国内100万台突破も視野に――存在感を増すiPhoneのエコシステム(中編)神尾寿のMobile+Views

» 2009年05月22日 07時00分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 グローバル市場での急成長を背景に、日本市場でも存在感を増すiPhone 3G。わずか9カ月間でアプリケーションのダウンロード数が10億の大台を突破し、日本市場でも着実にiPhone OSのプラットフォーム規模が拡大している(記事の前編参照)。

 iPhoneのエコシステムはなぜ多くの人々の心をとらえ、急速に成長しているのか。また、日本のモバイルICT産業は、iPhoneエコシステムとどう向き合うべきか。前編に引き続き、それらの点について考えていきたい。

iPodで培った巨大なエコシステム

Photo iPhone 3Gの本体下部にあるDockコネクタ

 iPhone/iPod touchのエコシステムを考える上で、AppStoreと並んで重要なのが、周辺機器とのインタフェースである「30ピン Dockコネクタ」の存在だ。これは本体下部に設けられており、2003年の第3世代iPodから採用された外部接続/充電用のインタフェースである。

 その後、AppleはiPod shuffle以外のiPodシリーズにDockコネクタを採用し続けており、iPhone 3GでもPCとの接続や外部スピーカーなど周辺機器との接続用に用意されている。

 現在、Appleが公式に発表している数字では、iPod/iPhone用のDockアクセサリーは全世界で5000種類以上が発売されている。

 特にカーオーディオやホームオーディオ分野での、iPod用Dockのエコシステムは巨大だ。例えば、北米で販売されるクルマのうち、35ブランドがiPodに対応。2008年に発売された新車に限れば約90%がDockによるオーディオ接続が可能になっていた。また日本市場に目を転じても、トヨタ自動車本田技研工業日産自動車など国内9メーカー、輸入車を含めれば20ブランドがDockコネクタによるiPod接続に対応済み。自動車やカーオーディオ業界では「新車のiPod(Dock)対応は必須装備」(自動車メーカー関係者)というところまで浸透している。

 ほかにも、ユニークな例として航空機でのDock対応がある。ユナイテッド航空やシンガポール航空では、Dockインタフェースを介して機内エンターテインメントシステムとiPhone 3G/iPodを接続するインテグレーション機能が用意されている。これを利用すると、座席のモニターでiPhone/iPod内の音楽や映像コンテンツを楽しめるのだ。

 こうしたiPod時代から築き上げた“Dockのエコシステム”は、一部の例外はあるものの、Appleがその互換性や単一性の維持に腐心し、着実に育ててきたものだ。日本の携帯電話やポータブルオーディオのように、キャリアやメーカー、世代ごとにインタフェースの形状や仕様をコロコロと変えるということをせず、グローバルでの普及を重視してきた結果、多くのパートナー企業の信頼を得た。それは歴史が古く、装備品の採用に保守的な自動車メーカーや航空会社にも採用されたことからも分かるだろう。彼らはDockの普遍性と継続性を認めて、Appleのエコシステムに加わったのだ。

Photo オーディオ分野ではスピーカーを始めとする多彩な製品がラインアップされる。写真はロジクールの「PF-300BK」(左)と「PF-450」(右)

iPhone OS 3.0で「Dockが開花」

Photo

 このように“Dockのエコシステム”はAppleにとって重要な資産になっているが、一方で、そもそものスタートがiPod用であったため、iPhone 3G向けのものとして見ると、「音楽と充電」に偏りすぎているのも確かだ。またiPod対応のDock接続周辺機器すべてが、iPhone 3Gに対応しているわけではない。AppStoreと比べれば、iPhoneにおけるDockの価値や影響力は今のところ大きくない。

 しかし、この状況は今夏投入される「iPhone OS 3.0」で一変するだろう。周知のとおり、iPhone OS 3.0で追加される約1000のAPIのうち、重要な機能強化ポイントになっているのが「Dockによる周辺機器との通信/制御」だからだ。しかも、このアップデートは全世界で約3700万台、国内でも100万台超となるiPhone/iPod touchに対して行われるため、すでに発売済みの端末で新たなDock接続機能が利用可能になる。一夜にして、iPhone/iPod touch向けの“周辺機器のエコシステム”の基礎が構築されるのだ。

 Appleのデモンストレーションでは、血圧計などヘルスケア機器との連携が紹介されていたが、ほかにも各種入出力デバイスやデジタル家電、カーナビゲーション連携など、Dockを通じてiPhoneと連携するデジタル機器や周辺機器が登場するだろう。

 筆者は、iPhone OS 3.0投入を契機に、iPhone/iPod touchの周辺機器市場が一気に拡大・急成長すると予測している。これは国外のみならず、国内市場でもだ。

 これまで携帯電話の周辺機器市場では世代間の互換性が乏しく、ユーザーの信頼も得られていなかったため、高額なアクセサリーや周辺機器の市場は今ひとつ盛り上がらなかった。しかしAppleのDockは、iPod時代から培った継続性と普遍性があるため、ユーザーが安心して周辺機器を買いやすい。さらに国内市場だけでなく、海外のiPhone市場にも進出できる。日本国内だけ、それもキャリアやメーカーによって接続・連携のための規格や仕様がバラバラで市場が分断されていた、日本の携帯電話市場とは構造が全く違うのだ。

 iPhone向け周辺機器にとどまらず、デジタル家電やデジタルカメラ、ヘルスケア機器、カーナビなど、iPhone OS 3.0を機に日本メーカーがDockのエコシステムに参加することで得られるチャンスとメリットは大きい。将来的にはMicrosoftやGoogleも、AppleのDockのような“ハードウェア連携のエコシステム”を構築するだろう。その時代に向けた準備としても、iPhone OS 3.0のDockに参加する意義はある。

著者プロフィール:神尾 寿(かみお・ひさし)

IT専門誌の契約記者、大手携帯電話会社での新ビジネスの企画やマーケティング業務を経て、1999年にジャーナリストとして独立。ICT技術の進歩にフォーカスしながら、それがもたらすビジネスやサービス、社会への影響を多角的に取材している。得意分野はモバイルICT(携帯ビジネス)、自動車/交通ビジネス、非接触ICと電子マネー。現在はジャーナリストのほか、IRIコマース&テクノロジー社の客員研究員。2008年から日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員、モバイル・プロジェクト・アワード選考委員などを勤めている。


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