目指すは“安心”と“自由”の両立――auのスマートフォン戦略(前編)神尾寿のMobile+Views

» 2011年04月21日 14時00分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 2010年の秋冬モデルから、スマートフォンを主軸とする戦略に舵を切り、短期間で端末ラインアップを拡充したau。サービスについても、フィーチャーフォン向けの人気サービスを次々とスマートフォンに対応させるとともに、Skypeやjibeといった注目ベンダーとの連携による新サービスをいち早く展開するなど勢いづいている。

 “Android元年”といわれる2011年、auはどのような戦略でユーザーやサービスプロバイダー、端末メーカーにコミットし、市場の拡大を目指すのか。KDDIのサービス・プロダクト企画本部で本部長を務める増田和彦氏に聞いた。

アーリーアダプターから一般層へ――スマートフォンの普及が拡大

Photo KDDI サービス・プロダクト企画本部 本部長の増田和彦氏

―― (聞き手:神尾寿) 1月下旬に行われた「第4回スマートフォンサミット」の講演で、スマートフォンの注目度が年末商戦でかなり高くなっているとお話しされていました。その後、スマートフォンに対するユーザーの関心度、市場の反応についてどのように感じてらっしゃいますか。

増田和彦氏(以下増田氏) スマートフォンの勢いは、まだ全然止まっていませんね。スマートフォンサミット後に、「REGZA Phone IS04」をリリースしましたが、新しい機種を出したなりにマーケットが広がっています。

 我々は現時点(2月24日時点)でIS03、IS04、「SIRIUS α IS06」と3モデルを出していますが、それぞれマーケットのセグメントがちょっとずつ違っており、それぞれの層に受け入れられています。あと、これに「IS05」がありますが、あれはまた別のカテゴリになりますから。

―― IS05はミドル層向けですね。今後はその市場がとても重要になってきます。

増田氏 そうですね。また、コンパクトなサイズで女性でも持ちやすいので、新たなニーズの掘り起こしにも寄与するのではないかと思っています。きちんとマーケットのセグメントを分けて、ラインアップのポートフォリオをバランスよく組めば、それなりにマーケットが広がりそうだと思っています。

 “ガラスマ”(ガラパゴススマートフォン、日本固有の機能を装備したスマートフォンの意)と呼ばれているIS03、IS04、IS05は、FeliCaやワンセグが載っていますので、フィーチャーフォン(従来型の携帯電話)からの移行という意味では、心理的なバリアも低くなっているんじゃないかと思います。

Photo auのスマートフォン。左からシャープ製の「IS03」、富士通東芝モバイルコミュニケーションズ製の「REGZA Phone IS04」、韓Pantech製の「SIRIUS α IS06」、シャープ製の「IS05」

―― 最初にスマートフォンに移った人は比較的ARPU(ユーザー1人あたりの平均月間収入)が高く、いわゆる“全部入り”のハイエンドモデルを買っていた方が多かったわけですが、その傾向は今も同じですか。それとも、スタンダードモデルを購入されるようなお客さんも、スマートフォンを選ぶようになってきているのでしょうか。

増田氏 まあ、徐々に――だと思いますね。一般的な意味でリテラシーの高い方から移っている傾向はあるとは思いますが、必ずしもそうじゃありません。ギークっぽい人というと圧倒的に男性が多いわけですが、女性もそれなりに移行し始めています。必ずしも、いわゆるハイエンドのお客様だけが移っている状況ではありません。

―― 春商戦のメインターゲットは、スタンダードモデルを買うようなミドルレンジのお客さんです。2011年の春商戦は、まだフィーチャーフォンの需要が中心なのか、それともミドルレンジ層にもスマートフォンが浸透し始めるのか、個人的に注目しています。

増田氏 ミドルレンジの方への浸透も始まっているというか、あとで振り返ると「あの時からだいぶ移り始めたよね」という感じになるのではないかと思いますね。春モデルは当然、夏過ぎの商戦期までずっと売られるわけですから、この春モデルとして出したものが、そういう層の受け皿になっていくということは間違いないと思います。

安心感につながる“日本ならでは”の機能

Photo REGZA Phone IS04は、au初の防水スマートフォン

―― ISシリーズの場合、日本のケータイで必須といわれるワンセグ、赤外線通信、おサイフケータイを搭載しています。これらの“日本のニーズ”の中で、利用者からの評価が高いのはどの機能なのでしょうか。

増田氏 一番大きいのはキャリアメールですね。ここはどうしても外せないという声が多いです。他社さんのプロダクトをみても、キャリアメールの対応後に移行に弾みがつくという状況もありましたし、ケータイのメールがそのまま使えるという安心感というのは1つあるだろうと思います。その次は、赤外線通信でしょうか。日本人はアドレス交換のために赤外線通信をよく使いますので。

―― ワンセグよりも赤外線通信のニーズが高いということですね。

増田氏 セグメントにもよるかもしれませんね。例えば、都市部はFeliCaのニーズが高いです。電子マネーの「Edy」がもともと浸透している沖縄は別にして、特に都心は「Suica」と「Edy」である程度大丈夫なようになっていますから、スマートフォンに移る動機として、都市部においてはFeliCaも非常に大きいと思います。

―― ただ、まだスマートフォンで「モバイルSuica」は使えませんね。

増田氏 今はまだ使えません。でも、対応しているかどうかは大きいと思います。

―― 「近い将来、モバイルSuicaが出るから、どうせスマートフォンを買うなら対応しているものがいい」という感覚ですね。

増田氏 そうです。ワンセグに関しては、常時見ているかといったら、そういうわけではない。けれど、いざというときに見られるという安心感は、やっぱりニーズとしてあるんじゃないでしょうか。

―― IS04の防水に関してもかなり好評だったとうかがっています。ニーズは高いですか。

増田氏 日本の場合、フィーチャーフォンを持っている方からすると、防水機能はあって当たり前ですよね。特にフィーチャーフォンは防水機種がそろっていますから、そこからの移行を考えると「いざというときの安心感」で防水のニーズはあるかなと思いますね。

キャリアサービスは選択肢の1つ

―― 今回、ISシリーズでauならではの部分として、ユーザーインタフェース(UI)に対するこだわりが感じられますし、auのサービスが、他キャリアに比べて充実しています。「EZナビウォーク(au oneナビウォーク)」や「LISMO」、「au Smart Sports」などが、ちゃんとパッケージとしてスマートフォンに移植されていましたが、この効果はいかがですか。増田さんとして、お客さんの反応をどうみていますか。

増田氏 auのサービスを使われている方は当然、一定の人数がいらっしゃいますから、そのサービスを日常的に使われている方にとっては、移行先にそのサービスがあるかないかは非常に大きいと思います。ですから、そういった受け皿がスマートフォンでもきっちり実現できているのは、安心感という意味ではプラスの効果が当然働いていると思います。

 何でもできるのがスマートフォンの魅力なのですが、“何をしていいいか分からない”お客様も当然いるわけです。PCが広がるときも全く同じ議論があったと思うんですけど、結局、スマートフォンは専用機なのか汎用機なのかというと、限りなく汎用機で、これまで通信キャリアががっちり作ってきたインターネットの世界から、本当のインターネットの大海原にポンと投げ出されて、「いろんなことはできそうだけど、じゃあ、最初に何をすればいいの?」と思われる方もいると思うんです。

 リテラシーの高い方は自分の必要なアプリやサービスを理解しているので、自分好みのカスタマイズができるでしょう。しかし、一般のユーザーがいきなり(スマートフォンに)放り投げられると、最初どうしていいか分からないという人もいるわけです。auのサービスは、そういう方に「まずはここから使ってみてください」ということで入れているんです。ソーシャルサービスを楽しみたければ、「jibe」を使ってくださいと。見たことがあるサービスのアイコンが並んでいるだけでも、何をやっていいか分からないという状態よりは、だいぶ安心感があると思うんです。

―― パッとみたときに、今まで自分が使ってきたものと同じ名前があり、アイコンがあることが重要だと。

増田氏 重要だと思います。もちろん、例えば、ナビなんかはグーグルのサービスでできるわけですね。電車の乗り換えも検索すればすぐ分かります。インターネット上には「同じことができるからこれでいいじゃん」というものがあって、いろいろな使い方ができます。でも、LISMOやau oneナビウォークに今まで慣れ親しんでこられた方からすると、見知ったサービスのアイコンが用意されていた方が使いやすく、移行しやすいと思うのです。

―― 今後のスマートフォンの競争において重要なのは、サービス利用率をいかに下げないか、さらにいかに上げていくか、です。そこでKDDIは、フィーチャーフォンで培った「auのサービス」を用意することで対応しているわけですね。

増田氏 そうです。素のインターネットの世界では無料サービスが充実していますが、やっぱり通信キャリアとしては、今まで慣れ親しんだものを、新しい機種でも引き続き使っていただきたい。それが1つの付加価値となって継続的に利用していただければ、それを使ってらっしゃるみなさんがハッピーになるわけですから、そういう仕掛けは重要です。

 あえて(従来のサービスを)遮断する必要は全くないと思います。新しい世界に行くから、引きずらずにバッサリ切る、というやり方も当然あります。例えばドコモさんの「GALAXY S」や「Xperia」をみていると、それでいいという人も一定量はいるわけですね。だけど、万人にそれでいいかというと、そうではなくて、裾野を広げていくためにはギャップを作らないような仕組みもいるんじゃないかというのが我々の考え方です。

―― 選択肢があって、キャリアのサービスをそのまま使いたければそれを使えばいいし、無料のものがあるのを知っていて、それを自分でAndroidマーケットから探し出してくるのが好きな人はそれをやればいい。選択肢の問題だということですね。

増田氏 全くそうだと思います。フィーチャーフォンの時代はキャリアがセットしたパッケージを買う、というか、それしかできなかったんですね。

―― それ以外のもの、という選択肢が少なかったですね。

増田氏 それが今は逆転しているんですけど、最終的に選ぶのはお客様なので、使いたい人は使っていただければいいし、それを取っ掛かりにして新しい世界に行かれてもいい。そういうきっかけ作りの仕掛けを、どれだけ入れられるかじゃないかと思います。全く素のままお渡しするよりは、今まで使っていたようなサービスに似て非なる新しいキャリアサービスとか、あるいは新しい世界に行くのでも、jibeのようなものでお試しができるようなものからスタートするという方が、初めての方にとっては親切なんじゃないかなと思います。まあ、最終的には、専用のアプリケーションに移行したければ、移行していただければいいと思います。

Photo 1つのアプリで複数のコミュニケーションサービスを利用できる「jibe」(ジャイブ)

コンテンツプロバイダも移行すべき

―― ケータイ向けのコンテンツプロバイダ(CP)さんと話をしていると、今までケータイコンテンツをやってきたけれど、スマートフォンになったら自分たちのお客さんが大きく減ってしまうのではないか、サービスを使ってもらえなくなってしまうのではないか、という不安を持っていると話す人が多い。

 KDDIは、フィーチャーフォンで見慣れたアイコンがスマートフォンにもあるという環境を作ったわけですが、実際、多くの方が継続利用しているのか、それとも移行をきっかけにやめる人が結構出てしまっているのか、どちらでしょうか。

増田氏 継続率の数字は分かりませんが、両方の声を聞きます。「スマートフォンでも(auのサービスを)やっているんですね」という声もあります。スマートフォンに変わったのを機に積極的にやめようという人はいないと思いますが、逆に「スマートフォンでもできるのね」といって始める人もいらっしゃいます。色々ですね。

―― 今のお話からすると、CPさんは、「スマートフォンは儲けにくい」からといって手を出さないよりは、早めに移行しておいて、自分のお客さんが来たときに受け入れられる場所だけは置いておいた方がよさそうですね。

増田氏 そうですね。フリーのインターネットの時代になって、今まで、ウォールドガーデンの中でやっていたことそのままでいいのか、それとも、やっぱりちょっと変えなきゃいけないのか、いかにそのツボを早く知るかは、先行者メリットとしては重要だと思うんですね。

どういうことをやればお金が取れて、あるいは取れないのか、フィーチャーフォンだったら、こうだったけれど、スマートフォンだと操作性も変わるから、こういう仕掛けの方が受けそうだ、といったようなことは、いち早く習得すればするほど、色んな意味で先行者メリットがあると思いますね。いろいろアプリケーションがありますが、あれだけ操作性が変わるといろいろ表現の仕方があるわけですから、そういったことをいかに早く取り込めるかは、同業他社が移ってきたときの大きなアドバンテージになるような気がします。

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