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» 2002年07月26日 12時00分 UPDATE

IT Business フロントライン(89):中古車業界、ネットで大変貌の予感 ネットークションでクルマを売買する時代

[高橋智明,@IT]

 以前掲載した「モバイルはネットビジネスの主役か?」(第83回)でも触れたが、インターネットの登場で最も影響を受けた業界といえば、いまのところ証券業界と旅行関連業界ではないだろうか。個人の株式取引では、サービスの登場から3年で約4割がネットに移行した。ホテル予約サイトの「旅の窓口」は毎月50万件の予約を成立させており、全日本空輸の今年のネット予約は1000億円を超えそうだ。

中古車業界の構造

 この2業界に続いてネット化の波に洗われそうな業界の1つが、中古車業界である。中古車業界の市場規模は、一般に想像されるよりもかなり大きい。1999年度のデータを引用すると、新車の販売台数が586万台、総出荷額が7兆2900億円であるのに対して、中古車の登録台数は546万台、総販売額は2兆7300億円に達している。台数では、新車とほぼ変わらない規模であるわけだ。

 今後、中古車業界のネット化が進展するのではと筆者が考えるのは、業界の流通構造や価格決定の仕組みが公正で効率的であるとはとてもいえない状態にあるからだ。

 中古車業界の流通構造は複雑である。中古車を専門に扱っている業者は、全国に約1万3000社あるといわれている。この中には、さまざまな車種を総合的に取り扱う業者も入れば、“ポルシェだけ”など、ある車種に特化した業者もいる。買い取りと一般消費者への販売を両方行っている業者もいれば、買い取りだけ、販売だけの業者もいる。それだけではない。新車ディーラーも、中古車の買い取り・販売を兼務していることがほとんどだ。

 一般消費者から買い取られた中古車はそのまま展示販売されるか、業者だけが参加できるオークションに出品される。いったん、店頭に展示されても、約2〜3カ月のうちに売れなければ、結局はオークション行きとなる。より高い値段で取り引きされそうであれば、東京で買い取られたクルマが東北のオークションに出品されることもあるし、同じクルマが買い手のつくまで複数のオークション会場を巡ることもある。

新車よりも儲かる中古車販売

 中古車販売の平均的なマージンは30〜50%とされており、新車と比較してかなり高い。

 中古車は車種や年式、グレードなどが同一でも、1台ごとに状態が異なる。そのため、価格もすべて異なってくる。消費者には自分が買おうとしているクルマの適正価格がいくらなのかが分かりづらい。中古車専門誌には価格一覧が掲載されているが、あくまで目安でしかない。また、消費者は地理的な制約や時間的な制約から、自分が買いたいタイプのクルマを何十、何百も見比べるわけにもいかない。

 そのため結局、業者の言うことを信じて購入を決断せざるを得ない傾向にある。この点が、中古車業界のマージンを高止まりさせている。つまり中古車販売業とは、圧倒的に業者側に有利な構造になっているわけだ。

 業界が非効率・不公平な状態にあり、特定のポジションにあるものが適正な水準を超えて利潤を得ているところにネットが普及すると何が起こるかは、冒頭で言及した証券業界や旅行関連業界の例を見れば明らかだ。

インターネットが法人と個人が対等に

 ネット普及の突破口は、ネットオークション上での個人間売買となりそうだ。ネットオークション最大手のヤフーでは今年4月に、クルマの個人間売買をサポートするサービスを導入した。このサービスは、代金の回収やローンの設定、名義変更などを代行するもの。対象となっているクルマが、本当に売り手が主張する状態にあるのかどうかをプロが査定するサービスや、クルマの配送を手配してくれるサービスもある。このサービスを導入してから、Yahoo!オークションで成約するクルマの台数が数倍に増えたということだ。

 世界最大のネットオークションである米イーベイには常時1万台を超える中古車が出品されており、ネットで中古車を購入することはもはやそう珍しいことではなくなっている。ただし、日本でも米国と同様の状況を期待するには、米国よりも厳しい自動車の登録制度の問題をクリアしたり、個人間売買にそれほど慣れていない日本人でも安心して取引に手を出せる仕組みが必要だ。その意味でも、ヤフーの取り組みがどの程度まで成功するかは、注目に値する。

 ネット上でのクルマの個人間取引に拍車がかかれば、中古車ビジネスに関わる既存の企業は中抜きされるのではとの危ぐを抱くかもしれない。しかし、決して法人が取引の場から排除されるわけではない。

 要は法人と個人が同じ立場、同じ場所で取引できるようになるだけだ。実際、Yahoo!オークションでは、法人と個人が混在した状態で出品している。効率的で分かりやすい流通網と、より透明な価格形成機能を持つ市場が登場することになれば、結局は中古車業界の拡大につながるだろう。

Profile

高橋智明(たかはし ともあき)

1965年兵庫県姫路市出身。某国立大学工学部卒業後、メーカー勤務などを経て、1995年から経済誌やIT専門誌の編集部に勤務。現在は、主にインターネットビジネスを取材している。


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