遊び感覚で生活習慣を改善できる――「ソフトバンクヘルスケア」の狙い(1/2 ページ)

» 2013年08月14日 07時00分 公開
[房野麻子,ITmedia]

 ソフトバンクモバイルは、米国Fitbit社の活動量計「Fitbit Flex」と専用アプリを使った健康サービス「ソフトバンクヘルスケア」の提供を7月18日に開始した。

 専用のリストバンド型デバイスFitbit Flexを手首に装着すると、歩数や距離、消費カロリー、睡眠時間が計測でき、専用クラウド上にそれらのデータを蓄積。スマートフォン向けのアプリでデータを確認できるほか、専門医への健康相談電話や未来の姿を予測するサービスなども利用できる。コミュニケーション機能も備え、歩数などの目標達成状況をSNSに公開することも可能だ。全国のソフトバンクショップやオンラインショップなどから申し込むことができ、月額料金は525円。2年間の継続利用が必要で、途中解約すると7500円の解約料が発生する。

 Fitbit Flexには、各種センサーを搭載した本体である「トラッカー」に、ブラックのリストバンドがSサイズ、Lサイズ各1個ずつ、専用のUSB充電ケーブルが同梱される。トラッカーは重さ約3.2グラムと非常に小さく軽いもので、リストバンドを含めても約15.1グラム。手首に付けていても邪魔にならない。1度のフル充電で約7日間持つ。別売りの着せ替え用カラーバンドとしてブラック、スレート、タンジェリン、ティール、ネイビーの5色を用意しており、SoftBank Selectionで購入できる。

photo 「ソフトバンクヘルスケア」で利用するFitbit Flex

 ソフトバンクヘルスケアの開始に先立ち、NTTドコモとオムロン ヘルスケアとの共同出資により設立されたドコモ・ヘルスケアが、健康管理のポータルサイト「WM(わたしムーヴ)」をスタート(関連記事)。6月1日からは婦人体温計と専用アプリを使った女性向けの健康支援サービス「カラダのキモチ」を提供しており、携帯電話キャリアもヘルスケアサービスを強化する動くが目立っている。そうした中で、ソフトバンクモバイルどんな狙いでヘルスケア事業に参入したのか。Fitbit Flexを使った独自新サービスとは? ソフトバンクモバイル プロダクト・サービス本部 プラットフォーム戦略課の舘由里子氏に話を聞いた。

ヘルスケアサービスの参入の背景

photo ソフトバンクヘルスケアの立ち上げを担当した舘由里子氏

 ソフトバンクモバイルのヘルスケア事業への参入は、数年前から検討を進めていた案件だという。ソフトバンクグループの各社がそれぞれ独自路線で取り組んできたが、2011年春からグループ一体となって参入の検討を開始した。

 「(孫)社長はずっと『医療にICTを導入して人々を幸せにする』と言っていましたし、各社も独自で検討していました。2年間かかってやっとリリースした、という気持ちです」(舘氏)

 ただ、舘氏がヘルスケアサービスを具体的に企画し始めたのは、2年前に健康を害し、入院した自身の体験がきっかけになったという。

 「入院以来、健康に気を付けるようになりました。歩くことが嫌いだったのに、通勤に少し遠い駅から歩くようにして、増えた2000歩をうれしいと思える心の変化がありました。本当に痛い思いをしたり、活動量計を使ったりして初めてうれしいと思えることですが、痛い思いをする前に、このサービスを使って健康になってくれるといいなと思いました」(舘氏)

 デバイスが小型化され、スマートフォンと簡単につながるようになったことも大きなポイントだという。Bluetoothへの対応やセンサーの小型化で、常に身に付けていられる小さなデバイスを提供できるようになった。また、これまでのヘルスケア関連サービスは、データを手動で入力しなくてはならない点がネックだと舘氏は分析しており、スマートフォンと簡単につながり、データを自動で入力できるデバイスが登場し始めたとき、サービスのスタートが見えてきた。

 「(ヘルスケアが注目される)時代と技術の進歩が、ちょうど今年(2013年)のタイミングで合ったのだと思います」(舘氏)

Fitbit社からは最初は断られた

 身に付けるタイプの活動量計は、Fitbit社のデバイス以外にも国内、海外に多くの製品がある。なぜFitbitを選んだのだろうか。

 「今年はFitbit Flexのようなリストバンド型デバイスがどんどん出てくると思いますが、私たちが検討を開始した当初、活動量計はクリップ型やアームアンド型ばかりで、リストバンド型がなかった。リストバンド型を出したのはFitbitが一番早かったんです」(舘氏)

 ブームにしたいという思いもあったので、デバイスを決める際は格好良さや見栄えにもこだわったという。スタイリッシュなFitbitデバイスは、本国アメリカで大人気だ。また、すでにグループ会社のソフトバンクBBがこれに目をつけていて勧めてくれた。ソフトバンクBBは自社のモバイルアクセサリー販売ブランド「SoftBank SELECTION」で「Fitbit One」「Fitbit Zip」を展開しているが、今回、ソフトバンクヘルスケアでFitbit Flexを採用したのは、それに続く自然な流れといえる。もちろん、決めるまでにはさまざまな活動量計を検討したという。

 「ほとんどの活動量計を試しました。すごいなと思ったのは『Body Media FIT』のアームバンド型デバイスです。たくさんのセンサーを搭載し、モードを切り替えなくても睡眠を計測することができます。機能は素晴らしいのですが、デザインとサイズの大きさがネックでした」(舘氏)

 ソフトバンクヘルスケアで利用するデバイスとしては、トータルのバランスを重視した。Fitbit Flexの本体(トラッカー)は小指の先ほどの大きさで、バンドを含めたトータル重量も約15グラムと非常に軽いデバイスだ。十分な機能とBluetooth対応に加え、デザイン性も高い。同様のデバイスで「UP by Jawbone」も人気だが、あちらはデータのやり取りの際、スマートフォンのイヤフォンジャックにデバイスを挿す必要がある。少しの手間でも「やらされている感」があるとユーザーは面倒に感じて続かないと判断し、ワイヤレスで連携できるBluetooth対応を重視した。

 ターゲット層は幅広く考えているが、日々の生活を健康的にしたいと考える30から40代の男女が中心。ガジェット好きが多い男性の方が若干多くなりそうだと予想している。Fitbit Flexはスポーティで、かつ手首に装着するため、ブレスレットを愛用する女性には少し抵抗があるかもしれない。

 「20代の健康な人は、格好いいからという理由で使っていただいてもいいんです。若者の間でブームになってくれるのはうれしいですし、40代になっても使い続け、知らないうちに1万歩を歩くような生活習慣になってくれるのが重要だと思っています」(舘氏)

 しかし、Fitbit Flexの導入は、すんなりと進んだわけではない。

 「こちらは自社でデータベースを管理することにしていましたが、Fitbit社もデータを持つことにこだわりました。ビジネスメリットがないといわれ、最初は断られましたが、Win-Winのパートナー関係になれると説得し、理解してもらいました」(舘氏)

 Fitbit社はサンフランシスコにあるため、時差の影響も大きかった。例えば、日本が土曜日でも、サンフランシスコはまだ金曜日なので対応しなくてはならない。日本が月曜日の場合、サンフランシスコはまだ日曜日で、今度はレスポンスが遅くなる。日米を行き来しての打ち合わせも何度も行われた。ビジネスはグローバル化されているとはいえ、現場はやはり大変だ。

ソフトバンク向けに専用アプリを開発

photo アプリから歩数や消費カロリーなどを確認できる

 Fitbit Flexは、iPhone、Android端末に専用のアプリをインストールし、それとデバイスを連携させて歩数や消費カロリーなどを確認する、という使い方をする。アプリはFitbit社の協力のもと、ソフトバンクヘルスケア専用のものが用意された。ほかのFitbitデバイスでは利用できず、現時点ではFitbit Flexのみが対応する。ただ、SoftBank SELECTIONで発売されたFitbit Zip、Fitbit Oneのデバイスで取ったデータの一部を、そのサーバから移行することはできる。しかし反対に、Fitbit Flexで取ったデータを一般のFitbitアプリで活用することはできない。

 アプリの初回起動時は、Bluetooth接続でデバイスとペアリング設定する。その後はアプリを開くと同時にデバイスとの同期が始まり、ホーム画面に各種データが表示される。トップ部分のブルーの数値が歩数、赤い数値は消費したカロリーを表している。その下に睡眠時間、体重を表示。体重は前日との差分が表示される。体重そのものを表示すると特に女性は恥ずかしがる人が多いので、あえて増減を表示するようにしたという。食事データを入力すると、摂取カロリーを表示する。

 歩数ボタンを押すと、その詳細を表示。1日、1週間、1か月などで歩数をグラフ化して表示する。歩数目標を自分で設定できるほか、「アスリートになりたい」「ダイエットしたい」など目的別におすすめ歩数も選べる。

 消費カロリーは年齢、性別、身長・体重など設定した個人データから計算された基礎代謝と活動量から表示。個人データが入力されなかった場合は、標準的なデータが設定される。こちらも期間別にグラフで確認できる。

photo 目標の達成度合いをランプで示してくれる

 Fitbit Flexは、手の動きから、寝付くまでの時間や目覚めた回数などを含めた睡眠時間を計測することもできる。睡眠を計測する際は睡眠モードに切り替える必要があり、モード変更は利用するモードに応じて本体を数回タップすることで行う。モードの変化は5つのLEDランプで確認できる。なお、このランプは設定した目標に対する進捗状況も表し、達成度合いをランプの数で示す。目標に近づくとバイブでも知らせてくれる。

 食事のデータは手入力でフードデータベースから検索でき、例えば「おに」と入力するとおにぎりの一覧が出てくる。食事した時間帯を設定したり、カロリーの数値を修正したりもできる。目標カロリーやトータルの摂取カロリーが確認でき、自分がどれだけ多く/少なく摂取したか認識できる。

 コミュニケーション機能の「フレンド」メニューも用意されている。友だちと一緒にやることで楽しめ、励まし合って利用を継続させるための工夫で、この手のサービスで欠かせない機能といっていいだろう。フレンドになった人の状況が分かり、歩数ランキングを表示する。フレンド登録は相手のニックネームやIDを入力して検索し、フレンドリクエストを送って承認を受ける仕組みで、誰かれかまわずフレンドになれるわけではない。また、データはTwitterやFacebookに公開できる。初期状態では歩数と消費カロリーが公開される設定になっているが、項目ごとに設定を選べる。

 便利な機能としては、目覚まし機能を備えている。アプリでアラームを設定し、同期するとデバイスに設定。繰り返し設定も可能だ。設定時刻になるとデバイスが震えて知らせてくれる。熟睡していてもバイブレーションはしっかりと感じられ、音が鳴らないので、ほかの人を起こさないところもいい。

photophoto フレンド機能(写真=左)とアラーム機能(写真=右)
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