HSPA+とLTEは並行して導入される――Ericsson、モバイルブロードバンドの動向を予測Mobile World Congress 2009(2/2 ページ)

» 2009年02月26日 17時20分 公開
[末岡洋子,ITmedia]
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LTEとHSPA+は並行して導入される

photo 1986年からGSMの仕様策定に関わっているというEricssonのCTO、ホーカン・エリクソン氏

 HSPAをさらに高速化した「HSPA+」、そして“3.9G”として2010年の商用化が予定される「LTE(Long Term Evolution)」は、どのような流れで導入されるのだろうか。また、LTEと比較されることも多いWiMAXや、小型基地局のフェムトセルはモバイルブロードバンドにどんな影響をもたらすのだろうか。EricssonのCTO ホーカン・エリクソン氏に話を聞いた。

―― LTEの前にHSPA+が主流になるのでしょうか。

エリクソン氏 HSPAオペレーターはネットワークのアップグレードを続けるため、HSPA+とLTEの展開は並行して進むでしょう。HSPAは1.8Mbpsで開始し、その後3.6Mbps、7.2Mbpsと速度を上げており、最終的には84Mbpsまで進化する見込みです。そのころには、LTEの導入も始まっているでしょう。

 HSPA+へのアップグレードは、21Mbpsはソフトウェア更新で対応でき、その後はマルチキャリアと2×2 MIMO(Multiple Input Multiple Output)の2つの手法を使って42Mbpsに改善できます。最初にマルチキャリアを選び、それをMIMOにするオペレーターもあれば、最初にMIMOにし、マルチキャリアを導入するところもあります。どちらを先に導入するかは利用できる周波数帯の状況によって異なりますが、最終的に2つを利用して、理論上は84Mbpsを実現できるでしょう。

 オーストラリアのTelestraの場合、2010年に42Mbpsにアップグレードする計画なので、84Mbpsの実現は2011年以降になるでしょう。2010年〜2011年にLTEが始まるころには、HSPAのピークレートはかなり進化しているはずです。また、2G技術のGSMも進化しています。今後もGSMと3G、そして4Gが並行して利用されるでしょう。

WiMAXはHSPAよりも劣る

―― LTEにとってWiMAXは脅威になるのでしょうか。

エリクソン氏 “4G”こと「IMT-Advanced」の通信速度は、ITU(国際電気通信連合)では屋内1Gbps、屋外100Mbpsと定められています。WiMAXは、屋内と屋外ともにこの基準を満たしませんが、米国でWiMAXは4Gと呼ばれています。一方、LTEは屋外では300Mbpsを想定していますが、屋内は0.3Gbpsで4Gの基準を満たさないので、3.9Gと呼ばれています。

 ただし、ITUは1Gbpsに100MHz幅を利用でき、LTEは20MHzで300Mbpsを実現します。帯域幅を5倍にすれば4Gの要件を満たしますが、現状ではそれだけの帯域が開放されていません。この帯域幅の強化は「LTE Advanced」と呼ばれます。

 HSPAは5MHzを上りに、5MHzを下りに分けるFDD(周波数分割復信)方式を採用するのに対し、WiMAXは上りと下りが10MHz帯を共有するTDD(時分割復信)方式を採用しています。しかし、TDD方式は効率が悪いというデメリットがあります。

 HSPAは4Gの80%まで高速化すると見ていますが、WiMAXはこれには及びません。WiMAXはHSPAに対抗する技術を目指して開発されてきましが、性能ではHSPAより劣ります。WiMAXはマーケティング戦略により4Gとして売り込んだにすぎません。

―― 標準化はどのように進んでいくのでしょうか。また、今後も複数の方式の競合が続くのでしょうか。

エリクソン氏 現在はGSM(3GPP)、CDMA(3GPP2)、WiMAX(IEEE)の3つの方式が主流で、3GPPには中国のTD-SCDMAも含まれます。GSMの加入者は80%を上回っており、CDMAは15%程度、WiMAXは5%を目標にしています。

 CDMAはEV-DOの次となるUMB(Ultra Mobile Broadband)を開発する見通しでしたが、動きがないようです。少なくとも、UMBサービスの開始を宣言しているオペレーターは現時点ではいません。KDDIや米Verizon WirelessなどはLTEに移行することを発表しているので、CDMAとGSMが統一される可能性は高いといえます。

 一方、LTEはFDD(時分割復信)とTDD(周波数分割復信)の2つの派生を持つので、WiMAXの特徴であるTDDは、もはや大きな強みにはならないでしょう。

 技術的には、SAE(System Architecture Evolution)とよばれるパケットコア技術でHSPA、LTE、EV-DOと接続することになりますが、WiMAXの接続は難しいでしょう。昨年のMobile World Congressで、SAEがWiMAXに対応するという話がありましたが、結局現在の仕様では対応しません。LTE端末については、前世代の技術のW-CDMA/HSPAやGSMも利用できるので、チップに後方互換性を持たせ、同じLTEチップでFDDとTDDに対応することになるでしょう。

 3Gは、3億人の加入者と250のネットワーク、1500以上の端末をカバーします。WiMAXは802.16d(Fixed WiMAX)、802.16e(Mobile WiMAX)へと進み、IMT-Advancedの要求を満たす基準として802.16mへの対応が期待されますが、技術と加入者数を考えると、実現しない恐れもあります。

 実際、今年のMWCでは昨年よりもWiMAXの話が出なくなりました。UMBと同じ運命をたどり、来年はさらに話題に上らないかもしれません。

―― 「フェムトセル」はモバイルブロードバンドで重要になるのでしょうか。

エリクソン氏 フェムトセルについては、慎重に対応していきます。オペレーターが抱える問題の種類によって、フェムトセルが適さないこともあります。現時点でEricssonは、ゲートウェイ側で開発しています。オペレーターの反応はさまざまですね。

 フェムトセルではDSL回線への接続が必要となりますが、DSL回線を持っている人の多くが無線LAN環境(Wi-Fi)を構築しています。フェムトセルはネットワークの混雑を止めるのが目的ですが、混雑の原因となっているのはデータであり、データ通信を行うノートPCのほとんどがWi-Fiに対応しています。つまり、フェムトセルで解決できる課題は、Wi-Fiでも対応できるということです。

 フェムトセルの導入は、音声トラフィックの解決には意義がありますが、ネットワークのキャパシティを上げる際にはデータが問題となります。また、エリアカバーの問題解決にもフェムトセルが有効だと思いますが、キャパシティの問題解決には最適とはいえません。個人的には、フェムトセルが多くのオペレーターが必要とする解決策になるとは思いません。

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