リクルートの創業者、江副浩正氏の生涯をたどったノンフィクション『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業をつくった男』(東洋経済新報社)が、今年1月の発売以来5万部を突破した。
江副氏は「リクルート事件」の主犯として1989年に逮捕され、13年の裁判を経て有罪が確定。2013年2月に76歳で亡くなった。希代の起業家である江副氏の「大いなる成功」と、事件のてん末を含めた「大いなる失敗」が、本書のストーリーの柱の一つになっている。
著者の大西康之氏が着目した点は、他にもある。それは事件後も成長を続けているリクルートの強さだ。江副氏が亡くなった翌年の14年10月、リクルートホールディングスは、東京一部上場を果たす。21年8月11日時点で9兆8467億円と、国内6位の規模を誇っている。
ITmedia ビジネスオンラインでは、著者の大西康之氏にインタビューを実施。前編では、ヒットの背景について聞いた(関連記事)。後編では、大西氏が取材を通して見たリクルート成長の秘密と、不確定な時代でも生き抜ける人材の育成について語る。
リクルート事件は政財界の大物20人が有罪となった戦後最大の疑獄事件といわれている。江副氏は未公開株の売却が次々と明らかになった後の1988年7月にリクルート会長を辞任し、翌年2月に東京地検特捜部に逮捕された。
江副氏が失脚した後、リクルートコスモスと、子会社のノンバンクであるファーストファイナンスは1兆8000億円の借入金を抱える。バブル崩壊もあって、この借入金を背負ったリクルート本体も経営危機に直面した。
しかし、リクルートは高収益の経営によって、この危機を乗り切る。これだけの大きな負債を全額自力で返済した。大西氏は、残された社員たちが06年に借金を完済していくまでの様子も描いている。
さらに、借金返済後も成長は続く。リクルートホールディングスは14年10月に東京証券取引所第一部に株式を上場。8月11日時点で9兆8467億円で、国内6位の規模を誇る。
もちろん社員には、江副氏に対するさまざまな思いがあったことが推察される。それでもリクルートが成長を続けている背景には、江副氏が作ったさまざまな仕組みが自走しているからではないかと大西氏は指摘する。
「リクルートには独特の制度や社内用語がたくさんあります。一番有名なのはRingという新規事業のコンテストです。社員にビジネスアイデアを出させて表彰し、一番面白いアイデアには資金を出して事業化させるものです。ここから数多くの事業が生まれています。
Ringをはじめとする多様な制度や仕組み、カルチャーには、江副氏が理想とした企業像がうまく織り込まれています。だから本人がいなくなっても、仕組みが自走できる。そういう意味でも江副さんは天才だったと思います」
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