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» 2000年09月08日 12時00分 UPDATE

IT Business フロントライン(5):日本の流通に一石を投じたiMac〜商品力で営業力をカバーした2年間〜

[三浦優子(コンピュータ・ニュース社),@IT]

 アップルコンピュータが発売した「PowerMacG4 Cube」の売れ行きは、一応、順調な滑り出しを見せた。私の会社で出している9社のパソコンショップデータを集計したBCNランキングでは、初日にデスクトップパソコンの14%のシェアとなった。最近は、トップシェアの製品でも1けた台のシェアが多かったことと比較すれば、「やはりMac強し」を印象づけた。おそらく、今年に入り下がってきていたアップルコンピュータのシェアもこれでしばらくは持ち直すだろう。

 Cubeは、iMacの商品ラインではなく、G4のラインであるが、iMacが打ち出した、「筐体デザインの優位性」という面では間違いなく、iMacと同一ラインにあるといっていい。デザインを重視してパソコンを購入することに対しては否定的な意見もあるものの、販売実績や、その後にデザインを重視したパソコンが次々と登場したことを考えれば、間違いなくiMacはパソコンの歴史に残る名機といっていいだろう。

 だが、実は日本のパソコン流通にとっては、デザインよりも、「これまでとは異なる流通施策を敷いた」という面が大きかった。

 パソコンショップに行けば分かるだろうが、発売当初、iMacはどの店舗でも同じ価格で販売されていた。値引き不可能なギリギリの仕切り設定がなされていたからだ。これは後に、公正取引委員会でも問題になってしまったわけだが、アップルコンピュータ側はiMac発売当初、「商品販売後に、特定台数を販売した見返りにメーカーが報奨金を出すという日本型の取引の方に問題があるのではないか」という主張をしていた。この主張に対し、異論・反論もあるだろうが、アップルコンピュータの流通施策は1つの提案としては決して否定すべきものではないと思う。iMacも爆発的な人気を集めたし、販売店側も渋々といった様子ではあったが、大きな反論はなかったように記憶している。

 だが、違和感を覚えざるを得なくなってきたのは、5色のiMacが発売された時点で「店頭展示は5色同時に並べること」といった条件を出してきたあたりである。米国では大手販売店がこの条件に反発し、取り扱いをやめる例もあったが、日本では取り扱いをやめる店舗はなかった。そのため、非常に狭い店舗でもiMacが5色ずらりと並べられ、妙な展示風景ができあがっていくこととなったのだ。

 販売店側でも、オフレコでという前提であれば、アップルコンピュータへの文句が次々に飛び出してきたのはこの頃だ。表立って文句を言い出せば、商品入荷を減らされてしまうことになるから、公式にはクレームを出さないものの、胸の内ではアップルコンピュータへの不満が溜まっている販売店は少なくなかった。

 さらに、iMacはあれだけ台数が売れたのに、ソフトや周辺機器などの買い足しをする人が極端に少なかった。5色あるiMacに合わせたサプライ商品こそ、たくさん出てきて、コーナーも作られたものの、iMacを好んで買って行く若い女性層は、「新たにソフトや周辺機器を買い足すという発想がない、パソコン初心者が多い」というのがどの店舗でも一致した意見で、いわゆる「ソリューションビジネス」がiMacにはほとんど成立しなかった。

 つまり、販売店にとっては、iMacは本体はよく売れるけれども、ソフト、周辺機器の買い足しというアフタービジネスはほとんどない商品だったということになる。このあたりも、販売店がアップルに不満を抱く要因の1つだったように思う。

 販売店が不満を抱いていても、商品に力があるうちは売れ行きが落ちることはない。だが、商品力にかげりが見え始めたとき、販売店が不満を抱いている商品は、ほとんどプッシュセールスをしてもらえなくなる。今年になって、iMacの売り上げが低調だった要因は、商品に以前ほどパワーがなくなってきて、プッシュセールスをしてもらえる材料もない……ということだったと考えるのは、うがった見方だろうか? iMac発売以降は、新製品を発売してシェアを盛り返すというサイクルをアップルコンピュータが繰り返していたことからも、「アップルは営業力を上回る商品力で勝負する」という姿勢が見え隠れするように思うのだが。

 とりあえず、Cube投入で商品力が盛り返してきてはいるが、はたしてこの状況はいつまで続くのだろう。iMac発売から2年、この戦略は成功してきたわけだが、実はある出版社がMac専門誌を休刊する予定だというニュースを聞いた。このあたり、「本体以外はほとんどもうからなかった」ことを象徴しているのではなかろうか。

Profile

三浦 優子(みうら ゆうこ)

1965年、東京都下町田市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、2年間同校に勤務するなど、まったくコンピュータとは縁のない生活を送っていたが、1990年週刊のコンピュータ業界向け新聞「BUSINESSコンピュータニュース」を発行する株式会社コンピュータ・ニュース社に入社。以来、10年以上、記者としてコンピュータ業界の取材活動を続けている。

メールアドレスはmiura@bcn.co.jp


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