エコシステム拡大に拍車がかかる!? iPhone OS 3.0とiPhone 3G Sのインパクト神尾寿のMobile+Views(2/3 ページ)

» 2009年06月10日 11時30分 公開
[神尾寿,ITmedia]

iPhone OS 3.0で、iPhoneは「社会インフラ」になる!?

 iPhone OS 3.0の紹介が終わると、この新しいバージョン向けに開発されたアプリケーションがいくつか紹介された。

 iPhone用のアプリというと「ゲーム市場」の盛り上がりが印象的だが、今回のプレゼンテーションで注目されたのは「実用系サービス」の台頭だ。

 例えば、「AIRSTRIP」というサービスでは、病院内の検査機器およびサーバーとiPhoneアプリが連携し、医師がどこにいても手元のiPhoneから患者の状況を知ることができる。患者のバイタルサインをリアルタイムで知るだけでなく、指先1つで過去の履歴をさかのぼって見たり、特定の時間帯のみのデータを抽出できるなど、操作性はすこぶるよさそうだった。

PhotoPhoto 遠隔医療アプリケーションのAIRSTRIP

 携帯電話を用いたモバイル医療の実験は、フィンランドでNokiaが積極的に行っているほか、日本でも各地で行われている。過去には香川大学とドコモ四国(現ドコモ四国支社)が取り組んでいたこともあり、筆者もそれらを見たことがあるが、それと比べてもiPhone OS 3.0向けのAIRSTRIPは使いやすく実用的であり、明日から医療現場に導入されてもおかしくないクオリティだった。

 一方、ナビゲーション分野では“ビッグネーム”が壇上に上がった。オランダのPNDメーカーである「TomTom」だ。TomTomは欧州を中心にPNDビジネスを展開する企業であり、アメリカのGarminと並びカーナビの世界市場を席巻する企業だ。日本向けには製品を投入していないのでなじみが薄いかもしれないが、デジタル地図の世界的大手であるTeleAtlasを買収するなど、ナビゲーション分野での影響力はとても大きい。

 このTomTomが、iPhone市場に参入。iPhone OS 3.0向けアプリとして「TomTom」サービスを発表した。壇上ではごく短いデモンストレーションしか行われなかったが、iPhoneの画面サイズと地図をベースにしたカーナビゲーションの組み合わせは十分に実用的であり、PNDの代わりとして十分に通用しそうだった。またTomTomでは専用の車載キットを発売する予定であり、これを使うと安全性が増すだけでなく、音声ガイダンスの出力や利用中の充電が可能になるという。

PhotoPhoto PNDメーカーのTomTomもiPhone市場に参入。iPhone用の車載キットなども用意する
PhotoPhoto アプリはけっこう本格的。GPSと連動し、ターンバイターン方式でのナビなどが行える

 もう1つ、筆者が注目したのがカーシェアリングサービスの「Zipcar」だ。これはサンフランシスコなどアメリカ西海岸を中心にカーシェアリングサービスを提供している企業である。サンフランシスコではかなり普及しており、市街を歩いていると「Zipcar」と車体に書かれたクルマをよく見かける。

 このZipcarのiPhone向けサービスでは、リアルタイムで利用可能な車両の位置が確認できるほか、車両情報の確認(Zipcarではプリウスやミニなど複数の車両がラインアップされている)、利用予約などが、iPhoneの画面上で簡単に行える。さらに興味深いのは、予約したカーシェアリング車両の解錠処理も、iPhoneから行えるようになっていることだ。カーシェアリングサービスではクルマの動態管理のために車載通信機が搭載されており、それとiPhoneが連携しているようだ。日本のカーシェアリングサービスでは、ユーザーの認証と解錠にFeliCaカードが用いられるが、「すべてiPhoneで」というZipcarの取り組みはとてもユニークである。

Photo カーシェアリングサービスを展開する「Zipcar」もiPhoneアプリを提供
PhotoPhotoPhotoPhoto 画面上で利用可能な車両の位置や車種が簡単に確認でき、予約などもその場で行える。車両の解錠処理もiPhone上で行えるという優れもの

 そのほかにもiPhone OS 3.0向けアプリの紹介は数多くあったが、全体を通じて筆者が得たのは、「iPhoneが着実に社会インフラになっている」という実感だった。iPhoneがゲームや音楽といったエンタテインメント分野だけでなく、社会生活をする上で重要なモバイル情報プラットフォームに成長しようとしている。iPhoneのエコシステムがさまざまな分野に拡大していることを強く感じた。

隙がなくなった「iPhone 3G S」

 そしてもう1つ、今回のWWDC 2009で注目となったのが、新型iPhoneとなる「iPhone 3G S」である。既報のとおり、新たに付け加えられた「S」はスピードを表し、現在のiPhone 3Gを高速化したバージョンと位置づけられる。日本では6月26日の発売だ。

Photo iPhone 3Gより平均して2倍以上速いという新型「iPhone 3G S」も発表された

 iPhone 3G Sの特長は、「平均2倍の動作速度の向上」を軸に、「7.2Mbps HSDPAへの対応」「300万画素AF対応のカメラ機能の強化」「動画撮影への対応」「電子コンパスの搭載」「メモリー容量の増加」「Open GL ESによる3Dグラフィックス性能の強化」「音声コマンドへの対応」などだ。

PhotoPhoto 大きく進化したポイント速度とカメラ、それに電子コンパスの搭載などだ。カメラは指で触ってAFポイントを選べたり、動画が撮影できるようになったり、その場で編集ができたりと、新たな機能が多数盛り込まれた

 また、ハードウェアとソフトウェアの最適化によってバッテリー持続時間が改善しており、インターネット接続やビデオ再生、オーディオ再生などでは、軒並み数時間単位でバッテリー持続時間が延びている。一方で3Gの連続通話時間は現行のiPhone 3Gと同じであることから、バッテリー回りの大幅な変更や容量増加は施されなかったと推測できる。このあたりの質問は開発担当者にはぐらかされてしまったのだが、バッテリー持続時間に関しては「ハードウェアとソフトウェアの最適化が進んだ」(担当者談)ことによる要因が大きく、例えば3Gの通話・通信時間はほとんど延びていない。ユーザーの使い方によってバッテリー持続時間延長の恩恵はかなり変わりそうである。

 基調講演ではiPhone 3G Sの本体を見ることはできなかったが、その後のグループインタビューで実機も披露された。外観は現行iPhone 3Gとほとんど変わらず、カラーバリエーションの変更もない。iPhone OS 3.0搭載のiPhone 3Gとの違いは、実際に使ってみないと分からないだろう。

 新たに搭載された機能についてだが、誤解を恐れずに言えば、「度肝を抜かれる」ような驚きはない。これはiPhone 3Gの時からそうであったが、iPhoneはハードウェア的には凡庸であり、その傾向はiPhone 3G Sでも大きく変わってはいない。

 例えば、新たに搭載された300万画素のAF対応カメラは、日本ではミドルクラス以下の携帯電話のスペックであるし、VGA/30fpsの動画撮影機能に至っては、今まで対応していなかった方が信じられないくらいのものだ。電子コンパスや音声コマンドも、これまで多くの携帯電話が搭載しており(電子コンパス搭載機は日本では減りつつあるが)、別に目新しい機能ではない。数少ない先進の機能は、OpenGL ES対応くらいであろう。

 では、iPhone 3G Sは意味がないのか。筆者はそうも思わない。

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