Android元年、キャリアの役割も変化する――auのスマートフォン戦略(後編)神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)

» 2011年04月22日 10時00分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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台頭する海外端末メーカー、国内メーカーの今後は

―― 現在、ドコモなどでも、端末ラインアップに海外メーカー製がどんどん増えています。スマートフォンだけでみれば、ソニエリも一応、海外メーカーと位置づけると明らかに売れているものは海外モデルです。国内メーカーと海外メーカーは、今後どうなっていくと思われますか。

増田氏 まず、海外メーカーに対するアレルギーが本当に今、なくなっていますよね。

―― やはりそう感じますか。

増田氏 感じます。iPhoneが出たときの、ギークな方以外のあの反応、「Appleプロダクトでもこんなになっちゃうの?」という感じでした。僕らのようなギーク層はiPhoneに初めて触ったとき、「これ、いいじゃん」って思ったんですが、一般の方は「そんなに身構えるんだ」と思ったくらい、海外メーカーの初物に対してネガティブでした。でも今は、こうした抵抗感は薄れたと思いますね。LGもSamsung電子も、HTCもそうでしょうけど、このあたりのブランドは日本に入って歴史も長いですから、抵抗感は全くないんじゃないですかね。

―― そのあたりは日本市場におけるAppleとソフトバンクモバイルの貢献も大きいでしょうね。AppleがiPhoneの一般ユーザー層向けマーケティングやブランディングをしっかり行い、ソフトバンクモバイルが日本市場へのローカライズでAppleをサポートした。iPhoneが日本市場を開国させた、という一面は確かにあると思います。

 その後、昨年になってソニエリやSamsung電子のスマートフォンが健闘したこともあって、日本にあった「日本メーカー神話」が急速に薄れていきました。

増田氏 お客様は自分にとって必要かつ十分なものが揃っていれば、国籍でメーカーを区別しないと思いますね。PCだって、DELLやHPが外国製だなんて、今やあまり意識しないじゃないですか。ややこしい英語だけしか出てこないマシンだったら、そりゃ抵抗があるかもしれませんが、日本語しか出てこないわけですし。

Photo

―― ちゃんとローカライズしていれば、メーカーが日本か海外か、といったところは気にしないと。でも、そうなると日本メーカーは苦しいですね。

増田氏 苦しいですね。

―― これからミドルレンジの人が入ってくることを考えると、日本メーカーが得意とする「キャリア向けに作り込んだ端末」の需要も高くなるのではないでしょうか。

増田氏 どっちがよく見えるか、なんです。日本メーカーがこだわって作ったものが「やっぱりこっちだよね」というものに仕上がれば、おっしゃる通りだと思います。それが、僕らもまだ見えていません。

―― スマートフォンに限っていうと、競争軸が国内だけではなくなっている面もあります。グローバル市場の中で、いかにローカライズをするのか。このあたりのさじ加減が難しい。

増田 そうかもしれないですね。日本のことをあまりに強く意識してものづくりをすると、逆に失敗するかもしれません。海外で戦えるものを日本に持ってくる、というくらいの意識じゃないと、日本でも勝てないかもしれない。

―― そこは今回のMWCで強く感じました。そこで残念だったのが、国内最大手であるシャープが出展せず、まったく(MWCで)存在感を示せていなかったことです。一方で、富士通は今は純然な日本メーカーですけれども、MWCで存在感を示そうとしていた。海外で名乗りを上げて、日本に入る。そのような意志は感じました。

増田氏 それも1つの解かもしれませんね。日本ブランドはまだ強いですから、そこでちゃんとしたものが出せて、海外で評価が高まれば日本でもスムーズにいくでしょう。

Photo MWCに出展した富士通

―― 日本市場の中で、さらには特定キャリア向けの作り込みにこだわりすぎると、グローバル市場での競争には不利になってしまう。

増田氏 キャリアもそのあたりは反省しています。今では「(日本市場向けのスマートフォンとして)少なくとも、これとこれだけはやって」というのは、本当に最小限にしているので、国内向けにするのは、Feature Phoneの時代ほどそんなに大変じゃないと思いますよ。

 今は日本とか海外とかいっていますけど、1年後はあまりいっていないかもしれないですね。売れるものをいかにして作るかが重要で、今の時代、日本的なものが売れるのか、それとも、そこにこだわらなくても売れるのか、ということをちゃんと考えた方がいいと思います。

―― 日本メーカーの国際競争力を高めるためには、キャリアが商戦期縛りを外すことも必要と考えますが、いかがでしょうか。日本のメーカーは、どうしてもキャリアのスケジュールに振り回されている部分がありますので。

増田氏 そうですね。海外もCESやMWCを狙って新製品を出してきていますから。

―― グローバルメーカーは、自らの戦略に基づいたスケジュールでモノづくりをしていますね。商品企画やマーケティングの自由度も高い。キャリアと連携していますが、他メーカーと(スケジュールの)足並みを揃えることを強要されてはいません。

増田氏 確かにそのような一面はありますが、我々もそれほど(日本)メーカーに縛りをかけているわけではありません。我々は、「僕らが欲しいものは、このあたり」という感じなんですね。

  その時に海外メーカーさんは大量のラインアップの中から、「じゃあ、それにはこれ、ここにはこれ」といって提案される。引き出しが多いんですよ。そういった点では日本メーカーさんの引き出しはまだまだ少ない感じがします。グローバルで戦っている人は、「そこが欲しいんであれば、じゃあこういうのがありますよ」という見せ方なんです。

―― グローバルメーカーはマーケットのパイが大きいですからね。そのラインアップの中から、日本のキャリアが求めるものを選ばせる。一方、日本メーカーはキャリアに端末を買い上げてもらわなくてはならないので、どうしてもオートクチュールになる。

増田氏 それがあるかないかで、すべて決まってしまう世界なんですね。そこで戦わなくてはいけないのは、おっしゃる通り辛いと思います。だけど、かたや「そこが欲しいんだったら、じゃあこの中からどうぞ」という(海外)メーカーがいる。そして、本当に端末に競争力があったら、「調達しないと他キャリアから出るかもしれない」という恐怖感がこちらにはあるんですよ。UMTSかCDMAの差は、今はほとんどないので、「僕らがこれをいらないっていったら、向こうに行くのか」と思う。別の悩みが新たに出てきているんですよ。

―― では日本メーカーも、「特注品で作るからキャリアが一定数は買ってくれなかったら困る」という形ではなくて、グローバル市場向けに豊富にラインアップを用意して「この中からどうぞ」と選んでもらうような形にする必要がある。海外メーカーと同じようなビジネスの作り方をしていかないとだめだ、と。

増田氏 そうですね。もちろん、他にはない何かすごく光るものがあれば、それはいいと思いますよ。例えばNECカシオモバイルコミュニケーションズは、防水やタフネスといった独特の強みでアメリカや韓国のマーケットで勝負されたじゃないですか。他が入ってこなさそうなところを持っているならそれでもいいと思いますが、やっぱりグローバルベンダーは品揃えがものすごいですよ。

―― そうですね。上位のSamsung電子やソニー・エリクソン、HTC、モトローラなどはもちろんですが、中堅のファーウェイだって、グローバルモデルは豊富なラインアップを持っていますよね。

増田氏 持っていますね。潤沢なプロダクトポートフォリオの説明を聞いて、「どれでもどうぞ」みたいにいわれると「う〜ん」となりますね。

―― キャリアさんとしても、そこから何を選んでどうローカライズするか、になりますね。

増田氏 汎用的になればなるほど、グローバルOEMとのお付き合いをすればするほど、たくさんの中から選ぶことができます。そうなるとそこでの目利き、その時期、その時期で何を選ぶかが重要になると思います。

―― では最後に、2011年のauのスマートフォンがどうなるのかということをお聞きしたいと思います。

増田氏 去年は、最後発というところが出発点だったと思います。秋冬のIS03以降、我々が出しているスマートフォンをお客様がどう感じてらっしゃるかフィードバックをいただくと、我々が志向している方向性は間違っていないと思いました。でも、このバリエーションをもっと広げなくてはならないし、海外メーカーのものも、当然、品揃えとして必要だと思っています。

 まず、バリエーションを増やしていくことが今年の1つの大きな方向性だと思っています。また、バリエーションが増えた中でauらしさも必ず入れていけるように、いろいろと考えています。ぜひ期待していただきたいと思います。

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