欧州で盛り上がる「Android&独自サービス」事情Googleのサービスはいらぬ!(2/2 ページ)

» 2014年04月30日 17時38分 公開
[末岡洋子ITmedia]
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AOSPと自社サービスのファームウェアを提供するYandex

Yandex モバイル担当プロダクトマネージャーのティムール・デュセバヤフ氏

 Androidの活用という点では、“ロシアのGoogle”と呼ばれるロシアのWebサービスベンチャーのYandexも似たような試みに着手した。それが、MWC2014の直前に発表した「Yandex.Kit」だ。「Androidのフォークではない」とYandex モバイル担当プロダクトマネージャーのティムール・デュセバヤフ氏は主張する。

 とはいえ、Yandex.Kitは、AOSPにYandexがWebで提供している15種類のサービスをバンドルしたファームウェアという説明が正しい。すでにHuaweiとロシアのハードウェアメーカーExplayがYandex.kitを導入したデバイスを開発することが決定しており、MWC2014ではHuaweiの「Honor 3」をベースにした試作機を展示していた。

 YandexがAOSPをベースにファームウェアを開発する理由は、Googleとの競合にある。いまや、世界中の市場で検索といえばGoogleだが、ロシアの検索サービス最大手はYandexで、そのシェアは6割以上を誇る。Googleは2割台に留まっている。Yandexは、検索以外にも地図(Yandex.Maps)、メール(Yandex.Mail)、音楽(Yandex.Music)などのクラウドサービスを提供しており、Googleと同様に広告を主なビジネスモデルとする。

 一方、ユーザーが高機能なモバイル端末からこれらのWebサービスを利用するという傾向は、ロシアでも同じだ。さらに、ユーザーがスマートフォンに移行しつつあり、かつ、安価なAndroidデバイスが好まれているのも共通する。このような“時代の流れ”によって、モバイルデバイスにおけるYandexのシェアは5割と、デスクトップ/Webプラットフォームにおける6割より低い。

 「YandexのサービスをAndroidスマートフォンで利用するとなると、そのためにアプリストアからダウンロードしたり、ブラウザからアクセスしなければならない。しかし、Yandex.Kitを利用すれば、最初からYandexサービスがインストールされているスマートフォンを提供できる」とデュセバヤフ氏が説明するように、Yandex.Kitは、モバイルプラットフォームを持たない同社が選んだGoogle対抗策といえる。近い将来、Yandex.Kitをタブレットにも拡大する予定だ。

 このYandexによるAndroidに対する侵攻は、1年前から“静かに”始まっていた。同社はAndroidアプリを集めた「Yandex.Store」を立ち上げている。これはYandexアプリを含むAndroid対応アプリを独自に集めたストアで、Androidスマートフォンを開発するメーカーがYandex.Storeをバンドルすると、ユーザーは容易にYandexアプリを入手できる。

 立ち上げ当初こそ1万5000程度だった登録アプリの数は、現在約10万に拡大している。Yandex.Storeは「MeeGo」(NokiaがMicrosoftと提携する前に注力していたモバイルOS)の流れをくむ「Sailfish OS」を導入したスマートフォン「Jolla」で、Android互換を実現するフィンランドのJollaも採用している。また、NokiaもNokia Xで採用する方向にあるという。

 ロシア国内でこそ、Yandex.KitはYandexサービスをバンドルしたAndroidだが、それ以外のYandexの影響力がまだそれほどでない国や地域では、Yandex.Storeと、ユーザーインタフェースの「Yandex.Shell」、モバイルブラウザ「Yandex.Browser」の技術コンポーネントをアラカルトで提供している。

 これらの技術を利用してAndroidスマートフォンをカスタマイズできるというメリットともに通信事業者やデバイスメーカーに売り込むことになる。また、Yandex.Storeの場合は開発者との売上げ共有に加わることができるというメリットも訴求している。すでにトルコの通信事業者AveaがYandex.Shellを利用したデバイスを販売している。

 GoogleサービスよりもYandexサービスのニーズが高いのであれば、ロシアの通信事業者やロシアで展開するメーカーがわざわざGMSをライセンスしてGoogleサービスを搭載するメリットはない、とYandexは考えているのだ。

Yandex.Kitを導入したHuawei「Honor 3」ベースのサンプルデバイス。設定やギャラリー、電卓などはAndroidアプリを利用できるが、独自開発のユーザーインタフェース「Yandex.Shell」や(写真=左)マップ、メール、そして、アプリストアでは独自に用意したサービスを利用する(写真=右)

GMS準拠より高いAOSPの成長率に警戒するGoogle

AOSPをベースにAndroidをフォークして導入する動きが活発になっている。Tizenに注力するサムスン電子もAOSPベースで“独自のサービス”を組み込んだAndroidデバイスを投入するだろうか

 このようにAOSPだけを利用するという動きは増えている。調査会社ABI Researchによると、2013年第4四半期におけるAndroid(GMS準拠)とAOSPを合わせたAndroidのシェア(スマートフォンのみ、タブレットは含まず)は77%、このうち52%がGMS準拠で、AOSPは25%と報告している。成長率はGMS準拠のAndroidが前年同期比29%増であるのに対し、AOSPは前年同期から137%も増加している。その多くはGoogleサービスの利用を禁止している中国、それにインドなどが中心という。

 今後このような動きが増えるのだろうか? Androidデバイスを投入している“有力メーカー”の幹部にMWC2014で聞いたところ、「NokiaによるAndroidフォークは理解できる」としながらも、「Googleサービスが利用できることはスマートフォンユーザーにとって大きな魅力になっている。それゆえに(幹部が所属するメーカーでは、Androidを)フォークするつもりはない」と述べた。

 Jolla(同社のスマートフォンはAndroidアプリと互換性がある)を共同創業し、現在CTOとして開発を率いるステファノ・モスコニー氏に、新しいOS(Sailfish OS)を開発するのではなく、Androidをフォークするという選択肢はなかったのかと聞いたところ、「まったく新しいものを作りたかった。だが、Androidアプリが動くという特徴は実現したかった」と答えている。

 現在、Androidフォークという観点で、その動向に注目したいのがサムスン電子だ。元証券アナリストでRadio Free Mobileのリチャード・ウィンドソー氏は、サムスン電子とGoogleがかつての協業ではなく対抗という関係に移行しており、「Samsungは(Tizen OSをプッシュするより)Androidのフォークを選ぶのではないか」と2013年秋に予想している。

 ABI Researchアナリストのニック・スペンサー氏は「Googleのサービスを含まないAOSPが成長することは、Androidの所有者であるGoogleにとっては大きな問題だ。GoogleがAndroidエコシステムから収益を得るというモデルに影響を与えることになるからだ」とコメントしている。

 GMS準拠のAndroidを上回るAOSPの成長を受けてだろうか、GoogleがAOSPで公開する機能を縮小しているという指摘もある。一方で、GMCをセットで用意することで、フォークは難しい仕組みが最初からできていると見ることもできる。Googleがこの状況にいつか手を打つのか、それとも、Googleサービスの魅力が独自サービスに勝るのか。

 Androidをめぐる“微妙なパワーゲーム”は、今後のスマートフォン市場動向に“微妙でない”影響を与えることになるだろう。

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