従来SIMから何が変わるのか? 「eSIM」の正体を知る(2/3 ページ)

» 2017年06月05日 15時27分 公開

M2M、IoT分野での主なユースケース

 一般のコンシューマー向けデバイスとM2MなどのIoTデバイスでは、eSIM契約に対するニーズが真逆となっている。前述のように、一般ユーザーがeSIMを必要とするケースはOn The Goによる逐次契約や海外旅行などエリア移動が発生した場合が中心なのに対し、M2Mでは製品出荷に際しての初期化やデバイスの長期運用の中での契約情報の変更などでeSIMの書き換えが発生する。

 前者は「プル型」、後者は「プッシュ型」と呼ばれ、利用者サイドとセンター側のどちらがトリガーとなるかの違いだ。つまり後者のM2M向けのeSIMでは、多数存在するデバイス群を一括管理するためのソリューションが重要となる。以下にユースケースの一部を紹介する。

eSIM ケースその1。車の出荷後に現地MNO事情に合わせて異なるプロファイルを書き込む
eSIM ケースその2。IoTとして稼働するデバイスのライフサイクルは、一般的なコンシューマーデバイスに比べると長く、ビジネス条件などによって稼働期間中に契約情報の変更が必要になる場合がある
eSIM ケースその3。欧州などの陸で国境を接する国の場合、車での国境移動も頻繁に発生する。こうした場合に適時現地のMNOへと切り替える
eSIM ケースその4。ユーザーリクエストによって適時目的のMNOとの契約を行う。主にタブレットやウェアラブルなどのデバイスでの利用を想定したもの

 現在のところ、eSIMを主軸としたM2M向けのソリューションとしては自動車業界での採用が多いようだ。筆者が最初に取材した事例はロシアの「ERAGLONASS」というeCallシステムで、例えば自動車が故障や衝突などの事態に遭遇した場合、位置情報を取得してこれを携帯ネットワークを通じて通知するというものだ。eCallそのものは欧州でも2018年までに新規販売の自動車への搭載が義務付けられている標準技術で、ERAGLONASSはロシア版GPSであるGLONASSを利用したeCallというわけだ。

 このほか、T-Mobileの事例では米国とカナダを往復するトラックのテレマティクスやインフォテインメントシステムにeSIMを提供し、ローミングで発生するコストを低減させる仕組みなどがすでに稼働している。

eSIM ロシアのERAGLONASSでのeSIM採用例
eSIM T-Mobileによるローミング用途向けeSIMソリューションの例

 このようにeSIM市場が急速に立ち上がりつつある印象があるが、理由の1つにGSMAによる標準化が進んだことが挙げられる。eSIMの標準化が進んだことでデバイスでの採用例が増え、今後これを利用したサービスが多数登場することが見込まれるからだ。さらに、通信キャリアやチップベンダー、端末メーカーは、GSMAが発表したeSIMの仕様を採用することを表明しており、今後もこの流れは続くとみられる。

 IoTではセキュリティに対するニーズも高まっており、これを実現するためにeSIMを活用するケースもあるようだ。例えばスマートメーターでのデバイス間での通信にeSIMを採用することで、eSIM内の暗号鍵を使ったエンド・ツー・エンドでの通信の暗号化が保証される。特にソフトウェアアップデートの仕組みを利用して侵入を試みるケースも報告されており、通信の安全性を確保するのはIoTにおいて非常に重要なことと認識されている。

eSIM GSMAのeSIMのリモートプロビジョニングに関する標準化動向
eSIM GSMAの標準化を見越して決済端末のeSIM搭載による常時接続対応と管理ソリューションの必要性を訴える仏Ingenico。従来までは有線やWi-Fi接続を用いていた
eSIM 独BSIでのスマートメーターでのeSIM活用事例
eSIM eSIMの暗号鍵により、エンド・ツー・エンドでの通信の暗号化が保証される

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