最後に、日本のMVNOがeSIMを導入する際にどのようなシナリオがあり得るか、考えてみたいと思います。
考えられるシナリオの1つ目は、大手キャリアが提供するeSIMプラットフォームをMVNOでも利用できるようにすることです。
例えばNTTドコモでは、2014年6月にM2M(組み込み用)のeSIMの提供を、2017年2月にコンシューマー機器向けのeSIMプラットフォームの提供を開始したことを発表しています。
現在、これらのeSIMプラットフォームはMVNO向けには公開されていません。しかし、MVNOにも開放された場合には、MVNOも大手キャリアのプラットフォームを利用してeSIMを提供できるようになるかもしれません。
その場合、利用可能なチップ型SIMの種類はキャリアが決めることになります。また、RSPを使ってSIMのデータを書き換えることで使えるネットワークは「キャリア自身」と「キャリアが指定する事業者」のみになると考えられます。MVNOにとっては導入のハードルが低いというメリットはありますが、キャリアが開放する範囲を超えたサービスは提供できないという制限があります。
もう1つのシナリオは、MVNOが独自にeSIMプラットフォームを持つか、MVNOと他の携帯電話事業者が共同でeSIMプラットフォームを持つというシナリオです。
このシナリオではMVNOは独自に調達したチップ型SIMを提供できる上、利用可能なネットワークもMVNOがアレンジできます。MVNOが主導権を持ってeSIMに取り組むためには、このシナリオが適しているといえます。
ただし、このシナリオを実現するためには、RSPの信号を送る設備だけではなく、契約者の管理を行う「HLR/HSS」と呼ばれる装置にも対応が必要です。
SIMのプロビジョニングでは、SIMに各種情報を書き込むと同時に、対応する情報をHLR/HSSにも登録する必要があります。また、RSPにおいても同様に、対応する情報をHLR/HSSにも登録しなければなりません。
現在、日本のMVNOはHLR/HSSを大手キャリアに依存する「ライトMVNO」という形態を取っており、MVNOが独自にHLR/HSSに情報を登録することはできません。MVNOがHLR/HSSを保有する「フルMVNO」は、この制約を回避するための1つの方法になるでしょう。
堂前清隆
株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) 広報部 技術広報担当課長
「IIJmioの中の人」の1人として、IIJ公式技術ブログ「てくろぐ」の執筆や、イベント「IIJmio meeting」を開催しています。エンジニアとしてコンテナ型データセンターの開発やケータイサイトのシステム運用、スマホの挙動調査まで、インターネットのさまざまなことを手掛けてきました。
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