ところで「トラブル」が絡んでいる時は、ホウレンソウが著しく遅れやすい。トラブルが発生したことをすぐ報告・相談せず、だいぶ経ってから発覚するというケースだ。
「部下がミスを隠すのは困るんだよね」「早く言ってくれればもっと上手に対応できたのに、悪いニュースを後輩はいつまでも黙っているんだよねえ」と嘆く上司・先輩もいる。確かに「叱られたくない」「まずいことがバレないようにしたい」と、意図的にホウレンソウをしないケースもある。しかし、部下が「自分でなんとかしようと思って対処しているうちにことが大きくなってしまう」ケースのほうが多いようだ。
あるベテランがこんな風に話してくれた。
「若い頃って隠すつもりはないんだけど、結果的にはミスを隠したと思われるようなことをしてしまうことがあった。トラブルが発生したとき、自分が原因であればあるほど、自分でなんとかしなくては、と焦ってしまう。自分でなんとかできると思えるし。だから対処に関心をとられ、ホウレンソウが後回しになることは多かった。でも自分の知識や経験が浅いためにどうにもならなくて、しかもその時点ではことが大きくなっているから、結果的には上司や先輩から大目玉をくらうんですよねえ」
これは十分すぎるほどに理解できる。悪気があってミスやトラブルを隠しているわけではなく、自分のまいた種を自分で刈り取ろうとしているだけなのである。そもそも、上司も先輩もいつも「自分の頭で考えて、自分から主体的に行動する人になってほしい」というではないか。だから、なんとかしよう、なんとかしよう、と頑張っているうちに、時間だけがむなしく過ぎていくのだろう。
こういう時、上手に対応する上司がいる。ある若手は、自分が引き起こしたミスを恐る恐る上司に報告すると、上司は「言いづらいことを報告してくれてありがとう」。その言葉に続けて「やってしまったことはキミのミスだから、キミ自身が反省するとして、対処法は皆で考えよう」
大目玉を覚悟していた彼はこのように言われ、とても救われたという。また、上司に感謝もした。上司は「反省すべきこと」と「対処すべきこと」を分けて対応したのだ。よく仕事における問題解決を図る際、「ヒト」と「コト」を分けるという言い方をする。この上司は「反省すべきなのはあなただ」と「ヒト」について言及した後すぐに「対処法は皆で考えよう」と「コト」にすぐ焦点を移した。ミスやトラブルが起こっている時、慌てることなく、個人を責めることもなく、冷静に対処できる上司は素晴らしい。
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
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