このビジョンの元で生まれたのが、Xperia 1であり、IFAで発表されたXperia 5になる。これまでは「いろいろな商品を幅広くやってきたが、やろうとしている戦略が、業界最大手と何ら変わらなかった」という反省を踏まえ、商品のターゲットを狭く、かつ深いところに定めた。
「最大手と同じ戦略は一度脱ぎ捨て、ソニーにしかできないものは何なのかを突き詰めました。こうして搭載されたのが、(Xperia 1)の瞳AFや、21:9のOLEDディスプレイです。世界初と呼ばれるものを、ソニーのアセット(資産)を使って実現しました。最初に(社長として)来たときは、(これまでのXperiaを見て)何でこんなに分厚くなってしまったのかと思いました。本当に欲しいものを作り切れていないというところから、われわれの変化は始まっています」
一方で、岸田氏は「ただ、自分が好きなものだけを作っていたのでは、一時期のダメなときのソニーと同じ」と手厳しい。「お客さまが極めているものに寄り添い、本当にいいと思っているものを出す」ことが肝心だと考え、プロ機材の『CineAlta』に近いUIを備えた「Cinema Pro」アプリや、ディスプレイのシネマライクな絵作りが導入された。
標準、超広角、望遠のトリプルカメラも、他社とは異なり、あえて画素数を1200万画素に統一した。ここにも“プロの目線”が取り入れられている。「レンズが変わると、画素数が変わってしまうのが許せないということで、悩みぬいたところ。一眼レフのように、レンズを変えても解像度は同じという世界観を作った」という。
一般のスマートフォンユーザーに、そこまでの機能が必要なのかという疑問もあるが、ユーザーには、いわゆるクリエイターも含まれる。突き抜けた機能を載せ、プロに近い層の評価を高めていくことは、フラグシップモデルより下のレンジで裾野を広げる上でも重要になる。“プロが認めた品質”を打ち出すことができれば、ブランド力の向上につながるからだ。ただ、ここまでの機能は、数を追うとなかなか採用しづらい。最大手にはできない、数を絞ったからこそ取れるソニーモバイルならではの戦略といえる。
こうした戦略は、親会社のソニーも含めて徹底された。
「昨年(2018年)のIFAで『Xperia XZ3』を発表したときは、ブースにXZ3がポツンとあり、テレビはテレビ、オーディオはオーディオでした。ところが今年(2019年)は、ソニーブースの至る所にXperiaがあり、Xperiaだらけです(笑)。『α』の隣にXperia、ハイレゾウォークマンの隣にXperia、ブラビアやプロ用モニターの横にもXperiaがあります。Xperiaなしのソニーは考えられないぐらいの世界観を、打ち出し始めることができました」
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