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» 2013年05月24日 22時29分 公開

石野純也のMobile Eye(5月13日〜24日):auの“厳選”夏モデルとエリア誤表記の関係/Google I/Oから垣間見えたメッセージ (2/3)

[石野純也,ITmedia]

ラインアップの絞り込みと、エリア誤表記の関係

photo 報道陣からの囲み取材に応える、KDDI 代表取締役社長 田中孝司氏

 夏商戦の4機種というラインアップは、田中氏が「はっきり言うと絞った」と述べているように、ドコモやソフトバンクと比べても非常少ない。ここには、「LTE開始時にたくさん出したが、そんな経験で1機種1機種をしっかり販売したい」(同)という反省もあるようだ。言葉は濁しているものの、ニュアンスからは、8機種同時に発売した秋冬モデルの売れ行きが大きく偏ってしまっていたことがうかがえる。また、「商戦期も、特に夏から年末にかけてはダラッとしている」(同)。夏は、冬春商戦よりも端末を訴求しにくい時期でもある。

 とは言え、KDDIは春モデルもINFOBARの1機種しか発売していない。冬モデルが徐々に在庫を切らしていく中で、全4機種とiPhoneというラインアップは、どうしても選択肢が少ないように感じられる。それ以上に、端末のバリエーションが“手堅いモデル”に集中していることが心配だ。例えば、ドコモを見ても“ツートップ”にはハイエンドの「GALAXY S4 SC-04E」を据えている一方で、もう1機種はXperia Zよりも持ちやすさを重視した4.6インチのXperia Aを選出している。ツートップ以外でも、コンパクトと高機能を両立させた「Optimus it L-05E」や「AQUOS PHONE si SH-07E」などに加え、「らくらくスマートフォン2 F-08E」といったシニア向けモデルまであり、ラインアップの幅は広い。

photo ドコモは“ツートップ”に「GALAXY S4」と「Xperia A」を指定したが、実際のラインアップは幅広い

 同様に、ソフトバンクモバイルもフラッグシップとしてAQUOS PHONE Xxや「ARROWS A 202F」がある一方で、「シンプルスマホ 204SH」や「AQUOS PHONE ss 205SH」「DIGNO R 202K」といったミッドレンジの機種も取りそろえている。スマートフォンの普及率が上がっているとはいえ、KDDIの普及率は昨年度末でまだ37%。この段階で、バリエーションを絞るのは時期尚早いうのが率直な印象だ。iPad、iPad miniはあるが、「3M戦略」の要の1つであるマルチデバイスを実現するためには、タブレットのような画面の大きな端末への取り組みも足りていない。

photo ソフトバンクもフラッグシップからミッドレンジまで、幅広い端末を用意した。「シンプルスマホ」のように、ユーザー層を広げる取り組みにも余念がない

 田中氏はラインアップの絞り込みの原因がiPhoneであることを否定していたが、最近の店頭の状況も合わせて考えると、ソフトバンク以上に売りやすい、そしてMNPでユーザーを獲得しやすい「Apple製品偏重」と受け止められても致し方ない状況だ。戦略として、日本では特に人気の高いiPhone、iPadに集中するというのも1つの選択肢だ。だが、iPhone偏重はキャリアにとってのアキレス腱もなりかねない。そして、LTEの実人口カバー率の誤表記に対して消費者庁から措置命令を受けたことも、根本的な原因の一端はここにあると見ている。

photo KDDIは総合カタログで、本来Androidのみが対応している800MHz帯・LTEの実人口カバー率を、「(iPhone 5含む)」と記載してしまった。2.1GHz帯のLTEにのみ対応するiPhoneは、Androidよりエリアが狭いのが実情だ

 その1つが、ネットワークの進化と端末の進化が、歩調を合わせられないこと。iPhone 5やiPadは、ふたを開けてみるとKDDIがLTEの基盤バンドにしようとしていた800MHz帯に対応していなかった。そこで同社はiPhone 5とiPadで唯一利用できる2.1GHz帯のLTEを、急速に整備してきた。計画的に前もって準備を進めてきた800MHz帯より、エリアが狭くなるのは当然だ。ただ、同じiPhone 5を持つソフトバンクとの競争上、人口カバー率を数値だけで比較され、数が独り歩きしたくないという思惑があった。当時、本連載で取り上げたインタビューからも、このような考えが見え隠れする。そのため、今に至るまで人口カバー率、エリアマップ、基地局数はすべて「非公開」(KDDI広報部)となっている。

photo iPhone 5導入前の会見で示されたスライド。iPhone 5が2.1GHz帯にしか対応していなかったため、計画を前倒しにする必要があった

 ところが、KDDIは2.1GHz帯の75Mbpsの実人口カバー率を96%と誤表記してしまった。もちろん、これは事実と異なる。結果として消費者庁から措置命令を受けたため、同社は条件をそろえ「75Mbpsの実人口カバー率」が14%という限定的な情報を明らかにした。ただ、96%と14%の落差はあまりに大きく、数字は独り歩きしていく。発表後の各種報道を見ても、「iPhoneのLTEは実人口カバー率が14%」と誤解を与えるものが少なくなかった印象を受ける。KDDIが今、この誤解を解くためには、2.1GHz帯の実人口カバー率を公開する以外の選択肢はないだろう。それは、競合他社よりユーザーを向いているという姿勢を示すことにもなるはずだ。

 そもそも、iPhoneが、Androidのようにキャリアのネットワークに合わせて作り込めればこうした問題は起きなかった。だが、それは現実的に不可能で、iPhone 5では2.1GHz帯のみの対応となった。また、iPhoneはAppleの端末という位置づけで、ネットワーク以外の条件は他社と横並びになる。であれば、「選べる自由」を掲げたときのように、KDDIは「iPhoneはあくまでラインアップの1つ」という位置づけを貫き、本当に75Mbpsの実人口カバー率が96%を超えているAndroidを全面に打ち出した勝負をすべきだった。

 最初から「LTEのエリア整備はこれからでも端末として魅力があるiPhone」という正直な売り方をしていれば、他社との比較を恐れ、2.1GHz帯の実人口カバー率だけを非公開にする必要もなかっただろう。iPhoneとAndroidでエリアが異なることを、同じ基準で比べた数値を出し、きちんと説明していれば誤表記のしようもなかった。主力に据えたiPhoneに注力しすぎるあまりに、ユーザーよりもソフトバンクとの競争に目が行きすぎてしまった――夏商戦の寂しいラインアップと2.1GHz帯のLTE問題は、根底でつながっているように思えてならない。

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