スマホへの期待に応え、不安を払拭する――「らくらくスマートフォン」開発の狙い(2/3 ページ)

» 2012年07月18日 19時52分 公開
[房野麻子,ITmedia]

ハードウェアからサービスまでトータルで“らくらく”仕様に

photo 富士通 執行役員常務 大谷信雄氏

 富士通 執行役員常務の大谷信雄氏は、F-12Dの機能と特長について、デモを交えながら詳しく説明。「ユニバーサルデザインの技術とICTの技術をフルに活用して、シニアに感動や喜び与え続けられるスマートフォン」を目指し、「使いこなせるためのプロダクトと人と社会のつながりが持てるサービス」という、大きな2つのテーマに基いて開発したと述べた。

 まずは1つ目テーマ「プロダクト」について。開発に先立ち、富士通は1年半にわたってさまざまな調査を行い意見を収集。国内・海外のシニア3000人からライフスタイルや要望、デザインなどの意見を集めたほか、100人に実際にスマートフォンを使ってもらい、使い勝手を含めたモニター調査を繰り返したという。2011年秋に完成したプロトタイプについての意見も収集し、それらを反映しながらF-12Dを開発した。

photo 「使いこなせるためのプロダクト」と「人と社会のつながりが持てるサービス」という2つのテーマに沿って開発

photophoto シニアに対するアンケートやモニター調査を実施し、その意見を反映
photo シニア向けのUIをかぶせるだけでなく、ハードからソフト、サービスまでトータルに作り直した

 こうした調査の中では、「画面が大きい」などスマートフォンに対する期待があった一方で、「画面のタッチ操作の際に間違った場所を触ってしまう」「1つ1つのアイコンが小さすぎる」「ボタンを押した感覚がない」「アカウントというキーワードが分かりにくい」「シニア向けのアプリがない」など、非常にたくさんの課題が浮かび上がったという。大谷氏は「シニア向けのハードウェアとして新たなキーデバイスの開発が必要で、アプリケーションやUIを作り、さらにサービスをそろえ、ハードウェアからサービスまで、トータルに作り直さない限りユーザーの要望に応えられないということが分かった。Androidベースだが、Googleさんと相談させてもらって、シニア向けのカスタマイズをすることを了承してもらった」と開発当初を振り返った。

 大谷氏はF-12Dの機能やサービスの特徴をデモを交えながら紹介。端末の特長として、ボタン感覚で押せる「らくらくタッチパネル」、見やすさや使いやすさにこだわった「新タッチUI」、使いやすさを提供する「ヒューマンセントリックエンジン Advance」の3点を取り上げた。

 タッチ操作に関して、「押した感覚がない不安」「知らない間に画面を触ってしまって誤操作すること」または「確実に押そうとして長押しの反応になる」といった、シニアユーザーが陥りやすい、タッチ操作の課題事例を紹介。それらを解決するために開発された「らくらくタッチパネル」は、ボタンのような感覚がある新構造のタッチパネルだ。“触れる”と“押す”の違いをしっかり判別でき、触れるとフォーカスを表示し、しっかり押し込んで確定するというボタンのような動作を実現する。また、高出力、高反応のアクチュエータがキレのいい振動を画面に伝え、指の圧力と反応を正確に伝えるタッチパネルを実現した。

 間違って別の指が画面に触れ、したい操作が阻害されるという課題に対しては、指のかかった状態を自動判別する「うっかりタッチサポート」で対応。従来のスマートフォンでは、間違って2本の指が当たると、正しい指の動きに反応できない。F-12Dのタッチパネルは、間違った指がかかっても「これは操作ではない」と自動判別し、タッチパネルの操作を阻害しないようになっている。

photophoto ボタンのような押し感がある「らくらくタッチパネル」(写真=左)。間違って触れてもしたい操作ができる「うっかりタッチサポート」(写真=右)

 さらに、パネルに触れるタッチ面の形を判別し、ユーザーが押したい場所を自動検知する「おまかせタッチ」も搭載。キーをタッチする際、見る角度の問題で、押したいキーと実際に押される場所が微妙にずれ、指の腹でしっかりタッチできない場合がシニアには多いと大谷氏。F-12Dのタッチパネルはタッチ座標を自動的に補正して、ユーザーが押したい場所が反応するように調整されている。

photo タッチした場所を自動補正する「おまかせタッチ」

らくらくホンのUIとスマートフォンのUIを2つ用意

 UIに関しては、「スマートフォンの操作体系に戸惑う」「狙った場所にタッチできない」「文字が小さい」「Android標準の3つのキーと画面の操作ボタンの違いがわかりにくい」というシニアの意見を紹介。それに対応するため、F-12Dでは、らくらくホンとまったく同じUIと、スマートフォンらしい2つのメニューを用意した。らくらくホンと同じUIでは、ワンタッチキーやシンプルメニューの項目も再現していることを、らくらくホンのメニューと並べて紹介。らくらくホンで覚えた操作と同じように使えることを示した。

 一方のスマートフォンらしいメニューでは、電話、メール、アドレス帳などに、見やすい大きなボタンを採用。横スクロールを組み合わせると難しいため、操作は縦スクロールのみだが、写真は通常のスマホと同様にピンチアウト/インで拡大・縮小ができること、横方向のフリックで写真の切り替えができることを紹介した。一方で、「シニアユーザーの中にはピンチアウト/インの操作が苦手な方もたくさんいらっしゃった」と大谷氏は話し、虫眼鏡のアイコンを用意してキー操作でも拡大・縮小ができること、フリックではなく矢印を押すことで写真の切り替えができるようにし、両面でサポートしているとした。

photophoto 従来のらくらくホンと同じシンプルメニューと、タッチ操作に適したスマートフォンらしいメニューの2つを用意

 文字入力もこだわり、キーボードを押した際に入力中の文字が分かるように、しっかり表示させた。テンキーにはマイクキーを配置し、音声入力にも対応させた。さらに大谷氏は、スマートフォンを使って最初にミスをするのは、電話を切ったつもりが切れていないことだと述べ、電話の切り方に戸惑っていたシニアユーザーも多かったという。F-12Dはディスプレイの下にホームキー1つ設け、電話を切る際にこのキーを押すと確認画面がでて、さらにもう1度押すことで電話が切れるようにした。

photophoto 文字入力や電話を切る操作にも配慮した

 各種センサーを活用して、さまざまな使いやすさを提供する「ヒューマンセントリックエンジン Advance」を搭載したのも特長の1つ。シニアが使っていく上で戸惑うであろう状況をこのエンジンによってサポートする。代表的な例として、シニアは操作がゆっくりなので、操作途中で画面が消灯してしまうという事例を紹介。そのために開発されたのが、端末を手に持っていることを傾きや揺れから検知し、画面が消灯しない技術だ。F-12Dを枕元に置いておくと、寝返りやいびきなどを検知し、睡眠状態を判別できる睡眠ログ機能も搭載した。

photophotophoto 「ヒューマンセントリックエンジン Advance」により、さまざまな状況を自動サポート

 F-12DはAndroid搭載のスマートフォンではあるが、Googleアカウントは利用できないようになっている。その代わり、厳選された50種類のアプリをプリインストールしている。大谷氏は、「Googleのアカウントを取って、よく分からない海外アプリなどを探すのは難しいので、非常に見やすく使いやすい、多彩なアプリを用意した。おサイフケータイや赤外線通信機能もあり、基本的な機能は全部入れたつもり。特にラジオの要望が大きかったので、テレビ(ワンセグ)だけではなくて、ラジオも標準で搭載した」と述べた。

photo 歩数計やラジオなど、シニアからの要望が高いアプリをプリインストール

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