定だが、端末ラインアップの少なさが制約になっていると見ているようだ。Yotaは現在、下り最大10MbpsのWiMAXサービスをモスクワとサンクトペテルブルグで提供しており、年内に両都市全域をカバーする計画だ。この端末ラインアップの弱さについては、ZTEのカイ氏も同意している。

 WiMAXの端末は、当初はノートPCやネットブックが主流になると見られるが、さらに小型化したMID(モバイルインターネットデバイス)にも期待が集まっている。

 なお、Ericssonは2014年のモバイルブロードバンドシェアについて、HSPAが約70%を占めると予想する。同社のチャートでは、WiMAX加入者は5%程度にとどまっている。

Photo Ericssonが示したモバイルブロードバンドシェアの予想図

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