モバイル通信と共存共栄を図るWi-Fiの過去・現在・未来と課題ワイヤレスジャパン 2014

» 2014年06月05日 10時39分 公開
[房野麻子,ITmedia]

 NTTブロードバンドプラットフォーム(NTTBP)の 代表取締役社長で、無線LANビジネス推進連絡会の会長でもある小林忠男氏は、「ワイヤレスジャパン2014」で「Wi-Fiの役割とこれからのワイヤレスブロードバンドについて」と題する基調講演を行った。Wi-Fiの役割の移り変わりや、技術革新によるデバイスの進化、Wi-Fiの広がりがもたらすビジネスチャンスなどについて語った。

photo NTTブロードバンドプラットフォーム 代表取締役社長 小林忠男氏

高速通信から「Wi-Fiクラウド」へ

 小林氏はWi-Fiの変遷について振り返る。同氏がNTTBPの社長になった2002年当時、無線LANに接続するにはPCに無線LANカードを挿す必要があった。現在のように、端末内にWi-Fiが搭載されていなかったからだ。NTTBPが無線LANサービスを開始した当初の基地局(アクセスポイント)は約30カ所。月額利用料が1500円程度だったという。

 その後、インテルのCentrinoチップがPCに搭載されるようになり、ニンテンドーDSやPSPがWi-Fiを搭載したことで、Wi-Fiが一気に浸透する。また、小林氏が転換点だと振り返ったのが、iPod touchがWi-Fiに対応し、iTunes Storeに端末単体でアクセスできるようになったことだ。2008年には3GとWi-Fiを搭載したマルチモード端末「iPhone 3G」が登場し、高速なWi-Fiと3Gとでシームレスに通信できるようになった。小林氏はこのとき「大きなパラダイムシフトが起こり、Wi-Fiはうまくいくという確信を得た」という。

 2000年台後半になると、iPhoneの後継機やさまざまなAndroidスマートフォンが販売される。Wi-Fiは、それらの端末のモバイル通信でネットワークが混雑するのを防ぐためのオフロード先として重視され、アクセスラインとして一人立ちする。そして現在、NTTBPが提供するWi-Fi基地局は約15万カ所。駅や空港など人が多く集まる場所を広くカバーしている。バックホールは主に光ケーブルで接続され、1つの基地局をマルチSSIDで複数のキャリアで共有することで電波干渉を回避し、安定した高品質なWi-Fi環境を提供できているという。

 Wi-Fiを使ったビジネス「Wi-Fiクラウド」も確立されている。地下鉄やコンビニ、スタジアム、空港などが集客のためにWi-Fi環境を用意しているが、NTTBPは1つ1つの基地局に対し、コンテンツ自動配信などの仕組みをクラウドサービスとして提供することで、クラウド利用料や基地局利用料をもらう。こうしたサービスが大きなビジネスに成長しつつあるという。

photophoto Wi-Fiビジネスの変遷。インテルのCentrino搭載やニンテンドーDS、iPod touch、iPhoneやAndroid端末の登場などがWi-Fiビジネスの転換点になっている(写真=左)。NTTBPのWi-Fiビジネスの進化。現在はWi-Fiとコンテンツ配信などのクラウドサービスを組み合わせた「Wi-Fiクラウド」が大きなビジネスに成長している(写真=右)

競争から共存共栄へ

 技術革新やデバイスの進化による変化も大きかったと小林氏は振り返る。「私が無線通信に関わった40年間に劇的な技術革新があった。固定無線にしか使えないと教えられた2GHz、4GHzといった高い周波数が今はモバイルに使われている。今でいう“プラチナバンド”も当時はモバイルでは高い周波数帯だった」

 それが、無線技術の劇的な進化やCPUの向上で、次の第5世代では3GHz以上の周波数が使われる予定だ。携帯電話も電話しかできなかったものが、スマートフォンになって多彩な機能が搭載されるようになり、端末も大きく進化した。

 「携帯電話やPHSがあった時代は、それぞれのシステムが個別に存在して競争していた。それが現在はスマートフォンになってマルチモード、マルチバンド化し、Wi-Fi、3G、LTEは相互補完の状態になった。オフロードも行われるようになり、勝った負けたの世界ではなくなった」

 そして、現在は共存共栄の時代だと小林氏はいう。ネットワークに接続する機器が増え、通信方式も多様化した。「それぞれのワイヤレスシステムサービスが共存共栄で大きくなり、たくさんの人に使ってもらうことが一番いい形。ワイヤレスはビジネス拡大の元になる」

photo 無線方式と端末が多様化。従来、システム同士で競争していたのが、スマートフォンの誕生によって各システムは相互補完の関係に。現在は多種多様な接続形態、端末から最適な接続方式が採用される共存共栄の時代になっていると分析する

Wi-Fiは何ができるか

 ワイヤレス通信の中で、Wi-Fiは、高速通信、デファクトスタンダードなので世界中のどこに行ってもつながること、周波数の帯域が広いなどの特徴があるが、最も大きな特徴は誰でも使える“アンライセンス”なことだと小林氏はいう。アンライセンスなので、総務省に許可をもらわなくても、誰でも端末やデバイスにWi-Fiのチップを入れて、ネットワークに高速に接続できる。多様なプレーヤーが端末やデバイスに自由にWi-Fiを搭載し、いろんなビジネスを簡単に始められる。こうした自由さはライセンスの必要な無線とは大きく違うところだ。

 「インターネット的な特色があって、自己増殖してネットワークになる。独立して存在していたものが増えて横につながると、国や世界規模のとんでもないWi-Fiネットワークができる可能性を持っている。Wi-Fiクラウドのようにマネタイズも実現できている」

 小林氏は、将来、すべてがワイヤレスでネットワークにつながる時代になったときのあるべき姿も語った。すべてがワイヤレスでつながるということは、ライフラインになることだ。安心・安全にネットワークに接続でき、情報のやり取りができなくてはならない。また、ワイヤレスになるとビジネスも変化すると小林氏は語る。多様な端末やデバイス、インフラ、コンテンツによって、新しいビジネスチャンスが生まれると予想する。

photophoto アンライセンスなWi-Fiだから、多彩なプレイヤーがビジネスを創出できる(写真=左)。すべてがワイヤレスでネットにつながる時代になると、ワイヤレスネットワークははライフラインになり、新しいビジネスが生まれる可能性がある(写真=右)

 しかしそのためには周波数が必要だ。Wi-Fiで使える周波数を増やし、1つの基地局が伝送できるスピードも上げなくてはならない。小林氏は米国における5GHz帯割り当て拡大の動きを紹介し、日本でも同様に検討を進めてほしいと語った。また、周波数を束ねて高速化するキャリアアグリゲーションを紹介しつつも、「周波数は有限なので、使える周波数をどれだけ作るかが非常に重要。モバイルやワイヤレスで使う周波数を生み出すためにも“電波の棚卸し”をしなくてはいけない」と述べた。

 一方、Wi-Fiはアンライセンスなので、1つの場所に誰でも基地局を置こうと思えば置ける。そうすると、問題になるのが電波干渉だ。小林氏は「共有基地局のようなものを、公共の場所や人が大勢集まる場所に広げていかなくてはならない。ハードだけでなく、ソフト的にも干渉回避のための制御が必要だ」とも語った。

photophotophoto 米国ではWi-Fiで使用する5GHz帯を拡大することを検討(写真=左)。Wi-Fi基地局の増加による干渉はソフトによるネットワーク制御が必要になる(写真=中)。キャリアアグリゲーションによる速度の高速化も検討している(写真=右)

2020年の東京オリンピックに向けて

 2020年の東京オリンピックに向けての対策についても紹介した。オリンピックに向けては交番や信号機、学校など公共的に管理されている場所に対してWi-Fiの設置許可を得ていく予定だという。

 また、通常、さまざまなキャリアがWi-Fiの基地局を用意しているので、ユーザーはエリアが変わるごとに認証手続きが必要となる。そんな不便を解消し、複数エリアで簡単にWi-Fiを使えるようにするアプリとして、小林氏は「Japan Connected-free Wi-Fi」を紹介した。これは2013年11月からNTTBPが提供しているアプリで、現在、1万8000基地局で利用可能。iOS、Android端末に対応し、アプリをダウンロードして一度登録手続きをすると、対応しているスポットではアプリを起動するだけで接続できる。オリンピック時に海外からの観戦・観光客が手軽に利用できるサービスとしてアピールした。

 また、小林氏が会長を務める「無線LANビジネス推進連絡会」についても紹介した。この組織は2013年1月に設立され、現在、93の企業や団体が加盟。無線LANの認知活動や普及促進、業界の問題について横断的な解決に努めている。5月27日には、大規模災害時に無線LANを無料開放する統一SSID「00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)」を発表している。

photophoto 多くの外国人が来日することが予想されるオリンピックに向けてWi-Fi環境を整備し、簡単にそれらを利用できるアプリ「Japan Connected-free Wi-Fi」も用意。もちろん日本人も利用できる(写真=左)。小林氏が会長を務める「無線LANビジネス推進連絡会」についても紹介された(写真=右)

 将来の課題と対策を紹介しながら小林氏は、「LTEと違った特徴を持ったWi-Fiを、生活に不可欠なメディアとして大きくし、もっと使いやすくしていきたい」と意気込みを語った。

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