MVNOはなぜドコモ系が多いのか? MNOはMVNOに“いじわる”できる? 総務省が解説IIJmio meeting 15(1/2 ページ)

» 2017年04月26日 21時03分 公開
[房野麻子ITmedia]
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総務省の立場からMVNOに関する疑問に答える

 普段、携帯電話を使っているときに意識することはないが、日本の情報通信に関わる制度を取り仕切っているのは総務省だ。例えば、2016年3月に総務省が策定した「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」では、過剰なキャッシュバックや「実質0円」の端末販売が禁止された。また、1月に発表された新ガイドラインでは、SIMロック解除期間が大幅に短縮されている。

 4月15日に開催された「IIJmio meeting 15」では、総務省総合通信基盤局 電気通信事業部料金サービス課の内藤新一氏が登壇。MVNOに対しても大きな影響を与えている、総務省の情報通信に関する取り組みについて説明した。

IIJmio meeting 総務省総合通信基盤局 電気通信事業部料金サービス課 内藤新一氏

 総務省によると、2016年12月末時点でMVNOのシェアは1割弱。しかし、利用者アンケートでは、約16%がMVNOをメイン端末として使用している。これは6人に1人がMVNOを利用していることになり、2016年に同様の調査をしたときから8ポイント近く上昇している。Web上でのモニターアンケートだったので、多少上ブレしている可能性は否めないが、コンシューマー市場でMVNOが伸びていることは明らかだ。

IIJmio meeting MVNOの契約数は右肩上がり

 安価な料金に魅力を感じてMVNOを利用しているユーザーは、なぜMVNOは料金が安いのか、安いと通信品質も悪いのか、といった素朴な疑問を持つに違いない。また、MVNOについて調べてみると、なぜドコモのネットワークを利用するMVNOが圧倒的に多いのか、ドコモ系MVNOではキャリア端末をそのまま使えるのに、au系MVNOを利用するとSIMロック解除が必要になるのはどうしてなのか、といった疑問もわいてくる。内藤氏は、これらの疑問について、総務省が果たしている役割を明らかにしながら解説した。

IIJmio meeting MVNOについての4つの疑問に対し、総務省の立場を踏まえて解説した

MNOはネットワークの貸し出しを拒否できない?

 MVNOの料金が安い理由は、MNO(キャリア)のように大規模な設備投資が不要だから、広告やショップを減らしてコストを抑えているからなど、さまざまな要素はあるが、内藤氏が示したのは市場の構造。現在の携帯電話市場は、ドコモ、au、ソフトバンクの大手3グループとMVNOに大きく分かれる。MVNOは既に600社以上が参入し、新たなユーザー獲得のための競争がし烈だ。MVNOの料金は、競争することで安くなっている傾向があると内藤氏は指摘する。

 MNOとMVNOは、同じ携帯電話のサービスを提供しているので、いわば商売敵だ。しかも、最近はMVNOを選ぶユーザーが増え、MVNO利用者の増加率の方がMNOよりも高い状況。MNOにとってMVNOは無視できない競争相手になってきている。

 こういう状況になると、一般的なビジネスの場合は、MNOがMVNOにネットワークの貸し出しを止めたり、貸す料金を値上げしたりして、自分たちとすみ分けができるようにするものだ。しかし、MNOはそうすることなく、現在の状況を許している。なぜだろうか。

IIJmio meeting MNOは自社のネットワークをMVNOに貸し出す

 ここに総務省の役割がある。総務省が所管する電気通信事業法の中には、通信事業者の基本的な義務の1つとして、ネットワークを他の通信事業者に貸す義務が決められている(第32条)。この法律があるため、MNOを含む通信事業者は、ネットワークを借りたいというMVNOを含む他の通信事業者からの要求を、特に理由がない限りは、断ることができないのだ。

IIJmio meeting 電気通信事業法により、MNOを含む通信事業者は、MVNOにネットワークを利用させる義務がある

 シェアの大きいMNOには、データ接続など一定のネットワーク機能を提供する義務があり、さらにネットワークの料金については、原価と利潤を合わせた水準以下で提供する義務がある。このため、一方的に値上げすることができない。

 法律によって、MVNOはMNOのネットワークをリーズナブルに借りられる。それによって新しいMVNOが参入しやすくなり、その結果が現在のMVNO600社以上につながっているのだ。

MVNOの通信品質は大手と同じ?

 料金が安いMVNOの通信品質が悪いのだろうか。音声通話については、080/090から始まる番号からかける場合は、MNOのネットワークをそのまま変えずに使っているので、原則的に品質に違いはない。ただ、MVNOの中には「00XY」というプレフィックス番号を付けて発信し、他の通信事業者のネットワークを経由する場合がある。また、050から始まる番号の場合はIP電話の技術を使っていて、この場合はインターネットを経由するため、音質に違いが出てくる。これらの音声通話については、アプリが提供されることが多い。

 データ通信は、MNOのネットワークにMVNOの設備を経由させて、インターネットにつなぐ形になっている。このとき、MNOとMVNOをつなぐ接続点(写真では赤い二重丸の部分)をどれだけの容量にするかによって、通信速度が変わってくる可能性がある。

IIJmio meeting データ通信速度は、MNOとMVNOをつなぐ接続点(写真の赤い二重丸の部分)をどれだけの容量にするかによって、通信速度が変わる

 MVNOを使っていると、通勤時やランチタイム時に通信速度が落ちることがある。多くの人が一斉に通信するせいでもあるが、トラフィックの量が接続点の容量を超えてしまうことでも遅くなる。接続点の容量を多くすれば速度は改善するが、容量を多くするほどMVNOはMNOに多くの借り賃を支払わなくてはならない。MVNOはサービス面や経営面のバランスを考えて、この容量を決めており、このことがMVNOごとに通信スピードが異なる大きな理由の1つになっている。

 ところで、MNOはネットワークに手を加えずMVNOに貸すことが前提になっているが、競争の中で「MVNOにいじわるをする」可能性も想定できなくはない。こうしたことを防ぐため、電気通信事業法では、MNOがMVNOに対し、自らの利用者に比べて不利な条件とした場合には約款変更命令を出せることになっている(第34条)。また、利用者を合理的な理由なく差別することは不当な差別的取り扱いとなり、業務改善命令の対象となる(第29条)。

 こうした法律があることで、MNOがMVNO向けの通信を遅くするようなことがなく、MVNOが対等に競争できる環境になっているのだ。

IIJmio meeting 万が一、MNOがMVNOに“いじわるをする”と、約款変更命令や業務改善命令の対象となる

 なお、MNOのネットワークのスピードに関しては、総務省がガイドラインを作って計測方法を定めており、計測ソフトも決められたものが使われている。最近はMVNOの通信スピードもユーザーの関心の対象になっているので、どのように計測するべきかを総務省としても検討するということだ。

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