ITの動向や他社の状況を、気にし過ぎていませんか?何かがおかしいIT化の進め方(14)(3/3 ページ)

» 2005年03月17日 12時00分 公開
[公江義隆,@IT]
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顧客によってITの位置付けが変わる

企業が顧客の場合と、一般消費者が顧客の企業では大きな違いが出てくる。企業は必要なものしか買わない。購買する場合はその意思ははっきりしているし、一般に1件当たりの取引額も大きい。商品によって顧客はある程度特定される。一方、一般消費者が顧客の場合は、逆の状況になる。

 一般消費者の気まぐれで、購買の動機は必要性を重視するとは限らない。最後まで購買の意志がはっきりしていない場合も多い。1件あたりの取引額も多くはないのが普通である。多様な対応を求める多様で、移り気な人たちが顧客である。

 この2種類の顧客に対応するIT・情報システムを比較した場合、データ規模的にも機能的にも、後者が圧倒的に大きなシステムを求めることになる。1つのシステムとしてもコストの掛かるものになるし、気まぐれで移り気な顧客の期待に応えるため、システムのライフサイクルは短くなりがちである。経済合理性から、システム更新や再構築にある程度の歯止めの掛かる企業顧客対象のシステムとの違いが出てくる。

IT・情報システムの位置付けや方向性は企業ごとに異なる

 企業の中でのIT・情報システムの位置付けに違いが出てくることを、3つの切り口からとらえて述べてきた。

 “商品(製品)で競争相手との差別化を目指し、企業が顧客である企業”と、その対極として、“商品(製品)での差別化も顧客への付加サービスの面でも差別化が難しく、一般消費者が顧客である企業”では、IT・情報システムの位置付けや求められるものは、どのように異なってくるか、自社はこの両極端のどの辺りの位置付けになるかを、一度考えてみていただきたいと思う。自社の中長期の経営方向や戦略に照らし合わせ、今後必要となる自社のIT・情報システムの特性や方向性を描き出し、ここにかかわる人材に求められる能力がどのようなものになるかを、真剣に考えてみていただきたいと思う。

 企業による相当大きな違いが出てくると思う。

ティー・タイム

 おととし以来、ニコラス G.カー著「もはやITに戦略的価値はない」(『ダイアモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー』、March、2004、原著:“IT Doesn’t Matter”,Harvard Business Review,May 2003)という論文が関心をよんでいる。この中で述べられている内容の要点は、以下のようなことである。

  • 「ITの能力とユビキタス性が高まるにつれて、その戦略的価値も高まると考えるのも無理はないが、正しいとは言い難い」
  • 「持続的な競争優位の基盤となる能力(戦略的価値)は、ユビキタス性ではなく希少性である。競合企業への優位を確保するには、彼らが持ち得ないものを備えている、なし得ないことができなければならない」
  • 「ITの中核的機能はもはや、利用可能な価格で誰でも入手できる(希少性はない)。ITは戦略的資源というより、工業におけるコモディティの色彩の強いものとなりつつある」

 つまり、技術進歩(大抵のことはできるようになった)や価格低下・普及などによって、ITはその気になれば誰にでも手に入るものとなった。その結果、ITはビジネスに不可欠であっても、これで競争相手との差別化はできないという話である。

 しかし、この話はいまに始まった新しい話ではない。1980年代にSIS(Strategic Information Systems、戦略情報システム)というはやり言葉があった。このときの議論の結論も、すでに似たようなことであったように思う。1990年代になってパソコンとインターネットの普及により、再び戦略ツールとしての夢が膨らんだのかもしれないが、雨後のたけのこのように乱立した、いわゆる“.COM企業”の末路を見ても、ITがもはや戦略資源にはなり得なかったことを示している。

 なお、この論文は決してITをネガティブにとらえたものではない。電力や鉄道といったインフラの発展の歴史と対比しながら、ITの状況を冷静に見つめた結論である。ITがコモディティになったということは、“有用な対象にはITを使うことが常識になり、有効な使い方をしていなければそれが企業の弱点になる”ということでもある。

 また、この論文では、ITマネジメントの新しいルールとして、次の3点を挙げている。

  • 「支出を抑える――ITのコモディティ化が進むにつれ、過剰支出に伴う罰金も高くなる」
  • 「先行せずに追従する――待つことで、技術的に欠陥のある商品や、急速に陳腐化するかもしれない商品の購入リスクを小さくする。例外的に、最先端を走ることが有意義な場合もあるが、IT能力が同質化していけばいくほど、稀なものとなる」
  • 「チャンスでなく、弱点に注意せよ――ITアプリケーションやネットワークの管理を第三者任せにしてきたことで、直面するかもしれない脅威が増大している。注意をチャンスから弱点に向ける必要がある」

 要するに「守りを固めろ」ということになるが、日本の企業についていえば、特に3番目の問題が重要だと思う。セキュリティ問題などで分かっているといわれるかもしれないが、本当にそういい切れるだろうか。

“(いままで軽視してきた)運用や保守を重視する発想や価値観への切り替えが重要になるということでもある”

 また、この論文に対して「ITに人が追い付いていないのだ」といったコメントが掲載されていた。そんな面は確かにあると思う。同じERPパッケージを使っていても、大きな効果を上げる企業とそうでない企業がある。世の中のほとんどのPCには表計算やワープロ、インターネットブラウザなどが搭載されている。しかし、これらのソフトから得ている効果は、人により千差万別である。この違いはPCやソフトの使い方や機能をどれだけ知っているか(コンピュータ・リテラシー)によるのではなく、解決しようとする問題の把握・分析力、あるいはうまい解決方法を見つけ出す創造性や思考力によるところが大である。

“人や組織の能力開発に対しての関心を、より高めなければならない段階に来ている”

profile

公江 義隆(こうえ よしたか)

ITコーディネータ、情報処理技術者(特種)、情報システムコンサルタント(日本情報システム・ユーザー協会:JUAS)

元武田薬品情報システム部長、1999年12月定年退職後、ITSSP事業(経済産業省)、沖縄型産業振興プロジェクト(内閣府沖縄総合事務局経済産業部)、コンサルティング活動などを通じて中小企業のIT課題にかかわる


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