iPhoneはどのように進化するのか。
世界中のIT関係者が固唾をのんで見まもる中、米AppleのCEOのスティーブ・ジョブズ氏が「iPhone 4」を取りだした。会場内から湧きあがった歓声が静まり、ジョブス氏が8つの注目ポイントと、“One more thing...”の「Face Time」を披露していくと、歓声と、うめき声ともつかない嘆声が会場内に満ちていった。
Appleはどこまで先を行くつもりなのか……。
現地時間6月7日、Appleは「iPhone 4」を発表した。
筆者はそれをキーノートスピーチの会場で目撃し、その後に実際に動くiPhone 4に触れる機会を得た。そこで今回のMobile+Viewsでは、iPhone 4の魅力と優位性、そしてそのインパクトについて考えてみたい。
“This changes everything. Again.”
会場内の横断幕に、そう掲げられた。このキャッチフレーズは日本語のiPhone 4サイトでも使われている。曰く、「すべてを変えていきます。もう一度。」だ。
この言葉のとおり、Appleは2007年に初代iPhoneで“再発明”した世界を、自らの手で再構築しようとしている。くしくも2009年は、iPhoneに触発され、対抗するスマートフォンが台頭。さまざまなメーカーが「打倒iPhone」を掲げてAndroidやWindows Phone搭載の新モデルを繰り出してきた。それらライバルを大きく引き離し、これまでのiPhoneシリーズによって生みだされた世界を再び大きく変える。これがiPhone 4のシンプルなメッセージだ。
実際のところ、今回のiPhone 4は一分の隙もない。
詳しくはリポート記事で書いたが、従来からの強みであった外観デザインや優れたUIデザインはさらに洗練されて、ライバルを再び大きく引き離した。とりわけ注目すべきは、以前にも増してアニメーションの滑らかさや各種機能のキビキビとした動きが増したことだろう。指に張りつくようなナチュラルな操作感は依然として健在であり、ライバルメーカーがなかなか追いつけないところだ。
基本性能も大きく底上げされた。
iPhone 3GSではハーフVGA(320×480ピクセル)だったディスプレイはiPhone 4では640×960ピクセルに高解像度化された。しかも単純にスペックを向上させるだけでなく、フォントや表示性能の見直し、あざやかなIPS液晶とLEDバックライトの組み合わせによって、これまでのケータイ/スマートフォンとは別格の美しさを実現している。“Retina Display”(網膜ディスプレイ)という名前は伊達ではなく、人の目で見たときに素直にきれいと感じる絵作りがされているのだ。
各種センサー類の充実も見逃せない部分だろう。
カメラは500万画素になっただけでなく、裏面照射型CMOSを採用し、センサーサイズも大型化させて“画質のよさ”にこだわった。LEDフォトライトも搭載されたので、室内や暗所での撮影で苦労することもなくなった。また単純なスペック向上だけでないのは他の部分と同じで、カメラの起動や撮影の操作感はサクサクと動き、フォーカスや撮影後の各種操作も直感的で分かりやすい。HD(ハイビジョン)の動画撮影が可能になったことで、「iMovie」アプリも合わせて発表されたが、こちらも驚くほど使いやすかった。動画編集というと小難しいイメージがあるが、iPhone 4とiMovieの組み合わせだと、気軽に動画を撮影・編集して、動画共有サイトやSNSで利用できる。“使いこなせること”を重視したカメラ性能の向上なのだ。
センサー系では「ジャイロスコープ」の搭載も注目だ。これは従来の加速度センサーや電子コンパスと組み合わせて使うもので、空間上での正確な動きや向きを検知できるというもの。このAPIはiPhoneアプリに公開されるため、今後はARやゲームをはじめ、さまざまなアプリやサービスのUI要素として活用されるだろう。
総じて言えば、今回のiPhone 4は全体的な基本性能が底上げされ、スペック部分でも他社のスマートフォンやケータイに見劣りする部分がなくなった。むろん、個別のデバイスで見ればiPhone 4を上回るものを搭載した機種は存在するが、総合的な性能バランスの高さと、それらのスペックがきちんと“ユーザー体験の向上”に結びついているという点では、iPhone 4を上回るものは存在しないだろう。
スマートフォンなどモバイル端末においては、性能の差がユーザー体験の絶対的な差になるとは限らない。それをいみじくも体現してきたのがAppleのiPhoneであり、iPhone 4ではユーザー体験のレベルを大幅に向上させる性能向上を行った。「一分の隙もない」とは、そういうことだ。
そして、もう1つ。筆者がiPhone 4で特に感心したのが、「バッテリー持続時間」と「通話機能」という基本的な部分の性能向上に、しっかりと取り組んでいたことだ。
まずバッテリー駆動時間だが、iPhone 4は独自開発のプロセッサー「A4」を搭載したことで本体を小型化しながらバッテリー持続時間を延長した。連続待受時間は最大300時間とiPhone 3GSと変わらないが、3G通話で7時間(420分)、3GでのWebブラウジングは6時間(360分)、音楽再生は40時間と持続時間が延びており、改めて実機で検証する必要はあるが、体感的な“バッテリーの持ち”はかなりよくなっていそうだ。
バッテリー持続時間向上への取り組みはすでにiPadで先行しているが、AppleはA4向けにiOSを最適化し、ソフトウェア制御で巧みに消費電力を抑えることでバッテリー持続時間を延ばしている。基本性能を向上し、高解像度のRetina(網膜)ディスプレイや6軸センサーなど多くの新デバイスを搭載しながらもバッテリー持続時間が減るどころか延びた背景には、A4とiOSを中心に「消費電力低減に向けた最適化」を行ったAppleの地道な努力があると言えそうだ。
そして、電話機能に付け加えられたノイズキャンセル機能も筆者が感心させられた部分だ。
iPhone 4のノイズキャンセル機能は、2つのマイクを使って通話音質を向上させるというもの。日本の携帯電話でも一部の機種で採用されてきた。このノイズキャンセル機能そのものは技術的に斬新とまでは言えないものだが、Appleが最もベーシックな「電話」の機能向上も忘れることなく、これをiPhone 4の標準機能として採用したことに意味がある。
過去、日本メーカーの携帯電話の中には“スリムデザイン”を実現するため通話用スピーカーやマイクに無理な設計を行い、聞き取りやすさなど通話品質を損なった端末がいくつか見受けられた。一方でiPhone 4は今回、大幅な高機能化とスリムデザインを実現しながらも、コミュニケーションの基本である電話の機能向上をきちんと行ったのだ。初代iPhoneで「ビジュアルボイスメール」機能を導入したときもそうなのだが、iPhoneは地味だが重要な部分の進化も大切にする。この姿勢は高く評価したいところだ。
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