9月10日(現地時間)の発表以降、世間では「ドコモ版iPhone」の話題で持ちきりである。ドコモが発表する端末価格や料金体系、各種サービスの対応状況に人々の関心が集まり、日本では今回発表された「iPhone 5s」「iPhone 5c」という製品そのものと同じくらい、ドコモ版iPhoneが注目されているようにも思える。
ユーザーのドコモへの期待度も高い。
マイボイスコムが約1万2000人に対して行った緊急インターネット調査(外部リンク)によると、新型iPhoneの利用意向者のうち、NTTドコモでの利用を希望すると答えたのは全体の51.1%でトップ。次いで、KDDI (au)が26.2%、ソフトバンクモバイルが22.7%という結果だったという。とりわけ現在ドコモでAndroidスマートフォンを利用中のユーザーに関しては、その94.4%が「iPhone 5s/iPhone 5cを利用したい」と答えるなど、特にドコモユーザーが“ドコモ版iPhone”を熱望していたことが分かる。
iPhone 5s/iPhone 5cの発売が今週金曜日(9月20日)に迫る中で、今回初となるNTTドコモの参入はどのようなインパクトを持つのか。それを考えてみたい。
大手3キャリアがすべてiPhoneの取り扱いを始める中で、キャリア選びで注目が集まるのが、まずは通信ネットワークの部分だ。iPhone 5からはLTE対応が競争軸になっているため、その傾向はさらに強くなっている。
ドコモは周知のとおり、国内で初めてLTEサービス「Xi」を開始。他社よりも早く、そしてより多くのLTEユーザーを収容してきた。その結果、LTEネットワークの構築・運用ノウハウに関しては自信があると、NTTドコモ 無線アクセスネットワーク部 無線企画部 担当部長の平本義貴氏は話す。
「ドコモのXi (LTE)ネットワークは実効通信速度を重視しています。最大通信速度の数字は店頭競争でのインパクトはありますが、お客様が実際に使って快適でなければ意味がありませんから」
ドコモは現在、2.1GHz帯を中心にLTEネットワークを構築しており、それを補完する形で800MHz帯と1.5GHz帯のLTEを運用。さらに2013年冬には最大150Mbpsとなる1.7GHz帯LTEも運用開始される計画だ。ドコモ版iPhone 5sとiPhone 5cでは、この中で2.1GHz帯と1.7GHz帯、800MHz帯に対応する。なお、1.7GHz帯はドコモが今秋のサービス開始を予定している最大150Mbpsではなく、最大100Mbpsでの対応になる。最新の1.7GHz帯150Mbpsサービスに対応しないのは残念なところだが、ドコモでは2.1GHz帯の高速化(75Mbps化)と最適化を進めており、「実効通信速度は他社に引けを取らない」(平本氏)という。
「FOMAからXiへのユーザー移行に伴い、2GHz帯の10MHz帯域幅での運用を拡大しています。さらにネットワークの混雑状況を日々モニタリングし、遠隔操作で基地局同士の最適化をきめ細かく行っている。こういった細やかな調整が、実効通信速度を速く保つには重要なのです」(平本氏)
利用者の多い繁華街などで、ユーザーが急増したときにも実効速度があまり落ちないようにする。平均的に、そこそこ速い。それがドコモのLTEの特長と言えそうだ。
実際、筆者は今回、東京渋谷区の恵比寿ガーデンプレイス付近や、中央区銀座の銀座三丁目交差点(Apple Store銀座前)付近で、あえて日中の人が多い時間帯にXiのベンチマークテストを行ったが、いずれもダウンロードの平均速度が20Mbps程度でていた。この“速度が落ちにくい”という優位性を、iPhone 5sやiPhone 5cが発売されても維持できるかは注目だろう。
恵比寿ガーデンプレイス付近 | 銀座三丁目交差点付近 | |||
---|---|---|---|---|
ダウンロード (Mbps) | アップロード (Mbps) | ダウンロード (Mbps) | アップロード (Mbps) | |
1回目 | 20.36 | 7.81 | 16.56 | 1.43 |
2回目 | 25.18 | 5.48 | 17.62 | 3.35 |
3回目 | 26.27 | 9.74 | 19.5 | 4.48 |
4回目 | 27.09 | 8.71 | 21.52 | 1.23 |
5回目 | 22.94 | 7.98 | 18.53 | 2.63 |
平均 | 24.368 | 7.944 | 18.746 | 2.624 |
ドコモのLTEサービス「Xi」のフィールドテスト。「AQUOS PHONE ZETA SH-06E」を使い、恵比寿、銀座ともに2.1GHz帯の75Mbpsサービス下においてベンチマークを行った。平日昼間の繁華街でも、実効通信速度が平均的に高く維持されていることが分かる。 |
一方、地方エリアへの対応はどうか。
KDDIでは今回のiPhone 5s/iPhone 5cでの競争にあたり、800MHz帯LTEをベースバンドに他社よりも広いLTEエリアを訴求する。ドコモは地方でも2.1GHz帯のXiでエリア展開をしており、800MHz帯LTEの利用は限定的だ。そのためLTEエリアの広さという点では、当初はKDDIのiPhone 5s/iPhone 5cよりも狭く見える可能性が高い。
平本氏は「いずれはFOMAエリアと同じ広さで、Xiエリアを面展開する考え」だと前置きした上で、地方郊外でのLTEネットワーク拡大に対して課題を呈する。
「(地方郊外や山間部などで)LTEの面展開をする上で最大の問題なのが、基幹ネットワークと基地局を結ぶバックボーン回線をどうするか、なのです。LTE基地局用のバックボーン回線は、光ファイバーなど大容量なものでないと意味がない。しかし郊外部や山間部では光ファイバーが引けない、引けてもかなりの高コストになってしまう場所が多い」(平本氏)
ドコモでは地方郊外や山間部などの“広くあまねく”の部分は、既存のFOMAプラスエリアなどを使いながら、今後は2.1GHz帯LTEと800MHz帯LTEの両方で地方のLTEエリアを拡大していく模様だ。
総じて言えば、今回のiPhone 5s/iPhone 5cにまつわる他キャリアとのネットワーク競争において、ドコモが他社を圧倒するような“飛び道具的”な要素はない。その点においては「800MHz帯LTE」を盛んにアピールするKDDIの方が訴求力があるし、宣伝上手と言えるだろう。
しかし、すでにスマートフォンを利用しているユーザーなら分かるとおり、LTEネットワークの善し悪しは単なるカタログ上の数字では測れない部分もある。ドコモの実効通信速度重視の姿勢は都市部での体感速度改善という形でかなり効果を上げてきており、地方の郊外や山間部では「ドコモのFOMAしか電波が入らない」という場所も少なくない。他社が広告や店頭で数字の大きさばかりアピールする中で、こうした地道な部分に対する評価と信頼がドコモの武器になりそうだ。
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