アナログの感覚で紙とペンをデジタル化 MetaMoJi浮川社長に聞く「Note Anytime」松村太郎のiPhone生活(1/2 ページ)

» 2012年11月06日 13時00分 公開
[松村太郎,ITmedia]

 10月23日、米国カリフォルニア州、シリコンバレー最大の都市であるサンノゼで、Appleが「iPad mini」を発表した。これまで米国でも日本でも、iPadはどちらかというと男性に好まれるデバイスと言われてきたが、iPad miniは女性にも広く受け入れられそうなデザインと“軽さ”が魅力である。

Photo MetaMoJi 代表取締役社長の浮川和宣氏

 このiPad miniにぴったりとフィットしそうなアプリが、MetaMoJiの「Note Anytime」だ。“手書き”をビジネスに持ち込み、アイデア作りやその共有を加速してくれそうなこのアプリは、どのように作られ、どのような未来を描くのか。

 Appleの発表と時を同じくしてシリコンバレーに滞在していた、MetaMoji代表取締役社長、浮川和宣氏に話を聞いた。

「7notes」で解決する問題と、元々あった構想

 古くからコンピュータの日本語入力環境に取り組んできた浮川和宣氏は、日本語入力エンジンATOKで著名なジャストシステムの“次”の起業として、現在のMetaMoJiを立ち上げた。同社は手書きした文字を認識して漢字に変換できる「mazec」を武器としたノートアプリ「7notes」をiPad向けにリリースし、好評を博している。7notesとmazecは、キーボードの入力に慣れが必要なタブレット型デバイスに、より直感的な手書きを持ち込むことで、タブレットをより身近な、情報を書き込むツールに変えてくれる。

 「MetaMoJiという会社を作ったのは、iPadが登場する半年前の2009年でした。手書き入力のエンジン開発をしてきましたが、iPadを見て、まずMetaMoJiで取り組むのは、タブレットと日本語、というテーマだと考えました。ネットが発達する中で、ネットにつながる人とそうでない人の間には、情報収集、買い物など、ビジネスからライフスタイルに至るまで大きな隔たりが出てきます。タブレットはデジタルやネットの世界と我々の生活を非常に近づけてくれるデバイスだと思います。ところが、我々は依然としてキーボードという『越えられない壁』を前にしている状況です」(浮川氏)

Photo 「7notes」はiPadで利用できる手書きのノートアプリ。日本語を手書きで入力し、漢字かな交じりのテキストに変換できる「mazec」を搭載する

 これまで日本語入力システムは、世界で標準的なQWERTYキーボードで快適に日本語が入力できるような環境を作ってきた。しかし浮川氏は、そもそもキーボードが壁になっているとして、我々が小学校で習うひらがな・カタカナ、漢字の「手書き」を入力手段とするmazecと、このエンジンを搭載した7notesをiPad向けに送り出した。

 海外の人からは「どうやって漢字を覚えるのか」としばしば驚かれるが、もちろん日本人とて全ての漢字を書ける訳ではない。そういう場合でも、ひらがなで書いて、手書き文字を漢字に変換してテキスト化する仕組みは、手書き入力のハードルを一気に下げてくれる。

 そんな7notesは今後も発展していくが、ちょうど一段落するタイミングで、もう1つのアプリを世に問うことにしたと浮川氏は話す。

 「7notesでは文字入力をアピールするため、テキストエディタという機能にフォーカスしました。しかしもともとの構想では、タブレットで情報をメモする、作り出すためのツールとして、より画期的なものを考えていました。それは、完全に紙とペンを置き換え、さらに便利さを体験することができるようにするアプリ、というイメージでした」(浮川氏)

自分のアナログ体験を、デジタルに置き換える

 浮川氏の「手書き」へのこだわりは2つあった。1つは文字入力。これは7notesから搭載されているmazecで世に送り出した。2つ目はより自由なドローイングとその流通だ。文字入力によって、デジタル世界のハードルを下げるとともに、浮川氏が大切にしているアナログの感覚でデジタルを使いこなすというアイディア。このテーマに取り組んだのが新しいアプリ「Note Anytime」だ。

Photo Note Anytimeは、紙のノートの代わりに利用できる環境を目指して生まれたアプリ

 「7notesは文字入力、エディタにフォーカスしましたが、ノートに書くことが前提なので、自由自在に線を描くことはできませんでした。行をまたいだ斜めの線が引けないのです。また、iPadやAndroidなどのタブレットとアプリの流通はせっかくグローバルな世界でありながら、7notesやmazecはより日本人寄りのアプリやテクノロジーでした。これを世界に広げるにはどうするかを考え、手書き変換ではなく、手書きそのものの充実が必要だと思い至りました」(浮川氏)

 そこで、浮川氏自身がものづくりを始める際の体験に立ち戻ったという。気に入っている書きやすいペンと、A4のコピー用紙の束を持ってきて、そこに手書きでスケッチをするところからアイデアを考え始め、その紙を見せながらアイデアを共有する。これをタブレットに置き換えればいい、というシンプルな考え方から、Note Anytimeは作られている。

 「アイデアを考えて、人に伝える。こうした作業をデジタルにリプレースするにはどうすればいいか、と考えました。これまでのPCだけではなかなか実現できなかったことです。一度デジタルで描いたものはクラウドなどを活用すれば、なくしたり、探すのに時間をかけたりする手間もなくなりますし、メールですぐに人に伝えられます」(浮川氏)

 Note Anytimeは罫線だけでなく、表紙や週間の予定、1枚を9コマに分けたプレゼンテーション用などの「用紙」を選ぶことができる。今後、よりビジネスに活用できる用紙を追加しながら、さまざまな場面でビジネス文書を手書きで作成できるようにしていくという。また、会社の中での「幹部のペーパーレス化」も狙う。

 「社内でペーパーレス化を呼びかけている企業でも、上役がデジタル文書をプリントアウトしてチェックしている企業は非常に多いと聞きます。Note AnytimeはPDFを取り込んで、手書きで書き込むことができる機能がありますので、メールで受信したPDFに手を加えて、そのままメールで返す、という紙を介さない“赤入れ”(修正・校正)が可能になります」(浮川氏)

 Note Anytimeはアナログの感覚を意識することによって、これまで積極的にデジタル化を進められなかった人たちに、デジタルのメリットを提供する道を開いたアプリだ。

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