いきなりグフまで行っちゃった――新型ポメラ「DM20」は化け物か仕事耕具

「ザクとは違うのだよ、ザクとは」。従来機のDM10が「ザク」だったすればDM20は「グフ」だという。いよいよ発売になったDM20について、キングジムの立石さんは「いきなりグフまで行っちゃった」――。

» 2009年12月11日 13時43分 公開
[鷹木創,Business Media 誠]
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キングジムの立石さん

 「ザクとは違うのだよ、ザクとは」。ガンダム名言で新型ポメラ「DM20」を表現するのは、キングジムの立石幸士さん。従来機のDM10が「ザク」だったすればDM20は「グフ」だという。「いきなりグフまで行っちゃった」――。12月11日、いよいよ発売になったDM20について、立石さんに話を聞いた。

DM20のメカ設計についてはこちら(@IT MONOist)


QRコードが「キングジムらしさ」のわけ

QRコードを表示
クロックオン QR時計タイプ

 初代ポメラ(DM10)の最大の弱点は通信機能。せっかく打ち込んだデータを携帯電話に移動させるのもひと苦労だった。DM20ではQRコードを表示させることで、携帯電話への移動を簡単にした。本誌の連載「ポメラで書くポメラ日記」でも担当のヨシオカが「予想の斜め上を行く」とコメントしたほどびっくりの解決策だ。

 実はQRコードを採用したのには理由がある。以前キングジムではQRコードを利用した勤怠管理システム「クロックオン QR時計タイプ」を開発していた。時計部分にQRコードを表示させ、QRコード対応携帯電話で読み取った勤怠データをサーバに送信するというシステムである。受信した勤怠データを集計・管理できるほか、給与計算ソフトと連動させて給与計算も可能だ。

 ただ、このシステムは「残念ながら売れなかった」。QRコードを表示させる液晶部分の表示性能が貧弱だったり、当時の携帯電話のスペックの問題から肝心のQRコード読み取り精度が低かったからだ。いわばQRコードで「痛い目にあった」わけだが、DM20にはコントラストが高い液晶画面を搭載しており、携帯電話の性能も上がっていて、「読み取りできる」という判断を下した。

 当然、Bluetoothなどの通信手段も考慮したが、駆動時間や本体サイズ、コストとのトレードオフになる。また、先ほどのクロックオンを担当した上司も「うち(キングジム)らしいのはQRコードだ」と背中を押した。結果的に社内の「痛い目にあった派」を押し切った形だが、立石さんとしても「1つのQRコードは、400バイト(200文字)まで。今の携帯電話ならだいたい読めるだろう」という目算もあった。

 ちなみにこのQRコード表示機能、ソフトウェアのため従来機種のDM10でも搭載できそうだが「DM20とは容量が全然違うので、DM10だと難しい」という。「DM20のアプリケーションはDM10を土台にはしたが、一から作り直した。ハードウェアのアーキテクチャ自体に大きな変更はないが、動作速度やメモリ容量の違いがあるため、DM10ではDM20の機能を恐らく実現できないのではないか」

バックライトどうする?

長い文章を見渡せる

 基本的な機能もグレードアップ。キーリピートの時間を短くしたり、テキストデータの置換動作を軽快にした。「サクサク感を重視した」という。メモ帳代わりにというポメラのコンセプトだが、2万8000文字までの長文も打てるようになった。液晶サイズも5インチになり、12ドットフォントを搭載したため、長い文章でも全体を見渡して、体裁を確認できるようにしたという。

 一方、新たに搭載したファイル管理の方法は悩んだ。DM10でも高齢者から質問が多かったのが、ファイル保存の仕方だ。ポメラには、ノートPCに搭載されているタッチパッドのようなポインティングデバイスがない。すべてをキーボードで操作するため、初心者には若干の障壁が存在する。「オリジナルのOSを使っているので、(ポインティングデバイスは)難しかった」と立石さん。今後の宿題ということになりそうだ。

 「社内からはあったほうがいいという声があった」という液晶画面のバックライト。ベッドに入りながら打ちたいという要望もあった。だが、もともとポメラの液晶はコントラストが高く、はっきりくっきり映ることが好評。「反射型なので明るければ明るいほどくっきり見える。フロントライトの方向性もあったが、厚くなるし……。ただ、可能性がないわけじゃない」と次世代ポメラでの可能性を示唆した。

新旧ポメラ比較。初代のDM10では液晶画面の下にポメラのロゴが入っていたが、DM20ではキーボード右下にロゴが移動した

ポメラって使えない? オススメ活用術

 ポメラを購入したけど、テキストデータだけという割り切りから「使いこなせない」「PCのほうがいい」という人もやっぱりいる。今回のDM20ではもうちょっとだけ便利な機能もついた。例えば、カレンダー機能。月間表示ができる(というかしかできない)シンプルな機能だが、カレンダーにひも付いてメモが取れるのは便利だ。議事録や商談のメモにうってつけと言える。「設定で、電源を入れたらまずカレンダーが立ち上がるようにするともっと便利」とのこと。

 また客先とのミーティングにもポメラは適しているかもしれない。通常のノートPCだと液晶部分が壁のようになって、客先との心理的な障壁になりかねない。「みんなで(ノートPCを)開くと威圧感にもつながる」と立石さん。営業マンによっては正面にノートPCをおかず横向きに打ち込んだりもするが、体をひねってメモをとるため不自然な格好になりがちだ。その点、ポメラなら“壁”も低い。それに「それなんですか? とネタにもなる」というわけだ。


目指すのはVAIO X

 DM20の開発は2009年2月に会社の承認が下りた。開発期間は8〜9カ月。「DM10より若干短い」という。ハードウェアの設計はデザインを担当する部署に任せて、立石さんはソフトウェアに注力した。だが、手こずった。「プログラムを本格的に作り出したのは夏過ぎ。DM10のファームアップもあって、なかなかDM20の開発にリソースを割けなかった」のだ。プログラムの開発を中国(深セン)でやっていたのも、苦労を増やした。「日本語入力機なので、当初は現地の開発者もよく分からなかったようだ。意志疎通が難しかった」

“足”部分。写真はDM10のものだが、DM20も同様の機構を備えている
VAIO X

 意思疎通が難しかったというが、立石さんを含む3人の開発チームでコンセプトは統一していた。とにかくいつでもどこでもテキストデータでメモを取るためのもの、という点だ。「外部からは通信機能を搭載する案などがあったけど、ユーザーやインターネット上での声で(コンセプトが)ぶれてはいけないという確信を強めた」という。「いろいろな派生系があるにしても、スタンダードはぶれてはいけない。ぶれていいときはお遊びの時だ。お遊びだとしたら、DOS機を作っちゃうかも。WindowsがオープンOSになっていたら、お遊びバージョンがあったかもしれない。そのぶん、電池駆動ではなくバッテリー駆動だったり、コストも高くなりそうだが」

 ただ、スタンダードモデルでも追求したい点は残っている。実は「軽さでいうとDM10がいい。(DM20を)もっと薄くできたんじゃないかな」。例えばキーボードの右側裏についている“足”。「キーボードの強度から言って、足を伸ばさなくてもいいかも。そうすると2〜3ミリ減らせる。液晶部分も減らせば、合計で5ミリぐらい減らせそう。5ミリ違うと製品としてのインパクトが違う」。

 目指すのは、ソニーの「VAIO X」。「ハードをあそこまで追い求めて、スタイリッシュかつ薄くしている」。VAIO X並の完成度と薄さが次世代ポメラの目標――というわけだ。

 いつも持ち歩いているメモ帳をなくしたい――そんな気持ちがこもったポメラ。立石さんは「DM20で基本的な性能は網羅した。今後は機能を絞った廉価版などが必要かもしれない。あらゆるユーザー層を模索している最中だ」と話した。

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