『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業をつくった男』著者が見たリクルート成長の秘密リクルート創業者の肖像【後編】(1/4 ページ)

» 2021年08月13日 05時00分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

 リクルートの創業者、江副浩正氏の生涯をたどったノンフィクション『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業をつくった男』(東洋経済新報社)が、今年1月の発売以来5万部を突破した。

 江副氏は「リクルート事件」の主犯として1989年に逮捕され、13年の裁判を経て有罪が確定。2013年2月に76歳で亡くなった。希代の起業家である江副氏の「大いなる成功」と、事件のてん末を含めた「大いなる失敗」が、本書のストーリーの柱の一つになっている。

右がリクルートの創業者、江副浩正氏。屋外での取締役会議の様子(『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業をつくった男』より)

 著者の大西康之氏が着目した点は、他にもある。それは事件後も成長を続けているリクルートの強さだ。江副氏が亡くなった翌年の14年10月、リクルートホールディングスは、東京一部上場を果たす。21年8月11日時点で9兆8467億円と、国内6位の規模を誇っている。

 ITmedia ビジネスオンラインでは、著者の大西康之氏にインタビューを実施。前編では、ヒットの背景について聞いた(関連記事)。後編では、大西氏が取材を通して見たリクルート成長の秘密と、不確定な時代でも生き抜ける人材の育成について語る。

大西康之(おおにし・やすゆき)ジャーナリスト。1965年生まれ。愛知県出身。1988年早稲田大学法学部卒業、日本経済新聞社入社。欧州総局(ロンドン)、日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月に独立。著書に『稲盛和夫 最後の闘い JAL再生にかけた経営者人生』『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(以上、日本経済新聞出版)、『三洋電機 井植敏の告白』『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』(以上、日経BP)、『ロケット・ササキ ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正』(新潮社)など。近著に『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業をつくった男』(東洋経済新報社)、『GAFAMvs.中国Big4 デジタルキングダムを制するのは誰か?』(文藝春秋)

「仕組み」作りでも天才だった江副氏

 リクルート事件は政財界の大物20人が有罪となった戦後最大の疑獄事件といわれている。江副氏は未公開株の売却が次々と明らかになった後の1988年7月にリクルート会長を辞任し、翌年2月に東京地検特捜部に逮捕された。

 江副氏が失脚した後、リクルートコスモスと、子会社のノンバンクであるファーストファイナンスは1兆8000億円の借入金を抱える。バブル崩壊もあって、この借入金を背負ったリクルート本体も経営危機に直面した。

 しかし、リクルートは高収益の経営によって、この危機を乗り切る。これだけの大きな負債を全額自力で返済した。大西氏は、残された社員たちが06年に借金を完済していくまでの様子も描いている。

 さらに、借金返済後も成長は続く。リクルートホールディングスは14年10月に東京証券取引所第一部に株式を上場。8月11日時点で9兆8467億円で、国内6位の規模を誇る。

 もちろん社員には、江副氏に対するさまざまな思いがあったことが推察される。それでもリクルートが成長を続けている背景には、江副氏が作ったさまざまな仕組みが自走しているからではないかと大西氏は指摘する。

 「リクルートには独特の制度や社内用語がたくさんあります。一番有名なのはRingという新規事業のコンテストです。社員にビジネスアイデアを出させて表彰し、一番面白いアイデアには資金を出して事業化させるものです。ここから数多くの事業が生まれています。

 Ringをはじめとする多様な制度や仕組み、カルチャーには、江副氏が理想とした企業像がうまく織り込まれています。だから本人がいなくなっても、仕組みが自走できる。そういう意味でも江副さんは天才だったと思います」

リクルートのRing(同社のWebサイトより)
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