受注のリアルタイム化で収益拡大 タブレットで変わる農業のIT化神尾寿のMobile+Views(1/2 ページ)

» 2012年07月11日 22時14分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 日本では、農業は斜陽産業というイメージがある。確かに農林水産省の統計だけ見れば、2011年時点の農業就業人口は260万人と減ってきており、平均年齢は65.9歳と他産業よりも高い。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)反対の動きなどを見ると、“日本の農業は弱い”という印象を受けてしまうだろう。

 そのような中で、日本の農業はIT活用と経営最適化で大きなチャンスがあると話すのが、いろどり代表取締役社長の横石知二氏だ。同社は料亭などの料理に添えるツマモノとして扱われる植物の葉や花を販売・供給管理する“葉っぱビジネス”を展開しているが、積極的なIT化と、農業版ジャスト・イン・タイムともいえる受注・生産のリアルタイム化を取り入れることで業績を大きく伸ばしている。さらに2011年からはNTTドコモ四国支社と共同でAndroidタブレットを導入・展開し、農業のモバイルIT化も強力に推進しているのだ。

 農業分野におけるモバイルIT導入のメリットはどこにあるのか。また、タブレットはどのように農家で活用されているのか。四国・徳島の現状をリポートする。

農業は「IT化」と「コンビニ化」が重要

Photo いろどり 代表取締役社長の横石知二氏

 「農業はIT化が遅れている。ITの活用と、それによる経営の効率化ができていない」

 いろどり社長の横石知二氏は、JAに勤めていた頃にそう痛感していたという。日本の農業はとかく海外の大規模農業に対する競争力向上が課題とされてきた。しかし、それは間違いであると、横石氏は喝破する。

 「大規模農業を目指す中で、(日本の既存農業では)細かいことはやりたくない、という風潮がある。しかし、これは間違い。日本は大型農業には向いていません。むしろ、小さく細かく、フットワークよく高収益で確実な需要のあるものを生産・出荷する。いわば、『コンビニ型農業』を目指すべきなのです」(横石氏)

 このコンビニ型農業のモデルを築く上で同社が重視したのが、「複数の販売先を確保する」「需要に対して最適かつ迅速な出荷を行う」ということだ。複数の販売先を確保することで総需要が平準化するようにし、その上で適正価格が維持されるように“納品しすぎない”ようにする。必要とされる品目を、必要なタイミングに応じて必要量だけ納品することで収益性を高めているのだ。

 このような取引形態は、ジャスト・イン・タイムがあたりまえになった製造業や流通小売業では当然のことと思うかもしれない。しかし農業では、このスキームが決定的に弱かったのだという。

 「ようは作物が収穫できただけの量を、需要の変動にあわせずに出荷してしまうのがあたりまえだったのです。当然ながら、同じ時期に(収穫したからと)需要を上まわる供給が集中すれば、価格が維持できない。

 そこでいろどりでは、複数の販売先からの発注を受けてから、農家に収穫・出荷を促すシステムを構築しました。これならば需要が先にありますから、『購入先が決まっていないのに出荷して供給過多となり、安く買い叩かれる』ことが防げます。さらに過去の需要・供給量のデータベース化も行い、需給量を可視化しました。現在では収穫量の約7割を受注出荷で適正価格で販売し、残り3割はJAにグロスで販売するというモデルで収益性を高めています。需給ギャップを的確に埋めれば、最も利益率が高くなります。このあたりまえの仕組みを、農業にITを持ち込むことで実現したのです」(横石氏)

 この農業のIT化・最適化において、横石氏に強いインスピレーションを与えたのが、タブレット端末だった。初めてそれを目にしたとき、「ああ、これだ」と膝を叩いたと横石氏は述懐する。

 「タブレットを見てですね、(タブレットを活用した)新しい農業のアイデアが、ぶわっと30くらい浮かびました。農業は人が動く範囲がとても広いので、IT化をするといっても、机の前にいなければならないような形では成り立ちません。しかし、タブレットには、そういった場所の制約がないのです。

 また日本では、農業従事者は65歳以上が半数を占めています。いろどりのビジネスに参加している農家の方には、最高齢で90歳近い方もいるのです。彼らに抵抗感なくITのサービスを使ってもらう上でも、タブレットには大きな可能性がありました」(横石氏)

ドコモのAndroidタブレット90台で、リアルタイムな受注を実現

 このような背景があり、いろどりではドコモ四国支社と共同で、農業分野でのタブレット活用を模索。2011年1月にGALAXY Tabを50台導入するところから始めて、2012年現在では約90台のAndroidタブレットを農家で利用してもらっている。

 「農家でタブレット端末を使ってもらう際には、『簡単に使える』ことと『どこでも電波が入るエリアの広さ』が絶対条件です。まず、簡単に使えるという部分では、(Wi-Fiルーター連携ではなく)通信機能内蔵が重要です。さらに画面のボタンを大きくし、メニュー構造もシンプルになるよう腐心しました。そして、エリアの部分も重要でした。ここ徳島県上勝町などは特に顕著ですが、日本の農業では山間部に田畑があることが多いです。いわゆる、棚田が多いわけですね。そこできちんと電波が入るかどうかが重要になります。その点(山間部まできちんとエリア化されているかどうか)で、ドコモ以外の選択肢はなかったのが実情です」(横石氏)

 筆者は今回の取材にあたり、実際に徳島県上勝町のいろどり本社や農家まで足を運んだが、そこでもドコモのサービスエリアがしっかりと構築されている一方で、山間部や山あいの道ではソフトバンクモバイルのiPhoneは圏外ばかりになっていたのは事実である。このサービスエリアの差が、ソフトバンクモバイルの扱うiPadではなく、ドコモのAndroidタブレットが採用された要因の1つと言えるだろう。

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