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» 2002年08月09日 12時00分 UPDATE

IT Business フロントライン(91):SE派遣業者に職安が違法警告 ネット時代に対応できない現行の法制度

[高橋智明,@IT]

 SEなどIT関連専門に人材サービスを行っている企業が、労働者派遣法に違反しているとして公共職業安定所(職安)から警告を受ける事態が起こっている。背景には現行の派遣法が、ネットワーク時代のサービス業の在り方やIT業界での働き方に対応し切れていない点がある。

業界でありふれた外部委託が違法

 職安から警告を受けているのは、大手人材派遣業者、S社の子会社で、SEの派遣やシステム開発の請負などを行っているA社である。問題となったのは、次のような形態のサービスだ。

 仮に大企業X社が、あるシステム開発をA社に発注したとする。このとき、X社とA社とは業務委託契約を結ぶ。実際の業務は、A社の社員、あるいはA社と契約を結んだ人がX社に詰め掛け勤務することになる。

 しかし、仕事のできるSEは昨今どこでも不足がち。A社が確保した人材だけでは足りないことが往々にしてある。こうしたとき、A社は同業のB社を孫請けとして、業務を2次発注する。さらに、B社がC社をひ孫請けとして利用することもある。B社とC社の社員はいずれも「A社の社員」としてX社に来ることになる。X社から見れば、すべてA社の社員という状態だ。

 ここまで読まれた読者の多くは、「これは外部業者に委託してシステム開発やソフト開発を行うときの普通のやり方だ」と思われるに違いない。しかし、労働者派遣法を厳密に適用するとこうしたやり方が違法と判定されることもある。

派遣と業務請負を分ける境界

 労働者派遣法では、派遣行為を「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」と定義している。そして同法は、「労働者派遣の役務の提供を受ける者は、派遣元事業主以外の労働者派遣事業を行う事業主から、労働者派遣の役務の提供を受けてはならない」と二重派遣を禁じている。これは、派遣の丸投げを防いで中間搾取をなくすための項目である。

 もしA社やB社、C社の人間が、それぞれの企業の勤怠管理や指揮命令の下に勤務していれば、単なる業務委託であり労働者派遣法の出る幕はない。しかしそうではなく、X社の勤怠管理と指揮命令の下に勤務していると職安が判断すれば、A社からB社やC社への発注は二重派遣となる。実際に職安は、A社のX社に対するサービスは派遣であると認定したからこそ、労働者派遣法に基づいて警告を行ったわけだ。

 問題はこうしたサービスの在り方が業界では当たり前のもので、ほかの企業も日常的に提供しているという点である。つまり業界全体が、常に違法状態にあるといってもよい。

 ではなぜ、A社だけが職安に目を付けられたのか。実はA社は人材派遣大手のS社の子会社ということで、派遣事業者としての登録を行っている。これに対して同業他社は、自分たちの提供しているサービスが派遣ではなく業務請負としか認識していないのか、派遣事業者として登録している企業はほとんどない。登録がなければ職安の管轄外となり、検査の目が届いていないのだ。

 A社は現在、職安に業界の現状を説明するなど交渉を行っているようだが、最悪の場合、登録を取り消される可能性もある。

ITプロフェッショナルの実情に合わない労働者派遣法

 この問題に関しては、そもそもIT関連の人材サービスや業務委託サービスを既存の法制度で取り締まっていいのかという疑問がわいてくる。

 労働者派遣法が制定された当時、想定していた派遣サービスとは、中小企業や大企業の現場レベルが比較的短期の人手不足を穴埋めするために利用するようなものだったはずだ。仕事の内容も、アシスタント的な ものが中心になると考えていたに違いない。このため派遣される人の立場は、派遣元や派遣先と比較すると圧倒的に弱いとされ、法律上は相当に保護されることになっている。

 しかし現在、IT業界で行われているサービスはこうした想定とは大きく異なる。多いときには100人を超える人間が派遣先に常駐し、個々の人材はスキルを備えたプロフェッショナルである。しかも、企業の命運を左右しかねない戦略システムの開発を任されている、というケースも決して珍しくはない。

 インターネットの登場で企業の業務構造が変ぼうしつつあるが、その1つの側面はアウトソーシングの徹底活用である。システムや物流だけでなく、製造やマーケティング、財務、販売など、かつてなら競争力の源泉とされ社内で持つのが当たり前だった業務まで外部に出すようになっている。主体となる企業が手掛けるのは、商品コンセプトの企画とブランドの付与だけという例さえある。

 もはや業務を遂行するのが正社員か契約社員か、社内の人間か社外の人間かなど、あまり意味を持たなくなってきている。こうした時代に、勤怠管理の方法うんぬんという基準で規制をかけるのは、労働者保護のメリットよりも業界の活力を失わせるというデメリットの方が大きいのではないだろうか。

※労働者派遣法=労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律


Profile

高橋智明(たかはし ともあき)

1965年兵庫県姫路市出身。某国立大学工学部卒業後、メーカー勤務などを経て、1995年から経済誌やIT専門誌の編集部に勤務。現在は、主にインターネットビジネスを取材している。


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