この機会に、Windows 10の標準機能となったWindows MRを対応HMDでじっくりと試してみて、改めての感想は「体験は素晴らしい。導入のハードルはだいぶ下がったが、まだまだ一般向けの浸透は難しい」というものだ。
実売価格はUX550GDが20万円前後、Dell Visorが5万円前後ということで、Windows MR以前に高性能なGPU搭載のPCとVR HMDを組み合わせて実現していた何十万円以上の世界から導入しやすくなったことは確かだ。必要最小限のスペックとしては、UX550GDより安価にWindows MRを楽しめるハードウェアもあるため、Windows 10の標準機能となったことは大きい。
機材さえそろえば最初のセットアップは簡単で、恐らくほとんどのユーザーが問題なくCliff Houseまでたどり着き、機能を楽しめるようになるだろう。ただし、これらは“以前と比べれば”の話で、まだまだ一般化するにはハードルが高いとも感じている。
Windows MRのセットアップ作業は数十分程度で済むのだが、そこからSteamVR、Google Earth VRなどお目当てのアプリと順番にインストールしていくと、当然コンテンツを楽しむまでに必要な作業時間は長くなっていく。
また、仮想空間の起動を簡易化するためか、コンテンツを選択するごとにダウンロードやセットアップが始まり、なかなか目的のコンテンツが映し出されないといったことも多い。仮想空間で少し変わった行動をとるとすぐにダウンロードの待ち時間が発生する印象で、窮屈で蒸れやすいHMDをかぶったまま待つのは苦痛だ。肝心の対応コンテンツもまだまだ不足気味で、VR対応をうたっていても体験の質が低いと感じるものも少なくない。
そうこうしている間に、PCやゲーム機いらずで動作するスタンドアロン型のVR HMD「Oculus Go」が2万円台で発売され、プレイステーション 4(PS4)用のVR HMD「PlayStation VR」は3万4980円(税別)に値下がりするなど、Windows MRの世界の外ではより低価格で手軽に楽しめるVR HMDが続々と出てきている状況だ。もちろん、スマートフォンにかぶせるタイプの簡易的なHMDならば、既に1000円程度の段ボール製ヘッドセットだってある。
気になるのは、Microsoftが今後Windows MRの普及にどれだけ注力するのか、という点だ。2017年秋のWindows MR対応HMDリリース時ほど、一般ユーザー向けにこれをプッシュする様子がうかがえないことは引っ掛かる。Windows MR対応HMDを一般ユーザーに普及させていくには、ハードウェアの進化、コンテンツの増強、そして値下げを平行して進めていく必要があるが、Microsoftの今後の計画は不透明だ。
もちろん、MicrosoftはWindows MRに注力し続けてはいるのだが、一般ユーザー向けのさらなる展開より、特定産業向けやビジネス用途など、AR寄りのHoloLensを組み合わせてB2B分野の開拓を進めることに軸足を置いているようだ。
もっとも、一昔前は最低でも100万円近いオーダーの専用機器と専用の設置場所を用意してやる必要があったVRの技術が、今やWindows 10搭載PCに5万円程度のHMDを足すだけで普通の企業やプロジェクトでも活用できるようになったわけで、その点ではPCをベースとした幅広いVR活用の浸透に向けて大きな1歩を踏み出したと評価できる。
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