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» 2017年10月03日 13時15分 公開

MVNOの深イイ話:MVNOの「接続料」はどうやって決まる? (2/2)

[佐々木太志,ITmedia]
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「適正な利潤」とは

 「適正な原価」は、その価格でMNOがMVNOに設備を貸し出すと、MNOが赤字になることはないにせよ黒字にもならない金額であると考えられます。MNOも民間の営利企業ですので、黒字化しない事業を行うことは、株主を含めステークホルダーの理解が得られることではありませんし、MNOのMVNOへの設備貸し出しインセンティブを失わせます。

 ですが、MNOがMVNOに設備を貸し出す際に不当に高い利益を載せることは、実質的にMVNOの締め出しにもつながりかねず、MVNOによる競争の導出を損ねることになります。そのため、相互接続のスキームでは、「適正な利潤」に限り上乗せすることを大手MNOに認めています

 「適正な利潤」は、総務省令(第二種指定電気通信設備接続料規則)により、「他人資本費用」「自己資本費用」と利益対応税の合計と決められています。

 他人資本費用とは、MVNOに提供されるMNOの資産のうち、他者からの借り入れで調達した部分の簿価に借り入れの利息率を掛けたものとなります。これはMNOが他者から借り入れて作った設備をMVNOに提供する場合は、MVNOはその借り入れの利息の相当額を利潤としてよいということです。

 自己資本費用とは、同じくMVNOに提供されるMNOの資産のうち、自らの資本で調達した部分の簿価に自己資本利益率を掛けたものとなります。これはMNOが自らの純資産で買ったり作ったりした設備をMVNOに提供する場合は、そのお金をMVNOのために使わず、自らの移動電気通信事業に投資したときに期待される運用益を利潤としてよい、ということです。

接続料 ※総務省の有識者会議における配付資料(※PDF)からの抜粋

 ただ、この「自らの移動電気通信事業に投資したときに期待される運用益」というのがくせ者で、これまで共通的な定義がなく、疑心暗鬼の種となっていました。2016年に開催された総務省の有識者会議(モバイル接続料の自己資本利益率の算定に関するワーキングチーム)では、これまで統一された定義のなかった自己資本利益率を、日本のMNOの中でも移動電気通信事業の占めるウェイトの比較的高いNTTドコモの過去3年間の株価推移をベースに、各社の財務リスク等の状況を反映した数字とする、と決め、省令へ反映されました。

算定サイクルと遡及(そきゅう)精算

 MNOの接続料は、現在は年1回の算定とすることが定められています。これは、「適正な原価」が年1回作成される接続会計から計算されているからで、おおむね毎年3月頃に新しい接続料が含まれる接続約款が各社から総務大臣に提出され、公表されています。

 この接続料は、その3月に年度末を迎える当該年度の、前の年の接続会計を元に計算されています。つまり、2018年3月に発表される接続約款に含まれるデータ通信の接続料は、2016年度の接続会計を元に算出されているということになります。

 これでは、MVNOは2年前のMNOの原価で競争するということにもなりかねません。MNOの1Mbpsあたりの原価は長期的に低下していますから、そのままではMVNOにとり不利ということになります。

 そのため、MNOによる接続約款の届け出が行われると、その金額が1年前にさかのぼって適用され、実際に支払った接続料と(より安くなった)約款上の接続料の差額を精算する仕組みが運用されています(遡及精算)

 先に説明した通り、現在のデータ通信の接続料は長期的に低下していますから、遡及精算はMVNOがMNOから返金を受ける形で行われることになります(今後、接続料が上昇したときは、MVNOがMNOに追加で払うこともあり得ます)。

卸電気通信役務契約の料金は?

 これまで、相互接続のスキームにおけるデータ通信の接続料について、算定の方法を説明してきました。もう1つのMNOとMVNO間の契約スキームである卸電気通信役務では、接続料のような制度はなく、より自由にMNOとMVNO間の料金を決めていいことになっています。

 ただ、実際には、各MNOが公表している卸電気通信役務の卸標準プランでは、そのデータ通信に関わる料金と、各MNOが公表している相互接続約款の接続料は、全く同じとなっています

接続料 ※KDDI社の卸標準プランより、データ通信料金のページ(※PDF)を抜粋。音声通話やSMSの料金は別に決められている

 なぜ同じ金額なのでしょうか? 仮に、卸電気通信役務の方が料金が高ければ、全てのMVNOは相互接続スキームを選ぶだけとなり卸電気通信役務の価格設定は無意味になってしまいます。また卸電気通信役務の方が料金が安ければ、「適正な原価」「適正な利潤」をMVNOからもらえていないということになり、適正な対価を改修できず赤字になってしまうことに原因があると考えられます。

 卸電気通信役務は、より自由なMNOとMVNOのビジネスを指向する制度と考えられますが、実態としてそのデータ通信料金が、より規制の厳しい相互接続の制度に引きずられてしまっていることは、MVNOの多様性の観点からはやや疑問の残るところではあります。相互接続制度によりMVNOが参入しやすい土壌が作られたことは紛れもない事実ですが、今後、より多様なMVNOが日本に登場していくためには、卸電気通信役務の一層の活用も求められていくものと思っています。

著者プロフィール

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佐々木 太志

株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) ネットワーク本部 技術企画室 担当課長

2000年IIJ入社、以来ネットワークサービスの運用、開発、企画に従事。特に2007年にIIJのMVNO事業の立ち上げに参加し、以来法人向け、個人向けMVNOサービスを主に担当する。またIIJmioの公式Twitterアカウント@iijmioの中の人でもある。


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